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第2章『聖女王フローラ』

第48話「フローラの想い」

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 すごく嬉しいです。
 はっきりと気持ちを伝えて頂けて、とても嬉しいと感じています。
 アルベールさまとの事を考える内に、クレールさまの事を心の片隅に追いやっていました。
 そうしないと耐えれなかったから、そうしていました。

 でも、今はすごく嬉しいし、今すぐにでも貴方の胸の中に飛び込みたい。
 受け止めてくれると分かっているのだから。
 そうする事にためらいはありません。

 でも……何故もっと早く……

「フローラさま!」

 注意を促すような声の調子に、フローラはハッとなって気が付いた。

「あ……ああ、あの人は……?」

 視界の先に30代くらいの男女が、足早にこちらに向かってくるのが見えている。

「ヴァージル公の弟君と細君ですね」

「女性の方は、ヴァージル公の元奥さまだったそうですね」

「ええ、そのようですね」

 フローラを守るようにして、クレールは彼女の数歩前に進み出ていた。右手は剣の柄に置いてある。

「女王陛下!! 少々お待ち下さい!!」

「何事だ? 幾らヴァージル公の弟君とはいえ、無位無官の者が女王陛下を呼び止めるとは無礼だぞ」

 女王の護衛としての責務を果たそうと、クレールは凄味を利かせてダミアンを睨みつける。相手が剣聖クレールでは、ダミアンもアイダも顔色を蒼白にするしかなかったが、それでもダミアンは退こうとはしなかった。
 アイダが服の裾を引っ張って、小声で『やっぱりやめた方が』と囁くも、ダミアンは一向に聞き容れなかった。

「そもそも、その無位と言うのがおかしい! 本来ならクレールさまと言えど、私に頭を下げないといけない立場なのだぞ!」

 アイダの忠告や心配をよそに、ダミアンは遂に取り返しのつかない言葉を叫んでしまった。

 『何の話しをしている?』、クレールにしても、フローラにしても、そういう風に捉えていた。また何か勘違いをしていそうで面倒だなと、フローラは内心でそう思っていた。

「女王陛下! 私の兄が受けた爵位は、本来なら正当なヴィガン男爵である私が受けるべきはずです! 真のヴィガン男爵は私なのですよ!!」

 それは見事な"したり顔"をしたダミアンは、『遂に言ってやった』と心の中で叫んでいた。彼の計画ではこの事が一つ目の切り札となる。
 これでダメなら次があると、余裕な心持ちではあるが、どう答えていいか分からず思案しているだけのフローラを、ダミアンは良い具合に言い包めたと誤解をしていた。
 それだけに面倒くさくなって、短く否定の言葉を述べたフローラに驚愕する事になる。

「それが?」

 とても面倒そうな顔で、ただ一言『それが』と返した。ヴァージルが爵位を手放した理由は知らないが、そういう過去があることは、古い家臣たちなら皆が知っている。それを今更言われた所で、本当に『それが?』と言う話だった。

「そ、それがって……兄が男爵だと名乗ったから気に入ったのでは? 貴族の後ろ盾があったからこそ、女王陛下もここまでやってこれたはず……」

 狼狽ろうばいしていたのだろうが。このダミアンの発言は失言だった。
 もちろん、フローラならこのくらいの事を気に留めたりはしない。だが、隣で剣の柄に手を掛ける男にとっては許し難い発言だった。ゆらりとオーラを纏わせて、クレールの目が妖しい光を放ち始めた。

「話はそれだけですか。急ぐので失礼します」

 クレールの様子を察して、フローラはこの場を去ろうと会話を切り上げた。

「お待ち下さい!! で、では、聖水村での騒ぎは覚えておいでですか!!」

 ついさっきの話がその事ではないのですか?
 この人は何が言いたいのです?

「……覚えていますが?」

「あの折! 私と話しをしたでしょう? ヴィガン男爵ヴァジルールと名乗った男が私です!!」

 ダミアンにとってはこれが最後の切り札だった。
 彼としては、経緯は知らないが、聖水村での騒ぎでフローラと知り合ったヴァージルが、何らかの理由でヴィガン男爵を名乗ったと思っている。確かに半分は当たっている。だがもう半分の経緯を知らなかった事が、彼の運命を決定づけた。

 そもそも、聖水村でヴァージルがヴィガン男爵を名乗った事で、真のヴィガン男爵は自分だと正当性を訴えておいて、それが効果が無かったと思いきや、今度は自分が聖水村で男爵を名乗ったと言っているのだ。
 それでは話の順序が滅茶苦茶だ。支離滅裂もいい所だった。

 勿論、そんな出来の悪い嘘の内容が、この場で通用するはずは無かった。
 自称策士のダミアンにとっては、これでも渾身の策だったのだが。





*****

剣聖さまが怒っていますよ?(´ー+`)

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