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二
第十六話
しおりを挟む落差があるほど傷を負う。安息を齎した日々は仇となり、負の制裁が下されていた。遂に身体に異変が生じ、嘔吐が止まらないのだ。
命が削られる感覚。
とても辛くて苦しいが、その先に待っているのが死であるならば、受け入れよう。儚い幸せを感じられたのだから、それでいいだろう。
帰り道、母はさりげなしにこう言った。
「お父さんとね、定年したらあんな所に住みたいね、って言ってたんだ」と。
瞬時に涙が込み上げた。
母はこれまでに一度も父親の話をしたことが、なかった。
仕事を休むと言い出したこと、懐かしいあの場所に再び足を踏み入れたこと、そして素晴らしい初日。それが全て、繋がったような気がした。
逃道が、示された。
自分は守る立場なんかではない、守られていたのだ。肩の力がすっと抜け、張りつめていた心が解き放たれる。
その憩いに身を委ねたい。この苦境から抜け出して、何処へでも連れて行って欲しい。そして二人だけで仲睦まじく、笑い合いながら生きたい。
あの頃のように。
……本当にそれで、いいの?
柵が膨らむ夢想に纏い付く。必死に振り払おうとするも、足枷の如く離れない。それでも黙せば終わる話であるが、ただ瑞樹はできずにいた。自分で自分の首を絞め、結果こうして衰弱の道を辿っている。地獄に直面する日を目前に恐怖が増大し、肉体を蝕んでいた。
「瑞樹、大丈夫?」
洗面所で口を濯いでいると、母の声がした。
青白い様を見るや、そっと頬に手を当てる。温もりが肌を伝い、浸透していく。体温計を、とリビングに向かう健気な姿が不憫だった。こんな足手纏いがいなければ、あの人は自由になれるのに。
ふらふらと自室に戻り、ベッドに倒れ込んだ。明日の登校はまず無理だろう。そうなると、日増しに足は遠のいて行く。
これでもう、終わりなのかな。
「しばらくお休みだね」
検温するなり母は嬉気に囁いた。
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