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三
第二十五話
しおりを挟む学校にいる者は皆敵だと思っていた。どうやらそれは、違うようだ。少なくとも、あの者に関しては。
同級生との鉢合わせを予期していないわけではなかった。だが、そんなのどうでも良かった。それ以上に成すべきことへの使命感が上回っていたから。
ただ、今となってはその情熱が揺らいでいる。それはあいつに会った時に、よく理解できた。みんなに知られたくない。築き上げた大切な仲間との関係を、壊されたくない。そんな気持ちが何よりも勝っていた。
「おはようございます!」
「あぁ、おはよう」
店長の目はいかにも悲し気だ。
「続けられないん、だよね」
葵が聞くと、皆の視線も同様に向けられる。見渡せば、また全員集っていた、初日のように。
司沙は昨日も閉店まで働いていた筈なのに、こうして朝来てくれている。茅野は携帯でよくメッセージを送ってくれた。手持無沙汰であった自身の携帯が活躍し始めたのも、この子のお陰だ。
「寂しいです。私みたいに週末だけでも来れればいいのに」
菜美、親切丁寧に付きっ切りで一から教えてくれた人。自然に笑顔で接客できるようになったのも、この子が傍にいて、支えてくれたから。
ここは、正に楽園のようだった。素敵な人達ばかりで暮らす国。
だからこそ守りたい。
立つ鳥は跡を濁さず、印象の良いままで終わるのが一番なのだ。この時ばかりは学校での我が素行を、憎んだ。
「また来れるようになったら、すぐに連絡します」
そう言って、頭を深々と下げた。
カウンターからぼーっと景色を眺めていた。談笑をする年配の女性。携帯で盛り上がる学生。夏の終わりを笑顔で締め括る、幸せな人々の何気ない日常。
もう少しでシフトも終わり、さよならだ。明日からはまたいつもの自分に成り果てる。暗くて、無気力で、から疎まれる非情の日々に戻るのだ。
ふぅと深くため息をつき、視線を落とす。プラスチックコーティングされたメニューが照明に当たり、反射していた。無我夢中で暗記したあの頃が思い出される。
しみじみそれを眺めていると、ふっと手が差し込んだ。
咄嗟に顔を上げると、
——あの子が、いた。
その瞳、吸い込まれるような、この感覚。
指を、差している。
それに気づいたのは、瞬きをし忘れていることに、気づいた時だった。
「あ、これ、おひとつ……」
舞い上がる中でも、薄々と認識しつつあった。
口が……利けないらしい。
「ありがとうございます! あのっ」
少年は品物を手にし、そのまま消えていく。ここから離れるわけにはいかない。
その様子に葵が「どうしたの?」と声をかける。
「あ、さっきの……」
「ん? あぁ、ルカ君ね」
?!
「え、ご存じなんですか?」
「よく施設の子に、声を掛けられてるの。ルカくーん!て。ふふふ、可愛いよね」
「あぁ、ルカ君が来たのかい?」
店長が奥から顔を出す。
「あの、施設って」
「うん、この近くにあるんだよ、施設が。身体の不自由な子、と言ったら、胸が痛いけれどねぇ」
そうか、そうだったんだ。
あの子の名前はルカ、そして口が、利けない子……。
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