48 / 56
一
第四十八話
しおりを挟む「ねぇ、ひとつ提案があるんだけど」
茅野は集会が始まると、一言目にそう言った。内容は、この冬休みに皆で旅行がしたい、とのこと。
「いいねぇ!」
と海斗はノリノリ、美亜は手を叩いている。そこで三人は瑞樹の顔を窺ったので、不器用な笑顔を作った。
「よし、決まりだな」
どうやら、決まったようだった。
帰って母に伝えたら、「いいじゃない!」とパチッと手を叩く。最近急患が多いようで、それならば私は出勤する、ということ。息子と年末年始は過ごそうと、いつも休みを取っていた。そういった意味では、自分が留守にすることが誰かの助けにはなるようだ。
こうしてとんとん拍子に話が進んで行く。その波に瑞樹は今一乗り切れていなかった。憂鬱がじわじわと心を不安にさせる。
修学旅行など楽しみにする人間の気が知れないほど、煩わしい行事であった。それでもサボらず参加したのは、他者が標的にならぬよう。
恐怖がピークに達するのは、明日から何をされるのだろうと想像する旅行前夜。ネットで体験談の数々を調べ上げ、対処方法を模索し当日に臨んだ。
ある生徒は裸にされ写真撮影をされた。
ある生徒は風呂場で性的な部分を弄られた。
ある生徒は脱衣所で服を奪われ、ネット販売された。
反吐が出るほどの犯罪行為を世は『いじめ』と呼び、悉く揉み消される。こんなことが罷り通っている学校が未だ通常運転されていることが不思議でならない。
案ずるより産むが易し。
予備知識の恩恵か、瑞樹は無事難を逃れていた。奴らは女子に感けている様子で、自分を弄ぶ時間がなかったようだ。それでもトラウマはしっかりと青春の一ページとして、刻まれた。
『葵さんも、司沙さんも来られそうだって! 店長はご家族と年末を過ごすから無理そうなんだけど。。菜美ちゃんはご両親に懇願中。来れたらいいな。』
ため息が漏れる。こんな中、自分はいいからなどと言えるだろうか。
海斗の一件以来、戒めとして嫌な顔ひとつしまい、とフレンドリーに努めていた。集会に参加したのもそれが故。ただここまでずるずると深く関わってしまうことには、心のどこかが拒否反応を示していた。
いよいよ腹を括らなければならないようだ。瑞樹はクローゼットを開き、画材用具を取り出す。携帯用として、ノートブックサイズのケースに一式を納めていた。
これは、お守りのようなもの。あるいじめ体験談で、漫画を全巻持って行きひたすらに読み耽っていた、という話を聞いた。そのアイデアを採用すれば思いの外、心の支えとなってくれた。
また御目にかかる日が来るとは、の眼でそれを見る。
そして、「また、よろしくね」と、呟いた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
鷹鷲高校執事科
三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。
東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。
物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。
各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。
表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる