新世界～光の中の少年～

一

第四十七話

　美亜はウェブサイトを活用し、アマチュアのイラストレーターとして活躍しているようだった。溢れるバイタリティは、そこから来るのかも知れない。ましてや独学である。己を見据え、磨き、力を発揮し、それが世に認められている。
　比べて自分は、人の稼いだ金を浪費しながら、生半可でぐじぐじと勿体ぶっている。
　片手で粘土をぐにゃりと握り潰す。
　爪の間にグイと流れ込む痛み。

　普通の学校ってどういうところなの？
　美亜は興味津々で、聞いて来た。
　教師は長い物に巻かれ、生徒のことは放りっぱなし。ただ少しでも貢献すれば掌を返し、媚びて来る。そんな意地汚い大人が教師を名乗り子供を『教育』するところだよ。そして同じ様な人間になるべく、『育成』するんだ。
　これでは純真無垢な少女にとって酷である。考えた末、『美亜ちゃんのところの方が活気があって、素敵だよ』と、言い換えた。
　どうやら互いが互いの世界を羨んでいるようだ。瑞樹は隣の芝生という言葉を思い浮かべた。人間とは結局無い物強請りで、生涯満たされることはないのだろう。　結果悔いだけ残して、朽ち果てる。
　父は、どうだったのかな……
　そこで突如背後に禍々しい空気を感じた。ハッとして、手先を懸命に動かす。すると気配はフンッという鼻息と共に、遠のいた。
　滴る湿り気。汗はいかなる季節でも掻けるものらしい。瑞樹はタオルで肌熱を拭う。今回ばかりは周りを窺わないことに決めていた。余計なことは考えず、精神を目の前の物に集中させる。
　瑞樹はそっと作品に触れた。
　皆はどこまで進んでる？
　評価はどうなるか？
　この授業にいくら掛かってる？
　無心になろうとすればするほど、悪魔がふっと囁き、その度に身体が熱を上げた。目を閉じ深呼吸して、心を鎮める。これをすると、手が自然に動き出した。どうやら視界は思った以上に要らない情報を取り入れているようだ。
　その後瑞樹は、椅子へ腰を落とし、放心した。
　物体から突き出す無数の指は異様な雰囲気を醸していた。原形を留めるのは幾本のみ、あとは炎のように上方に揺れるか、或いは不自然な角度を指していた。手指など必ずしも五本である必要は、ないのだ。
　瑞樹は両手を組ませて仕上げ、こう名付けた。
『そのままでいて・・・』