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5 たまご粥
⑴
しおりを挟む夢を見た。
小学生の――確かぼくが五年生位だった頃。なんの科目か忘れたけど、午後の最後の授業中。いつも以上に頭がぼんやりして黒板の文字がかすんで見えた。当時の担任の先生の声がふわふわと浮かんで理解ができなかった。そうして、えっと、その時も同じクラスだった空くんがハキハキとした声で「先生」と言いながら手を挙げたんだっけ。空くんは一つ一つの動作がピッとしていて、かっこいいなあと思って眺めていたら、そのままぼくの席にきた空くんに手を引かれて、二人で保健室に向かった。
保健室の先生は常連であるぼくの顔をみて、あらあら……と慣れた様子で体温計を手渡してくれる。空くんが受け取って、脇に挟むのも全部やってくれた。くわんくわんと頭が重くて、ピピと鳴った体温計の数字が、なんて書いてあるのかよく見えなかった。空くんが先生に体温計を渡して、何かを話しているのをぼーっと見ていた。一度保健室から出ていった空くんがランドセルを前と後ろに二つ抱えて戻ってきて、ぼくの手を取って立ち上がらせてくれる、その時の、空くんの冷たい手が、とっても気持ちがよいなと思ったことを覚えている。
二人並んで、帰り道をゆっくりと歩いて、たくさんお話をするわけじゃなかったけれど、空くんが手を繋いでくれて嬉しかった。空くんの家を通り過ぎて二件先の、ぼくの家に到着すると、空くんは郵便受けに付いている鍵をくるくる回して三つの数字を揃えていく。カチンと音を立てた鍵を外すと、郵便受けの中からぼくの家の鍵を取り出した。空くんは昔からこの家で過ごすことが多かったから、合鍵の隠し場所も開け方も全部知っているんだ。
空くんには、お父さんがいなくて、お母さんも仕事で忙しいみたい。だからぼくは空くんの家族に会ったことはないんだ。昔から空くんはいつもぼくの家で遊んでくれて、おばあちゃんと作ったお菓子を一緒に食べて、あとは、いろんな本を読んだんだ。ぼくが本を読むことを好きになったのは、空くんのおかげなんだよ。
「……昴くん、起きられる?」
「……そらくん? うん、大丈夫、だよ」
「今日は昴くんのお父さんとお母さんと帰ってくるの遅い日だもんね。おばあちゃんも入院中だから、昴くんの家族は誰もいないね。
お熱の昴くん、ひとりぼっちになっちゃったねぇ」
そうだ。この時は大好きなおばあちゃんが入院していたんだ。悪いところがないか、いろんな検査するために必要な入院なんだけれど、ぼくはとても心配で、すごく寂しくて、ずっと落ち込んでいたんだ。お母さんもお父さんもお仕事が忙しくて、帰ってくるのは夜遅くだ。いつもなら空くんと遊んでから、おばあちゃんと空くんがお料理する所を見ながら、不器用だからぼくは少ししか手伝えないんだけれど、えっと……えっと……おばあちゃんと空くんと美味しいご飯を食べて、お風呂に入って……
「おばあちゃ……ぅぁ……ぼくは、ひとりぼっちなの?」
「そう、ひとりぼっちだよ。
でも、俺がいるから。昴くんはさみしくないよ。だって俺は昴くんのそばにずっとずっといるから。だから大丈夫だよ」
「ほんと……? 空くんは、ぼくと、ずっといてくれるの?」
「うん。昴くんの家族が皆居なくなっちゃっても、俺は昴くんのそばにずっといるよ。だってこんなに身体が弱くてすぐ熱を出して頭も良くなくてお友達もいない昴くんは俺のことが必要でしょう?」
そうだった。ああ、よかった。空くんがいてくれてよかった。
ぼくには空くんが必要なんだ。
「これね、レトルトだけれどお粥あっためたやつ。少しは食べた方が元気になるからね。はい、お口開けて? あーん……」
スプーンにひと匙掬って、差し出された薄い黄色と白いたまご粥。
白い湯気がほこほこと立ち上っている。言われるがままに口を開けて、お粥がぼくの舌の上にぽとんと落とされた。
「っ! ぅあ――ッ?!」
口の中のお粥はとっても熱くて、ぼくは思わず咳き込んでしまう。着ていた服の胸の所と布団の上に、 黄色と白が飛び散った。
「ゴホッ……ゲホッ……」
「あーあ。お布団も汚れちゃった。昴くん、汚れちゃったね」
「ぁ……ごめ……なさ……ごめんなさ……」
「大丈夫だよ。さあ、お着替えしよう。
大丈夫、俺がいるからね。
……俺だけが昴くんのことを……」
空くんが用意してくれたお粥を無駄にしてしまった罪悪感でいっぱいになったぼくに、空くんは怒らないで、優しく背中を撫でてくれて……すごく安心したんだ。ええっと、あの時空くんはなんて言っていたんだっけ。そうだ。ぼくには空くんしかいないんだ。いつも、ずっと、たくさん助けてもらったのに、それなのにぼくは……
空くんを怒らせてしまった。
「……ごめんさい、空くん」
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