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6 苺のショートケーキ
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♢ ♢ ♢
翌日、少し早起きした二人は冷蔵庫で寝かせたケーキのスポンジを横半分に切り分けた。
柔らかくふっくらと焼きあがったスポンジ間に角が立つまで泡立てた生クリーム、それに縦にスライスした苺を敷きつめる。全体にクリームが広がるように生クリームを塗って、苺を等間隔に置いていく。
最後に、等分になるよう三角形にカットすればお店で売られているような苺のショートケーキが完成した。
朝からケーキだなんて贅沢な気分だね、そんな事を話していた時、充電コードに繋がれてカウンターに置いてあった空のスマートフォンがブブと振動する音が響いた。軽く手を拭いたあと、鳴り続けるスマートフォンの画面をちらりと見た空は小さくため息をついてから電話に出る。通話の相手は同僚の教師からで、昨日、仕事を休んだ空に至急確認してもらわなければならない事柄があることを告げる。丁寧に返答をした空は、会話が終わると電話を切り申し訳なさそうな顔で昴に今から仕事に行かなければならないことを告げる。
そうして素早くスーツに身を包んで、出かける準備を整えた空は、昴に一つ、お願いをする。
「え……えぇ? 汚れちゃうよ? それに、空くん仕事が……」
「お昼前には終わらせて帰るから! 昴くんがしてくれたら頑張るパワー、貰えるんだけど……ダメ?」
「そ……れは……」
「ね? 昴くん。お願い……?」
軽く小首を傾げた空に、じいっと見つめられた昴は顔を赤らめて、少しの葛藤をした後……空からのお願いごとを断るなんて選択肢は元より自分にはないのだと気づいた。
誘われるがまま椅子に腰掛けた空の目の前に立つと、昴の細い腰に手が回されて、身体をグイッと引き寄せられる。
向かい合い空の膝の上に跨るような体勢に、更に顔を赤らめた昴の目は自然と潤んでしまう。
テーブルの上に置かれた、先程綺麗に切り分けたショートケーキを、昴は右手でそうっと掴む。グチュリと冷たいクリームに指を食い込ませて、持ち上げられたソレを自身の熱で溶けてしまう前に――空の口元へ運んだ。
「あ……あーん……?」
パカリと開かれた空の口の中に、二人で作ったケーキが一口齧られ、咀嚼し、飲み込まれる。
口の端に付いたクリームを赤い舌でベロリ舐め取られる所を間近で見せられた昴は、美しい男にケーキを食べさせるというどこか退廃的な耽美な行為を自覚し身体を硬直させた。
ケーキを味わう空は、幸せそうに笑う。
「ん……あはは! すっごく甘くて美味し……」
「お、お行儀悪いから……って、わ、わぁ! ちょっと……っケーキ、崩れちゃ……あああ!」
「んーー? だってケーキはこう食べるのが美味しいんだよ? 服なんかいーからいーからっ昴くん、もっとちょうだい?」
「もう、よくないから!! というか空くん、時間大丈夫なの?! もう……ふ、ふふ……あははっ」
空のお願い。昴の手から直接ケーキを食べさせて欲しい――。
どこか歪で不思議な願い事だと感じたけれど、空がこうして自分を必要としてくれて、笑ってくれるならば何も間違ってはいないのだろう。昴は祈りを込めて、もう一口。ケーキを運ぶ。
嗚呼どうか――これからもずっと、ずっと。
この、優しい神様みたいな人が笑う世界が続きますように。
翌日、少し早起きした二人は冷蔵庫で寝かせたケーキのスポンジを横半分に切り分けた。
柔らかくふっくらと焼きあがったスポンジ間に角が立つまで泡立てた生クリーム、それに縦にスライスした苺を敷きつめる。全体にクリームが広がるように生クリームを塗って、苺を等間隔に置いていく。
最後に、等分になるよう三角形にカットすればお店で売られているような苺のショートケーキが完成した。
朝からケーキだなんて贅沢な気分だね、そんな事を話していた時、充電コードに繋がれてカウンターに置いてあった空のスマートフォンがブブと振動する音が響いた。軽く手を拭いたあと、鳴り続けるスマートフォンの画面をちらりと見た空は小さくため息をついてから電話に出る。通話の相手は同僚の教師からで、昨日、仕事を休んだ空に至急確認してもらわなければならない事柄があることを告げる。丁寧に返答をした空は、会話が終わると電話を切り申し訳なさそうな顔で昴に今から仕事に行かなければならないことを告げる。
そうして素早くスーツに身を包んで、出かける準備を整えた空は、昴に一つ、お願いをする。
「え……えぇ? 汚れちゃうよ? それに、空くん仕事が……」
「お昼前には終わらせて帰るから! 昴くんがしてくれたら頑張るパワー、貰えるんだけど……ダメ?」
「そ……れは……」
「ね? 昴くん。お願い……?」
軽く小首を傾げた空に、じいっと見つめられた昴は顔を赤らめて、少しの葛藤をした後……空からのお願いごとを断るなんて選択肢は元より自分にはないのだと気づいた。
誘われるがまま椅子に腰掛けた空の目の前に立つと、昴の細い腰に手が回されて、身体をグイッと引き寄せられる。
向かい合い空の膝の上に跨るような体勢に、更に顔を赤らめた昴の目は自然と潤んでしまう。
テーブルの上に置かれた、先程綺麗に切り分けたショートケーキを、昴は右手でそうっと掴む。グチュリと冷たいクリームに指を食い込ませて、持ち上げられたソレを自身の熱で溶けてしまう前に――空の口元へ運んだ。
「あ……あーん……?」
パカリと開かれた空の口の中に、二人で作ったケーキが一口齧られ、咀嚼し、飲み込まれる。
口の端に付いたクリームを赤い舌でベロリ舐め取られる所を間近で見せられた昴は、美しい男にケーキを食べさせるというどこか退廃的な耽美な行為を自覚し身体を硬直させた。
ケーキを味わう空は、幸せそうに笑う。
「ん……あはは! すっごく甘くて美味し……」
「お、お行儀悪いから……って、わ、わぁ! ちょっと……っケーキ、崩れちゃ……あああ!」
「んーー? だってケーキはこう食べるのが美味しいんだよ? 服なんかいーからいーからっ昴くん、もっとちょうだい?」
「もう、よくないから!! というか空くん、時間大丈夫なの?! もう……ふ、ふふ……あははっ」
空のお願い。昴の手から直接ケーキを食べさせて欲しい――。
どこか歪で不思議な願い事だと感じたけれど、空がこうして自分を必要としてくれて、笑ってくれるならば何も間違ってはいないのだろう。昴は祈りを込めて、もう一口。ケーキを運ぶ。
嗚呼どうか――これからもずっと、ずっと。
この、優しい神様みたいな人が笑う世界が続きますように。
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