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第3章【一途に想うからこそ】

19罪 引っかかる思いと信じたい気持ち⑥

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 その表情に、その行動に、私は目頭が熱くなる感覚を受けてじわりと鼻が熱くなった。

「それは雪のいいところで、同時に危ういところでもある」
「……真兄?」
「他人を思うあまり、自分をないがしろにするな」

 どくん、と心臓が高鳴った気がした。私自身、自分をないがしろにしていた気は全くなかった。でも、第三者から見ればそう見えるのかもしれないという事実を今知った。

「祝福出来ること、他人を思いやれることはいいことだが、だからってそれは雪自身が“大丈夫なこと”とは違うぞ」
「――――思いやることと私が大丈夫なことは、別……?」

 私の行動基準は“他人”だった。誰かが喜んでくれるから、誰かが辛そうだから……だから行動してきた。喜んでくれることを、感謝されることを、人のために行ってきた。自分のことなんて二の次だった。私の気持ちなんて無視してきた。
 だって、私の存在意義は“他人のため”だから。
 私の言葉で喜んでくれるのが嬉しかった。他人のことを思って起こした行動で喜んでくれるのが、感謝されるのが嬉しかった。
 どんなに辛くても、どんなに悲しくても、私がどんな気持ちを抱えていたとしても、それを我慢して蓋をしてなかったことにしてしまえば、私は他人のことを思いやれる“優しい人間”に、そして“人に好かれる人間”になる事が出来る。
 ハブられるのはもう嫌だったから、嫌われたくなかったから、好かれたかったから、だからそうした。そうするしかなかった。

「他人からどう思われるかは……どう思われたいか、どう見られたいかは置いといて、雪の本心はどうなんだ?」

 そう問われてしまえば、私は口ごもってしまう。
 優しい人間、人に好かれるいい人間になりたいという思いを置いておいて、私の気持ちはどうなのか? 本心はどこにあるのか?

(そんなの……)

 こんな思いを言ってしまって嫌われないか、ハブられないか、離れられてしまわないか、それが不安で怖くて、私は声が喉に張り付いてしまったみたいに何も言葉を発せられなかった。
 目の前で私の本音を引き出そうとしてくれている真兄は、静の事を好いている人だ。そんな彼に、私の本心を告げてしまっていいのか疑問でもあった。
 少なからず私の本音は静の事を悪く言うものでもある。そんな本音を真兄に話していいものだろうか。

「…………俺には言えない、か?」
「……ごめん、なさい。私……」

 好きだと知っていたのにどうして奪うようなことをしたの?
 どうして協力するなんて言ったの?
 好きになったなら正直に言ってほしかった。
 隠れて付き合うようなことをしないでほしかった。
 協力するなんて嘘をどうして吐いたの?
 あの時、ヴェル君の口から事実を聞きたくなかったのに……そう言ったのに、どうして無理矢理聞かせようとしたの?
 真兄の事が好きだったんじゃないの?
 なんでヴェル君なの?
 わざとなの?
 私からすべてを奪うの?
 なんでいつも――――……私が誰かを好きになると、邪魔をするの?
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