神の壜ー零

ぼっち・ちぇりー

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グランディル帝国

世界は廻る

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「あの……」
 男は僕の思考を読んだように答えた。
「すまない。私の名前はベリックだ。ベリック・ボイド。」
「ベリックさんの家に、お母様はいないの? 」
 無神経な質問だ。この頃の僕は、本当になにも知らなかった。
「ここじゃない遠いところにな。」
 ベリックさんは続ける。
「お前はなぜ、ここに来た? 今日は火曜日だろう? 家庭教師は? 次の皇帝となるお前が、なぜ外をほっつき歩いている。」
 僕は息を呑んでから、思い切って彼に訊いた。
「神族は? 人間を豚のように扱っていたの? 」
 しばしの沈黙。
 気まずい、だが、訊いておきたかった。城の外の人間から。
 彼らの教えている歴史は本当に正しかったのか。
「本当だ。」
「だが、別に赦しを乞おうとは思っていない。我・々・がお前たちにしたことは、謝って赦されるものではないからな。」
 不意に麦畑のおじさんの言葉が脳裏をよぎる。
 身体が無意識に後ずさった。
「私は、お前を誘拐してシドを脅そうとも、お前を殺して怨讐をはらそうとも考えていない。」
 僕は恐怖からか、無意識に背中の探検へと右手が伸びていた。
 が、右手に冷ややかな柔らかい感触を感じて肩を落とす。
 振り返ると、クマのぬいぐるみ片手に僕の手を握るレンの姿がそこにある。
「大丈夫。私たちは怖くないよ。」
 セイがベリックの手を引っ張った。
「ねぇパパ。いつもの話、カーミラにも聞かせてあげて。」
「そうだな。カーミラにも聞かせてあげよう。」
 セイは誇らしげに胸を張った。
「お父さんはね、神族の王様だったんだよ。」
「そうだ……とあることがあって、その身を追われてな。だが今は、この子達と一緒に暮らせている。」
『とうの昔、神は二種類の人間をお造りになった。能力を持たない人間と、能力を持った超人的存在。彼らはともに手を取り合い、仲良く暮らしていた。』
『だが、ある日、能力を持つ人間は疑問を持ち始めたんだ。「持たざる者たちは、私たちに必要か? 私たちは彼らに沢山の恩恵を与えているのに、彼らは私たちになにも返さない。」と。』
『やがて力ある者たちは蜂起した。無能力者たちが彼らに叶うはずもなく、彼らは、一夜にして我々の配下となったんだ。』
 「グランディルの教科書に出た話とそっくりだ。」
 それから僕は新たな疑問が浮かんだ。
「なぜそれを僕に? 」
「……そうだな。これは懺悔だ。迫り来る良心の呵責に耐えるための。そして、我が子たちも大人になれば、私のこの物語の意味に気づく。そう信じている。」
「リティ……」
 彼は最後にそう一言呟いた。
「もう夕方だ。行かなきゃ。」
 ベリックが僕を引き止める。
「おい!! 」
 僕は振り返った。
「力の使い方を間違えるな。」
「時期グランディル皇帝の僕が間違う訳なんてないでしょ? 」
「いや、これは私への戒めだ。二度と間違わないための。」
 僕は胸を張って答える。
「間違わないさ。だって僕は皇帝になって世界を救うんだから。」
 あの頃の僕は愚かだった。いや、愚かなのではない、ただ無知だっただけだ。
 本当になにも知らなかったのだ。本当になにも。
 城に帰ると、乳母が待ち構えていた。彼女から逃げることに躍起となっていたため、今日の出来事は、まるまる頭から消えてしまった。
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