あさがお

東條イッセイ

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また、今日もだった。

私は、息の詰まる閉塞感と言い様のない気怠さを感じていた。

カーテンを開けると、雨がかなり降っている。

雲はすっかり陽の光を遮ってしまっていた。

この疲弊感は雨から来るものだろうか。

いや、それよりもっと深い所から染み出していることを私はわかっていた。









彼と別れてからは、
もう2ヶ月になる。







28の私にとって、あの恋はラストチャンスかもしれない。

これまでより本気だったし、自分の悪い所は全て矯正してきたつもりだった。

だけど、終わってしまった。

きっかけは彼の浮気だった。

「ミサよりも、大事な人ができたんだ__」

信じられなかった。

耳を疑うとはこういうことかと、初めて思った。

私の努力は、どうなるんだ。

そう思うと、いても立っても居られなくなって、彼の家を出た。

ちょうどこの日もこんな雨だった。

泣きながら走って走って、自分の家にたどり着いた。

上京して独り身の私には、少し広く感じられる部屋。

白いテーブルが無機質に空間を占めているリビング。

真っ黒なテレビ画面を見ていると、自分の体まで吸い込まれそうな気がした。

寂しい冷蔵庫から酎ハイを取り出して、潰れるまで呑んだ。

それからどうしたかは、私自身全く覚えていなかった。

あの日から、今日で2週間。

職場では気丈に振る舞っているつもりだけど、実際にどう見えているかはわからない。

最近、職場でも笑っていない。

うまく笑える自信も無くしてしまった。

私はもう、終わったのか。

ネガティヴ思考しか出来ない自分に嫌気がさして、外に出てみることにした。

雨は強まっている。

でも、傘は差さないで出かけた。

行く場所は特にないから、ぶらぶらとあるいてみることにした。

降りしきる雨が、頬に当たって、首筋をつたう。

雨がアスファルトに当たって跳ねる音と、私の足音とが重なる。

なんだか馬鹿らしくなってきて、スキップをしてみた。

着地をするたび、水が跳ねる。

私の足下が、どんどん濡れていく。

ああ子供の頃にもこんなことをしてたっけ。

漠然とそんなことを思っていた。

水溜りに映る顔を見てみると、少し頬がゆるんでいた。

水面を見ていると、ふと、気づいた。

私、寝間着のままでスキップしてたんだ。

傘もささずに寝間着で雨の中を走っていたなんて、自分でも自分を笑ってしまった。

自嘲気味に笑っていたのに、段々声が大きくなってきて、割と本気で笑った。

ああ、おかしい。私ってこんなに笑えたんだなあ。

ひとしきり笑って、帰ることにした。

そうだ、私にはやることがある。

仕事だってしなきゃいけないし、ご飯だって作らなきゃいけない。

今日の寝間着をどうするかだって考えなきゃいけない。

うん。なんだか元気が湧いてくるじゃん。

帰り道も、スキップで帰った。

帰ったらお風呂に入ろう。

そして録画していたお笑い番組を見ながらおいしいご飯を食べよう。

そんなことを思いながら帰った。

家に帰る頃には、雨は止んでいた。

ふと空を見上げると、夕焼けに虹がかかっている。

うん、今日はありがとう。お天道様。

私、もうちょっと頑張ってみるよ。

外の空気を体いっぱいに吸い込んで、私は背伸びをした。

心は、空を反射しているようだった。
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