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三
第二十六話
しおりを挟むルカ君へ
僕は以前君に助けてもらった者です。感謝してもしきれないくらい、恩を感じています。本当にありがとう。
瑞樹
こうして手紙を認めることなど人生初であった。
そして何度書き直したことか。口下手な人間は、書くことさえ不得手らしい。言いたいことが山ほどあるのに、文字にするとどうしても無機質になってしまう。とにかくここはシンプルに、ありがとうと伝えることが、最善なように思えた。
それを鞄に仕舞い、浮かない表情の小学生らと共に、いつもの道を歩く。
残暑はまだまだ厳しいのに、問答無用に始まる学校には辟易する。電車に乗りバスに揺られ、そこの角を曲がればという所で、気落ちが酷い。
二学期は始まりも終わりもなく息苦しい上、最長の学期という最悪さ。瞼を虚ろに塞ぎながら、ゆっくりとそこを曲がった。
何やら騒がしい。
校門付近に人が集まっているようだった。何事かと思いながら近づくと、どうやら報道陣らしい。生徒に強引に詰め寄り、マイクを向けていた。
どう考えても嫌な予感しかしない。引き返そうかと歩みを止めたが、時既に遅し。ひとりがこちらに気づき、ロックオンされた様子。仕方ない、とこのまま強行突破を試みる。
「すみません! ちょっとお話いいですか?」
物凄い圧に顔を伏せ、通り抜けようとした。更に二人三人と集まって来る。
「すみません! ちょっといいですか?」
「こちらで自殺をした生徒さんのことについて、ご存じですか?」
自殺……
「離れてください! 生徒に近づかないでください!」
生活指導の教員が間に割って入る。
まさか、あの子じゃないよな。
瑞樹は慌てて階段を駆け上がった。教室はやはり騒然としており、その中に対象の女子生徒を確認した。ほっと胸を撫で下ろし、席に着く。
「ねぇ、自殺って誰かな」
「誰だろうね、めっちゃ気になるんだけどー」
と盛り上がり、このクラスではないか、と探っている。
「取り敢えず、来てない奴のどれかだよねー」
「うん。花とか飾るのかなぁ」
その瞬間トラウマに、ドキリとする。デリカシーという言葉を、いつになったら学ぶのだろう。
そこでドアが開き、「皆さん、席についてー」と教師が入室する。
「先生、自殺した生徒って、誰ですか?」
勢い余ってそんな質問が飛ぶ。
「はい、静かにして」
と無視を決め込み、朝礼でされただろう伝言を坦々と流し始める。
報道関係者が来ているが、話さないこと、始業式の後は速やかに帰宅をすること、明日は通常通りに登校すること、云々の後は体育館へ促された。
ぞろぞろと修学旅行のように引率され、妙な空気のまま始業式が始められる。皆キョロキョロと欠員の確認作業が盛んであった。瑞樹もそれに倣いあちらこちらに目を運ばせ、ある人物を探していた。
それはあの三人組。
あいつらが元凶になっているのではないかと、懸念していたのだ。
ひとりはその大きな体格からすぐにわかった。ブスッとして前の者の後頭部を睨みつけている。もうひとり、下を向きポケットに手を突っ込んでうなだれていた。そしてもうひとり……を探すも、目で追える範囲にはいなかった。
「それでは教頭先生、宜しくお願いします。」
突如会場がざわついた。校長は不在の様子。瑞樹はその隙に後方を見回した。
「はい、静かにして下さい」
と衆を鎮め、万事平常通りの体裁で演説を始めた。
そんな有様では核心に触れるわけもなく、全校生徒を悶々とさせたまま、解散となった。
「ねぇ、瑞樹。今連絡網が回って来たんだけど」
帰るなり、母は怪訝な顔で言った。死んだ者の名前がそこで、明かされる。
瑞樹はしばし愕然とし、動けなかった。
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