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神官リオネル編
第34話 (2/3)
しおりを挟む廊下を抜け、受付へ向かう。
石造りの回廊を歩く足取りは、いつも通りの速さ。心拍も、感情も、一定。
やがて高い天井の下、旅人たちの姿が視界に入った。
「お待たせしました」
事務的な笑みを浮かべて声をかけたその瞬間――
「ああ、神官さん。記録お願いします」
青年の声が、やわらかく響いた。
私の目に飛び込んできたのは、旅装の隙間から覗く白い肌と、どこか無防備さを残した笑顔だった。
(――え……)
目が合った瞬間、胸の奥に亀裂が走った。抑えていた何かが、静かに零れ落ちていく。
廊下の足音も、受付のざわめきも消えた。世界に残ったのは、この青年の呼吸と、私の鼓動だけ。
指先が、わずかに震える。
理性が「いつも通りに」と指令を送るよりも早く、身体の奥が熱を帯びていた。
この教会で何人もの冒険者を見てきた。精悍な者、敬虔な者、傲慢な者――さまざまだ。
だが……今、目の前に立ち、『冒険の書』を差し出すこの青年には、そのどれとも違う輝きがあった。
……瞬きも忘れ、ただ見入ってしまった。
くしゃりと無造作に散った黒髪は、ところどころ跳ねていて手櫛で整えた気配すらない。けれどそれが却って、彼の野生的な無防備さを引き立てていた。
澄んだ青の瞳は、まっすぐで、どこか底知れない。善良であろうとする意志と、抑えきれない衝動が、同居しているような目。
日焼けの跡が薄く残る肌に、旅の痕跡を感じさせる筋肉の付き方。細身ながら、引き締まった腕や腿には力強さがある。
華奢ではない。だが繊細だ。
男らしいのに、どこか愛らしい。
全てが、“ちょうどいい”。
(……どうして、この男は……こんなに“可愛い”んだ)
外見だけではない。無自覚な仕草、礼儀正しさの中に垣間見える隙。人懐っこい笑顔でこちらに微笑みかけるその姿が、脳髄を撫でるように心を蕩けさせる。
(……この男を、抱きたい)
そんな衝動が、本当に脊髄からせり上がってきた。
いや、違う。
ただ抱きたいのではない。
“刻みつけたい”のだ。
この美しいほどに均整の取れた身体に、自分の形を。
理性的なはずの自分の中に、“欲”が立ち上がるのを感じた。教会での立場に支配され続けてきた私が、初めて――明確に、相手を支配したいと思った。
これまで、どんな男性を前にしても――いや、過去に恋人と呼んだ相手ですら――こんな衝動は抱かなかった。
だが、一目見ただけで分かってしまった。
この男は、きっと――最高の“器”だ。
「……勇者さま、長旅ご苦労様です」
動揺を悟られないよう、声のトーンを抑える。
「冒険の書をお預かりしますね」
それでも、自分の声がわずかに熱を帯びているのが分かった。
だが青年――勇者ジークは、何も気づかずに無防備に笑い返してくる。
(ああ……愛されて、生きてきた顔だ。けれど――まだ、“支配される悦び”を知らない目をしている)
そう思った瞬間、背筋がぞくりと震えた。
記録のために『冒険の書』に魔力を流し込む。
彼の魂が、ここまでの軌跡が、私の魔力と混じり合いながら刻み込まれていく。
書を手渡す時にそっと触れたその指先が、思った以上に熱くて、柔らかくて。
(……ああ、貴方を堕とせる時が楽しみですね、ジーク様)
目の前の獲物に、“欲望”という名の祈りを捧げた瞬間だった。
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