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第6話

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 功作と会う日は、直子さんに教えてもらったようにメイクをし、私は精一杯のお洒落をしてデートに出掛けた。
 銀縁のメガネも辞めて、コンタクトに変えた。

 「早苗、すごく綺麗だよ! やはり僕の目に狂いはなかったようだ」
 「ありがとう功作。功作が拾ってくれたおかげだよ」

 私は自信に満ちていた。

 「拾ったなんて言い方、止めろよ。僕は早苗と恋に落ちたんだ」

 こんな何気ない会話が、私にはとてもうれしかった。
 ずっと男の人とは無縁な生活を送って来た私でも、いつかは自分も結婚をして、子供を産み、家庭を作るんだろうとは思っていたが、そこにドラマチックな恋愛は想像出来なかった。
 それが今、私の未来予想図がどんどん広がって行く。


 「今日は私のアパートに来る?」
 「いいのかい?」
 「家飲みの方がコスパもいいしね?」

 部屋の掃除は完璧にしておいた。

 「感激だなあ、早苗のアパートで飲めるなんて」
 「功作は何が食べたい?」
 「そうだなあ~、鶏の唐揚げとカルパッチョがいいなあ」
 「わかったわ、じゃあ作ってあげる」
 「楽しみだなあ、早苗の作る手料理」
 「そんなにプレッシャーを掛けないでよ、期待されるほどの物は作れないわ」
 「その時は僕も手伝うよ」
 「ありがとう功作」



 近くのスーパーでカートを押して、ふたりで並んで買い物をした。

 「カシオレは2本でいいか?」
 「1本でいいよ、そんなに飲めないから」
 「そうか? 俺は缶ビールにするよ」

 そう言って功作はカシオレと缶ビールをカートに入れた。
 スーパーで功作と一緒にするお買物。うれしかった。
 まるで新婚夫婦のような気分だった。
 食材を買い、手を繋いで歩いた。
 
 
 アパートに着いた。

 「きれいにしているじゃないか? いい匂いがするね? 女の子らしい匂いだ」
 「女の子の部屋に来るのは初めてじゃないくせに」
 「それが初めてなんだよ、実は」
 
 恥ずかしそうに功作が言った。私は安心した。
 誠実な彼のことだ、嘘ではないはずだ。
 私たちは笑いながら軽いキスをした。


 「功作はテレビでも観ていて頂戴。もちろん飲んでいていいわよ」
 「俺も一緒に料理するよ、その方が楽しいし」


 狭いキッチンに並んで立つと、功作と時折カラダが触れた。
 功作が唐揚げを揚げている最中、私は鯛のカルパッチョを担当した。

 「こうして料理をしながら飲む酒は最高だな?」

 功作は缶ビールを飲んでいた。
 彼がカシオレの缶を開け、私に渡してくれた。乾杯をした。

 「乾杯!」
 「あー、美味しいー!」

 そして功作がキスをした。

 「そろそろ揚がったかな? どれどれ」

 ハフハフ言いながら功作が唐揚げをつまみ食いすると、それを素早くビールで流し込んだ。

 「美味い! 早苗もどうだい?」

 功作は少し小さめの唐揚げを、私の口に入れてくれた。

 「うん、美味しい! お店屋さんの唐揚げみたい!」

 私は功作の大きなカラダに抱き付いた。



 カルパッチョも出来上がり、私たちはちゃぶ台に並んで座った。
 最高にしあわせだった。



 酔いもまわり、ついにその時がやって来た。ロスト・バージン。
 あらかじめ清楚な下着を着け、香水も付けていた。
 功作はそのまま私を静かに押し倒し、濃密なキスをした。
 それは映画で見たラブシーンのようだった。カラダが熱くなり、蕩けてしまいそうだった。

 「早苗が欲しい・・・」

 功作の手が胸に触れた。

 「シャワーを浴びたいの・・・」
 「別にいいよ、後で浴びれば」
 「そうはいかないわ、ちょっと待ってて」

 私はドキドキしながらバスルームへ入った。
 もちろん覚悟は出来ていたが、最後に心の準備を整えようとしたからだ。


 タオルを巻いて私が出て来ると、功作が全裸で立っていた。

 「僕も浴びてくるよ」

 功作は私と入れ違いに浴室へと入って行った。



 私は灯りを消してベッドに入いり、彼を待った。
 私は恥ずかしいほど自分が潤っているのを感じていた。


 すぐに功作がベッドにやって来た。

 「早苗、愛しているよ」

 功作は私の乳首に唇を寄せた。
 私はその初めての感覚に、体がビクンと反応した。

 「私、初めてなの・・・、お願い、やさしくしてね?」
 「実は僕も初めてなんだ。嫌だったり、痛かったりしたら言ってね?」
 「うん・・・」


 私たちは無我夢中だった。セックスによる快感はまだわからなかったが、初めて功作と結ばれたことの喜びは、実に大きなものだった。
 私は身も心も「大人の女」になった。

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