『罪喰いの翼 ― 天使と悪魔と人間のはざまで ―』短い小説

夢喰

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第一章：少女の罪

少女の罪

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第一章：少女の罪

渋谷の交差点は、今夜もネオンに濡れていた。

金曜の夜。スクランブル交差点に行き交うのは、疲れたサラリーマン、メイクの濃い女子高生、夢を追って上京した若者、そして夢を失った者たち。

その中に、ひときわ小さな背中があった。
ミナ。16歳。学校にはもう行っていない。家にも帰っていない。SNSでは「クズ」「加害者」「死ね」と日々浴びせられ、ニュースには顔を隠して映された。

“無責任に助けようとして、かえって誰かを傷つけた”

その事件の詳細は世間が勝手に決めた。
彼女の声は誰にも届かなかった。
だから、彼女はもう、誰にも何も言わなくなった。
•

「……あんた、噂の“罪喰い”でしょ？」

声をかけたのは、ビルの隙間でコーヒー缶片手に座っていた青年だった。
白と黒、左右で異なる色の羽を背負ったような雰囲気。
まるで光と影を同時に纏っているような存在感。
それが、レイだった。

「誰に聞いた？」

「ネット。半分ネタ、でも……あんた、本当に罪を喰えるの？」

「それはお前が、自分の罪を認めてるかどうかによる」

「……認めたくないよ。あたしは、悪いことなんかしてない。でも、みんなが言うの。
“加害者”は黙ってろって」

ミナの声はかすれていた。
罪に押し潰されていたわけじゃない。
罪という“名前”を、勝手に背負わされたのだ。
•

レイは立ち上がり、ミナに近づく。

「その罪、喰ってやろうか？」

「できるの？」

「できる。でも、代償がある」

「何？」

「俺がそれを喰ったら、お前の中の“何か”も一緒に消える。
それは後悔かもしれないし、怒りかもしれない。
でも同時に、お前が変わる“きっかけ”も消える」

ミナは黙った。
しばらくの間、ネオンの音だけが二人の間に響いていた。

「……じゃあ、どうすればいいの？」

「選ぶんだよ。自分で。
喰ってもらうか、向き合うか」
•

その夜、ミナはレイの提案を断った。
代わりに、彼の隣を歩くことを選んだ。

レイは言った。

「罪喰いはな、罪を喰うことが仕事じゃない。
罪を“受け入れるかどうか”を、見届けるのが役目なんだよ」

ミナは、その意味をまだ理解していなかった。
けれど、不思議と心が少しだけ軽くなっていた。

——はじめて、自分の話を最後まで聞いてくれる人がいた。

その瞬間、ミナの中の「天使」が、小さく羽ばたいた。
•

物語は始まったばかりだった。
少女の罪と、青年の過去。
そして、世界に蔓延る“見えない罪”に立ち向かう戦いが、ゆっくりと幕を開ける。

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