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第十七話
しおりを挟む三年一組 桜井瑞樹
「笑って笑って」
と言われ、笑えるような人間はそう居ない。最後だから、と期待に応え口元を緩め収まった写真がまた、見るに堪えない。
あれから一週間ほどして皮肉にも体調は回復に向かい、その間何気なく卒業アルバムを広げては眺めていた。もう捨ててしまったと思っていたが、クローゼットの奥底に眠っていたようだ。
だけど、どうしても見つからない。あの子の写真も、作文も、名前さえも。
出欠確認では毎日のように呼ばれていた筈であるが、不登校はこのように無き者にされてしまうのだろうか。本人の希望だから、との釈明は、在籍中から目もくれない奴らが言うセリフではない。
何か悪いことをしたわけでもないのに、あまりにも理不尽じゃないか。当事者はにんまりとして、しっかりここに写っているのに。
この忌々しい顔に傷をつけてやりたい。そんな衝動をグッと抑える。
こんな実態を目の当たりにしていたら、これこそが正常な世の中なのでは、と意思が揺らぐ。
ただ、そうだとしたら正義だとか助け合いだとか、幼い頃植え付けられたあの道徳は一体何だったのだ。そんなもの無意味ならわざわざ教える必要などないだろう。
この世は弱肉強食、力が全てであると教わった方がよっぽど覚悟ができるというものだ。周りの感覚とあまりにも掛け離れ過ぎて、もしかしたら、おかしいのはむしろ自分の方ではないかと思わされる。
不可解極まり、アルバムをバンッと乱暴に閉じて、クローゼットへ放り投げた。
玄関で靴を履く姿を、母親が心配そうに見つめていた。以心伝心、「行くんだね」とは言葉にしなくても、わかった。
ドアを開けると、すっと光が差し込んで来る。
心臓が一度大きくドクンと高鳴った。
瑞樹はその中へ一歩、踏み出した。
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