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聖騎士ロイ編
第4話 (2/2)
しおりを挟むこの格好はあくまで、変装の一環だ。勇者である俺が、堂々と表通りを歩けばすぐバレる。顔を隠し、目立たず街に溶け込むには、こうするのが一番効率的なんだ。
着ているのは、ワイン色の落ち着いたロングスカート、白いブラウスに薄いグレーのカーディガン。その上から、顔を少し隠せるように花柄のスカーフをふわりと巻く。足元はローヒールのシンプルなシューズ。肩には、小ぶりなベージュのポシェットを斜めがけしている。
決して華美ではないが、それがいい。地味で、大人しそうで、ほどよく目立たない。……まあ、普通に鍛えてる体格のせいで“でかい町娘”感は否めないけど。
そうして裏通りを歩いてたどり着いたのが、場末の小さな酒場。表の看板も半分剥げていて、入り口は油染みのせいかちょっとぬるっとしている。
俺はためらいなくその扉を開けた。
「……ふぅ……落ち着く……」
暗い店内には、昼間から飲んだくれてる客がちらほら。みんな不機嫌そうな顔をして酒を煽っている。
カウンターを避け、奥の壁際にある古びたテーブル席に腰を下ろす。安酒をひとつ頼み、ぐいっと一口。
酒と呼ぶには寂しすぎる、荒んだ味。けど、こういうのがいいんだ。
旅の間、どこへ行っても「勇者様だ!」「ありがたや!」と持て囃される。宿では敬意の名を借りて詮索され、下手に話をすれば勝手に「伝説の逸話」として街に広まる。
静かに、ただ酔いたい。そんな俺の密かな逃避場所が、こういう場末の酒場だった。
……えっ? “女装”である理由?
いや……だって、その方がバレにくいし……。
ロイやイリアに見られても、「なんかでかい女の人いたな」で済むし……。
あと……ほら……その……
……趣味だよッ!!! 悪いかッ!?!?!?
***
「姉ちゃん、ひとりかぁ? 珍しいなあ」
酒が半分ほど減ったころ、後ろから声がかかった。
声の主は、酔いが完全に回った様子の中年男。赤ら顔にとろんとした目。ジョッキを片手にふらつきながら、俺の隣の椅子にドカッと腰を下ろす。
(うわぁ……来た……)
ちらりと横目で確認する。がっしりした体格、古い火傷の跡、着古した作業服。なるほど、下町の鍛冶屋の親方といったところか。
仕事は真面目なんだろうが、今日は完全に酒に負けてるな。
しかもこの男、酒と酔いと性欲に脳を焼かれてるのか、どんどん顔を近づけてくる。
「だはは……美人さんだし、いいケツしてんなあ……」
――触られた。スカートの上から、尻をなでる感触。酒の匂いと、漢の体温が纏わりつく。
「……おっちゃん。悪いけど俺、男だから。ナンパなら他あたってくれ」
わざと低めの声でそう返し、スカーフを少し解いて素顔を見せる。
だが――男は止まらなかった。止まれるわけがなかった。酔いと興奮のせいで、もはやこちらの言葉など届いていない。
「男でも……こんなに綺麗なら、関係ねぇよ……」
まじでかよ、このオッサン。
そっと視線を落とすと、股間は見事に盛り上がっていた。ああ……なるほど、けっこうデカいじゃん。
(ロイのには及ばないけど、これはこれで……あり?)
これが尻に入ったら……気持ち良さそう。
(えっ、あ――いやいやいや! 俺は何を考えて……!)
我に返っても、時すでに遅し。俺の脳内では、天使と悪魔が火花を散らし始めていた。
『ダメだ、落ち着けジーク! その辺の酔っ払いオヤジだぞ!? ケツを貸すんじゃない!』
『でもでも、君には“冒険の書”があるよ♡ 戻せばノーカンでしょ♡ それにあのちんぽ……なんか……ロイより一回り小さくて、手頃で扱いやすそうじゃない?♡♡♡』
『勇者としての誇りを思い出せ!! 君は世界を救う男なんだぞ!? ちんぽを比較するために旅してるわけじゃ――』
『じゃあ、逆に聞くけど♡ 既に聖騎士に襲いかかってハメてもらって、記憶を消してるって……♡ それもう勇者の誇りもクソもないよね?♡♡♡』
『違う!! それは違う!!! ロイのことが好きなんじゃなかったのか!?!?』
『好き♡ でも立派なチンポは別腹♡ ねえジーク、もう見ちゃお♡ おっさんちんぽ♡ 先っちょだけ、ちょこっと撫でるだけ♡♡♡』
『撫でるだけで済むわけがないだろ!!! お前の“撫で”は奥までいくやつだろ!?』
『ふふっ♡ でもさあ……ロイちんぽがいかにレジェンドなのか、比較対象があった方が確証持てると思わない? これは調査♡ これは研究♡ これは学術的探究心♡♡♡』
『薄汚い性欲を“学術的”とか言って誤魔化すな!!! 貞操も信義も踏みにじるなんて――』
『そんなこと言ってさぁ……♡ あの酒臭いおっさんの匂い、案外……嫌いじゃないんでしょ?♡♡♡』
『うぐ! ぐぬぬっ……!』
『ほらほら、いけ♡ 勇者ジーク♡ 今こそお前の尻穴で、“真のちんぽ格付けランキング”を完成させるのだッ♡♡♡』
(う、うわあああああああ!!!!)
葛藤に頭を抱えながら、俺は震える手でスカーフを握りしめた。
なおも、男は距離を詰めてくる。
「なあ、姉ちゃん……スケベしようやぁ……」
吐息混じりに囁かれ、腰に腕を回され、ぐいっと引き寄せられる。
酒と汗と性の匂いが混ざって、くらりと頭が揺れた。
(……みっ、見るだけ……! ちんぽ、見るだけだから……!)
俺は静かに立ち上がり、男の誘導に身を任せる。
薄暗い酒場の奥、厨房の裏へと続く通用口の扉が、軋む音を立てて開かれた。
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