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第11話 帰還を目指して
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「よっしゃ! このままこいつの傷口をぐりぐり~っと!」
俺はトライデントでティアマトの傷口をかきまわす。ティアマトは暴れ回っているが、その動きが徐々に鈍っていく。
奴の生存本能が無理に体を動かすものの、それも次第に限界が来る。
オクトパス型のティアマトはそのまま倒れてしまい、動かなくなった。
「やったー! ないすー! ジョー!」
フィンは腕をぶんぶん振って喜んでいる。俺の空気膜の残量は……半分を切っているな。
俺は結構空気膜を消費してしまったけれど、フィンの方は結構余裕がある。
まあ、蓋を開けてみればそこまでの強敵ではなかったな。
ただ、運が良かったのは遭遇したのがフィンと一緒だったってことだ。
もし、俺1人でこいつと戦えって言われたら多分無理。
フィンの重い一撃が相手に傷をつけてくれたし、俺はその傷を利用したに過ぎない。
俺のパワーじゃ相手の皮膚に傷を付けられたか。怪しいところだ。
そこのところは、生き残るのが優先のトレジャーダイバーと、敵を倒すのが仕事のハンターダイバーの特性の差が出ている。
「俺の空気薪はもう半分もない。フィン。すまないが、そこのドアを開けてくれ」
「わかった。えーと、ドアに空気を纏わせて水圧がかからないようにすればいいんだっけ?」
なんか不安になってきたな。こいつは戦闘のプロだけど、こうした作業は俺の方が向いている。
というか、普通にハンターダイバーしていたら水圧で開かないドアを開けるなんて作業はしないよな。
「やっぱり……俺がやろうか?」
「大丈夫だよ! 多分……! ジョーの空気膜は薄くなっているんだから無理しない」
空気膜に関してはフィンから人工呼吸をしてもらえれば補充はできる。
だからこういう場では、どっちの空気残量が多く残っているかは大した問題ではない。
でも、人工呼吸はできる限りやりたい行為ではないな。口と口を付けなきゃならんし。
実質キスと同じだ。そう何度も恋人同士でもない他人とやるものではない。
空気の受け渡しはあくまでも最終手段でなければならない。
俺はその意識で空気を使っている。
「よし、それじゃあいくよ」
フィンがなんどもドアをすりすりとさすりながらようやく決心したようである。
フィンが深呼吸をしてそしてドアに空気を送りこむ。
ドア、物体には空気膜を維持する能力はない。だからすぐに空気膜は破裂する。
その一瞬でドアを開けなければならない。
頼むぞ。フィン!
「えい!」
フィンがドアを空気膜で包んだ。そして手にかけていたドアノブを回す。
後はドアを開けるだけで良い。そのはずだった。
フィンの背後から触手が伸びてきて、それがフィンの背中にドスっと刺さった。
「え?」
俺は一瞬なにが起きたか理解できなかった。
フィンが口から血を流す。海水が赤くそまる。フォンは口をパクパクと動かしていて目を見開いている。
「がっ……あぁ……」
「フィン!」
俺は背後を見た。これはさっき倒したはずのティアマトの触手だ。
ティアマトは倒れている。他の触手の部位は動いていない。
ティアマトが弱っているのは事実だ。そして、倒した。死んだと思ったのは俺の見込み違いだった。
やつは最後の力を振り絞って触手でフィンに攻撃を仕掛けた。
パァンと空気膜が弾ける音が聞こえる。フィンがドアに纏わせた空気膜が消える。
「くそ! アクセルダイブッ!」
俺はすぐさまトライデントを構えて触手に突っ込む。
触手にトライデントの刃先がグシャアアと刺さる。ティアマトの触手はポロっと落ちる。
ティアマトはもう動く気配はない。念のため近寄ってトライデントで数回ボンボンと叩いてみる。
何の反応も示さない。本当に死んでいる。
死んだふりをしていたのか。
はたまた死んでも動く反射行動で攻撃をしたのか。
それはわからない。でも、今はとにかくフィンが心配だ。
「フィン! 大丈夫か」
「うん……僕は……大丈夫」
フィンは傷口を布で押さえている。そして、ゆっくりと先端が刃になっている触手を抜いた。
「はぁはぁ……ごめん。僕の空気膜……今ので結構持ってかれた」
フィンの顔が青白くなっている。布で傷口を止血しているものの、既に海水にかなりの量の血を放出してしまっている。
こんな状態のフィンにドアを開けるなんて頼むことはできない。
フィンは負傷したことで息を荒げている。空気膜の消耗が激しくなってしまった。
「フィン。正直に答えてくれ。地上まで持ちそうか? 自力で泳げる?」
背中から思い切り刺されたフィン。かなりのダメージを負っているはず。
俺は怪我をした当事者でもないし、医者でもない。
だから、フィンがどの程度動けるのか皆目、検討もつかない。
ここで無理をさせてしまえばフィンの命に関わるかもしれない。
「ごめん……無理そう」
フィンは目を瞑りながら答える。その表情から悔しさが感じられた。
「わかった。とりあえず、後のことはこのドアを開けてから考えよう」
俺は空気膜をドアに送り込んで開けた。
これでこの部屋から脱出できるようになった。
「ジョー。僕を置いて行け」
「何を言っているんだ! フィン!」
俺は思わず声を荒げてしまった。
俺はフィンを巻き込んでしまった責任から、絶対に死なせたくないと思っている。
「ごめん。足手まといになるつもりはなかったんだ……僕を連れていけばジョーも危険だ」
「そんなことはない! 大丈夫だフィン!」
俺の空気膜の残りはもう3割弱。フィンを抱えて地上まで向かうのはかなりのリスクがある。
ちょっと寄り道をしたり、能力を使えば空気膜が足りなくなるリスクがある。
腕輪で救助を要請するにしても、フィンの空気膜の残り的に間に合うかどうかも怪しい。
だから2人共助かる道があるのは……俺がフィンを抱えて無事に脱出する。それが最も可能性がある。
俺はフィンを抱きかかえる。フィンは怪我をしているせいで抵抗できなかった。
「やめて……ジョー。離して」
「フィンしゃべるな。空気膜の余裕がなくなる」
俺は最後にそう言い、そこから口を噤んだ。
俺の空気膜ももう余裕はない。ここから先は真剣。1歩間違えれば死ぬ覚悟で進むしかない。
俺はドアを抜け出し階段を下っていく。
3階には他にも探索したいところがあったけど仕方ない。
緊急事態だ。ここでフィンを置いて帰ったり探索に戻るほど俺は人でなしではない。
フィンは何かを言いたそうにしている。しかし、黙っている。
俺はハンドシグナルで親指を立てる。フィンに大丈夫だと伝えるために。
不安になるなフィン。俺が必ず助けてやる。
俺は周囲に気を配りながら進む。
またティアマトに襲われたら終わりだ。俺もフィンも殺されるだけ。
ここから先は本当に運次第だ。
俺がどれだけ気を配っても、適切な行動を取っても……
それでも死ぬのが不運というものだ。
ここから生き残りたいなら運を味方につけろ。
大丈夫。俺ならやれる!
そう自分に言い聞かせて俺は進む。
1階に降りる。だが、俺はここで歩みを止めた。
最悪だ。入口付近にさっきと同じオクトパス型のティアマトがいる。
空気膜も少ない。負傷者がいる。そんな状態でもう1度戦って勝てるわけがない。
なんでさっきはいなかったのに、今になっているんだ。
俺はあのティアマトを呪った。
しかし、逆にこれは不幸中の幸いだ。
まだあのティアマトに俺たちは気づかれてない。
先に相手の存在に気づけたのは大きい。別にこの建物の出入り口は正規の入口だけじゃない。
朽ちて割れた窓。そこから脱出できる。でも、1階に降りるのは危険だ。
俺は2階に引き返してそこの窓から出ることにする。ここは水中だ。落下の概念なんてない。2階の窓から脱出は可能だ。
俺はトライデントでティアマトの傷口をかきまわす。ティアマトは暴れ回っているが、その動きが徐々に鈍っていく。
奴の生存本能が無理に体を動かすものの、それも次第に限界が来る。
オクトパス型のティアマトはそのまま倒れてしまい、動かなくなった。
「やったー! ないすー! ジョー!」
フィンは腕をぶんぶん振って喜んでいる。俺の空気膜の残量は……半分を切っているな。
俺は結構空気膜を消費してしまったけれど、フィンの方は結構余裕がある。
まあ、蓋を開けてみればそこまでの強敵ではなかったな。
ただ、運が良かったのは遭遇したのがフィンと一緒だったってことだ。
もし、俺1人でこいつと戦えって言われたら多分無理。
フィンの重い一撃が相手に傷をつけてくれたし、俺はその傷を利用したに過ぎない。
俺のパワーじゃ相手の皮膚に傷を付けられたか。怪しいところだ。
そこのところは、生き残るのが優先のトレジャーダイバーと、敵を倒すのが仕事のハンターダイバーの特性の差が出ている。
「俺の空気薪はもう半分もない。フィン。すまないが、そこのドアを開けてくれ」
「わかった。えーと、ドアに空気を纏わせて水圧がかからないようにすればいいんだっけ?」
なんか不安になってきたな。こいつは戦闘のプロだけど、こうした作業は俺の方が向いている。
というか、普通にハンターダイバーしていたら水圧で開かないドアを開けるなんて作業はしないよな。
「やっぱり……俺がやろうか?」
「大丈夫だよ! 多分……! ジョーの空気膜は薄くなっているんだから無理しない」
空気膜に関してはフィンから人工呼吸をしてもらえれば補充はできる。
だからこういう場では、どっちの空気残量が多く残っているかは大した問題ではない。
でも、人工呼吸はできる限りやりたい行為ではないな。口と口を付けなきゃならんし。
実質キスと同じだ。そう何度も恋人同士でもない他人とやるものではない。
空気の受け渡しはあくまでも最終手段でなければならない。
俺はその意識で空気を使っている。
「よし、それじゃあいくよ」
フィンがなんどもドアをすりすりとさすりながらようやく決心したようである。
フィンが深呼吸をしてそしてドアに空気を送りこむ。
ドア、物体には空気膜を維持する能力はない。だからすぐに空気膜は破裂する。
その一瞬でドアを開けなければならない。
頼むぞ。フィン!
「えい!」
フィンがドアを空気膜で包んだ。そして手にかけていたドアノブを回す。
後はドアを開けるだけで良い。そのはずだった。
フィンの背後から触手が伸びてきて、それがフィンの背中にドスっと刺さった。
「え?」
俺は一瞬なにが起きたか理解できなかった。
フィンが口から血を流す。海水が赤くそまる。フォンは口をパクパクと動かしていて目を見開いている。
「がっ……あぁ……」
「フィン!」
俺は背後を見た。これはさっき倒したはずのティアマトの触手だ。
ティアマトは倒れている。他の触手の部位は動いていない。
ティアマトが弱っているのは事実だ。そして、倒した。死んだと思ったのは俺の見込み違いだった。
やつは最後の力を振り絞って触手でフィンに攻撃を仕掛けた。
パァンと空気膜が弾ける音が聞こえる。フィンがドアに纏わせた空気膜が消える。
「くそ! アクセルダイブッ!」
俺はすぐさまトライデントを構えて触手に突っ込む。
触手にトライデントの刃先がグシャアアと刺さる。ティアマトの触手はポロっと落ちる。
ティアマトはもう動く気配はない。念のため近寄ってトライデントで数回ボンボンと叩いてみる。
何の反応も示さない。本当に死んでいる。
死んだふりをしていたのか。
はたまた死んでも動く反射行動で攻撃をしたのか。
それはわからない。でも、今はとにかくフィンが心配だ。
「フィン! 大丈夫か」
「うん……僕は……大丈夫」
フィンは傷口を布で押さえている。そして、ゆっくりと先端が刃になっている触手を抜いた。
「はぁはぁ……ごめん。僕の空気膜……今ので結構持ってかれた」
フィンの顔が青白くなっている。布で傷口を止血しているものの、既に海水にかなりの量の血を放出してしまっている。
こんな状態のフィンにドアを開けるなんて頼むことはできない。
フィンは負傷したことで息を荒げている。空気膜の消耗が激しくなってしまった。
「フィン。正直に答えてくれ。地上まで持ちそうか? 自力で泳げる?」
背中から思い切り刺されたフィン。かなりのダメージを負っているはず。
俺は怪我をした当事者でもないし、医者でもない。
だから、フィンがどの程度動けるのか皆目、検討もつかない。
ここで無理をさせてしまえばフィンの命に関わるかもしれない。
「ごめん……無理そう」
フィンは目を瞑りながら答える。その表情から悔しさが感じられた。
「わかった。とりあえず、後のことはこのドアを開けてから考えよう」
俺は空気膜をドアに送り込んで開けた。
これでこの部屋から脱出できるようになった。
「ジョー。僕を置いて行け」
「何を言っているんだ! フィン!」
俺は思わず声を荒げてしまった。
俺はフィンを巻き込んでしまった責任から、絶対に死なせたくないと思っている。
「ごめん。足手まといになるつもりはなかったんだ……僕を連れていけばジョーも危険だ」
「そんなことはない! 大丈夫だフィン!」
俺の空気膜の残りはもう3割弱。フィンを抱えて地上まで向かうのはかなりのリスクがある。
ちょっと寄り道をしたり、能力を使えば空気膜が足りなくなるリスクがある。
腕輪で救助を要請するにしても、フィンの空気膜の残り的に間に合うかどうかも怪しい。
だから2人共助かる道があるのは……俺がフィンを抱えて無事に脱出する。それが最も可能性がある。
俺はフィンを抱きかかえる。フィンは怪我をしているせいで抵抗できなかった。
「やめて……ジョー。離して」
「フィンしゃべるな。空気膜の余裕がなくなる」
俺は最後にそう言い、そこから口を噤んだ。
俺の空気膜ももう余裕はない。ここから先は真剣。1歩間違えれば死ぬ覚悟で進むしかない。
俺はドアを抜け出し階段を下っていく。
3階には他にも探索したいところがあったけど仕方ない。
緊急事態だ。ここでフィンを置いて帰ったり探索に戻るほど俺は人でなしではない。
フィンは何かを言いたそうにしている。しかし、黙っている。
俺はハンドシグナルで親指を立てる。フィンに大丈夫だと伝えるために。
不安になるなフィン。俺が必ず助けてやる。
俺は周囲に気を配りながら進む。
またティアマトに襲われたら終わりだ。俺もフィンも殺されるだけ。
ここから先は本当に運次第だ。
俺がどれだけ気を配っても、適切な行動を取っても……
それでも死ぬのが不運というものだ。
ここから生き残りたいなら運を味方につけろ。
大丈夫。俺ならやれる!
そう自分に言い聞かせて俺は進む。
1階に降りる。だが、俺はここで歩みを止めた。
最悪だ。入口付近にさっきと同じオクトパス型のティアマトがいる。
空気膜も少ない。負傷者がいる。そんな状態でもう1度戦って勝てるわけがない。
なんでさっきはいなかったのに、今になっているんだ。
俺はあのティアマトを呪った。
しかし、逆にこれは不幸中の幸いだ。
まだあのティアマトに俺たちは気づかれてない。
先に相手の存在に気づけたのは大きい。別にこの建物の出入り口は正規の入口だけじゃない。
朽ちて割れた窓。そこから脱出できる。でも、1階に降りるのは危険だ。
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