新世界~光の中の少年~

Ray

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第三十五話

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 人ひとりいない電車に揺られながら、真っ暗な窓の外を眺めていた。
 ガタンゴトンの抑揚に鼓動も幾分掻き立てられる。上手く乗り継げば、最寄りの駅まで辿り着けそうだ。
 ルカが指差したこの画像。
 初日の出の海岸。
 その直感だけで、経路を検索、そのまま電車に飛び乗っていた。何の保証もあるわけではなく、帰りの交通手段さえない。ただ、衝動が収まらない。そうでもしないと一生後悔すると、思った。
 ちらほらと垣間見えた大きな建物の明かりは過ぎ去り、長閑な田園が広がるであろう暗闇の中を駆け抜けていた。その上には唯一の灯となる月。どうか間違いではないように、と願いを掛ける。
「……駅ー。お忘れ物のないように、ご注意ください」
 プシューっとドアが開くと同時に飛び降りた。
 外の更なる暗闇に、携帯の明かりだけが頼りとなる。電波がちゃんと届くように祈り、地図を片手に田舎道を走り出した。
 はぁはぁと、息が上がる。歩きで三十分と表示されたその道のりを、希望に縋りめげずに足を動かした。まだかまだかと、一晩中駆けたような疲労が襲う頃、ようやくあの駐車場が姿を現す。ふらふらと砂にもつれながら、長い長い松林の小道を通り抜けた。
 すると、海が広がった。
 ぜぇぜぇと肺に鈍い痛み。手を膝に当て屈み込み、うなだれた。その後大きく息を吸い込むと、「ルカ!」と叫んだ。
 そっと近づき、横顔が見えると、疲れは一瞬にして消えた。
 やっと会えた……
 瑞樹には満面の笑みが浮かぶ。
「あの……」
と声を掛けるも、反応をしてはくれない。
 積りに積もる言葉、それを全て呑み込み、共に目の前にある景色を眺めた。

 寄せては返す波の音。いつ聞いても変わらない、このリズム。揺りかごに揺られるような心地良さに身を委ねる。
 傍らではキラキラとした輝きをじっと見つめる姿。
 一体何を考えているのだろう……
 手を差し伸べてくれてからずっと、心を奪われている。
 君を探すため、バイトをし、そこで大切な仲間と出会った。 
 君の絵を描くため、アートに打ち込み、その喜びを知った。
 いつしか、死にたいと、思わなくなっていた。
 みんな、君のお陰なんだ。
「ルカ、ありがとう」
 すると少年はこちらを向き、そっと肩に、手を触れた。
 月光が照らすその瞳は尚々美しく、これまでに無いほどの力強さを感じた。
 瑞樹は「これ」と贈り物を差し出す。
 ほのかに微笑みを浮かべた口元。少年は受け取り、背を向けた。
「また、会えるかな」
 背中は次第に遠ざかる。
「ルカ……」
 声にならない声。足を上げるも、砂が纏わり付き、引き摺られる。
「ルカ!」
 彼の行く方向には、何かがあるようだった。
 じっと目を凝らすと、それは、無数の人影。

──何かが起こる

 血の気が一瞬にして引いた。
 妙な胸騒ぎ。嫌な予感しか、しなかった。
 群衆へ近づくとそこで、振り返る。
「ルカ!」
と力の限り叫び、追い付こうと駆け出したその時だった。

 少年は優しく微笑み、そして、
「そのままでいて」
と……叫んだ……

 えっ、と耳を疑った瞬間だった。
 眩い光が辺り一面を包み込んだ。
 瑞樹は不意に目を瞑る。
 そして再び瞼を開くと、そこには誰も、いなかった。
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