『罪喰いの翼 ― 天使と悪魔と人間のはざまで ―』短い小説

夢喰

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序章:罪を喰う者

罪を喰う者

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神は、善人と悪人を作ったのではない。
ただ、「人間」を作った。

東京。
昼でも夜でも、音が止まることのない街。
SNSの通知、スマホを見つめる無表情な目、他人の失敗に石を投げる匿名の群れ。
ビルの隙間に落ちる影には、誰にも見えない「罪」が積もっていた。

レイは、その「罪」を喰って生きている。
生まれつき人の感情の“澱(おり)”が見える体質を持ち、
ある時を境に、本当に「他人の罪を喰える」ようになってしまった。

それは呪いか、それとも神の気まぐれか。
彼自身も知らない。

ひとつ確かなのは——
罪を喰えば喰うほど、自分の中に“悪魔”が巣食っていくということだ。


この日もレイは、依頼を受けていた。
「娘が人を殺した。でも、それは事故だった。ただ……この子が壊れていく前に、罪を喰ってくれませんか?」

中野の古い団地の一室で、14歳の少女が膝を抱えて座っていた。
震える手。焦点の合わない目。
罪の形は人によって違うが、この少女の罪は——「自己嫌悪」だった。

喰った瞬間、レイの胃がねじ切れるような痛みに襲われる。
少女の記憶、感情、恐怖、後悔、すべてが一瞬で流れ込んでくる。

罪を喰うとは、ただ許すことではない。
「罪と一体化すること」だ。

喰ったレイは、少女の代わりにそれを背負い、自分の中に“悪魔”の種を増やす。


外に出ると、街は何事もなかったかのように喧騒を続けていた。
TikTokの音、誰かの笑い声、政治家のスキャンダル、満員電車の怒号。

レイはふと思った。

「人は本当に、善と悪のどちらかに分けられるのか?」

彼の目には、善人のふりをして他人を傷つける者。
悪人と罵られても誰より他人を助けている者。
そんな矛盾だらけの人間たちが映っていた。

彼は知っている。
「人間は、選ぶことができる」

朝起きたとき、誰もが善人になれる。
ただそれを選ぶだけで。


ある夜。
渋谷の交差点で、彼はひとりの少女と出会う。
ミナ。
16歳。高校を退学になり、家庭でも居場所を失い、世間から「加害者」と呼ばれた少女。

「あなた、本当に“人の罪”を喰えるの?」

「……ああ。でも、代わりに“自分”が少しずつ壊れていく」

「なら、あたしの罪を喰ってよ」

「それは、お前が選ぶことだ。俺は“押しつけられた罪”は喰わない」

その夜から、二人の関係が始まる。
ミナはレイに問いかけ続ける。

「人は変われるの?」
「世界が腐ってるなら、正義って何?」
「逃げるのと、向き合うの、どっちが正しいの?」

レイはその問いに、答えを持たない。
ただ、自分の中の“天使”と“悪魔”の間で、揺れ続けている。


人間は誰もが不完全だ。
善と悪のあいだに揺れる存在だ。
けれど、選ぶことができる。
どんなに傷ついても、裏切られても、たとえ今日が地獄でも。

「希望と正義を、選び続けろ。
たとえ、それが小さな光でも」

それが、罪喰いであるレイの唯一の信念だった。

そして、やがてミナもまた、自分の内なる闇と向き合うことになる。

彼女の中に眠る「本当の罪」。
その罪を喰うとき、レイはかつてない選択を迫られる——
“君が選ぶことを、俺は信じる”
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