【完結】寒椿(作品240421)

菊池昭仁

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第4話

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 「着物の帯を解くなんて、久しぶりだ」
 「私も男の人とこんなことをするのって久しぶり」

 私はゆっくりと慎重に椿の帯を解いていった。
 着物は彼女の商売道具だから、汚したり傷付けるわけにはいかない。
 ゆっくりと着物を脱がせ、椿を肌襦袢だけにした。

 濃厚な余裕に満ちた大人同士のキスをした。
 私と椿はベッドへ移動した。

 「襦袢だから布団の方が良かったか?」
 「早くしたいからこのままでいいわ。
 布団敷くのは面倒だから」

 私たちは笑った。
 襦袢を脱がすと椿は白いTバックを履いていた。

 「ノーパンかと思ったよ」
 「ノーパンの方が良かった?」
 「いや、この方がいい。椿の綺麗な尻が引き立つからな?」
 「ありがとう。お尻には少し自信があるんだけど、胸がないの」
 「俺はこの方が好きだよ。形のいい胸だ」

 私は椿の乳首を甘噛みし、舌で転がしてみた。

 「あん・・・」

 椿はカラダをのけ反らした。
 私はもう片方の乳房を揉みながら、優しいキスをしてそのまま耳に、そして脇の下へと舌を這わせた。

 「くすぐったい」
 「くすぐったいということは、そこが感じやすいってことでもある」
 「そう? でもくすぐったいわよ」
 「それじゃあここはどうだ?」
 
 私は椿の下腹部へと手を伸ばした。

 「うっ、あっ、んっ、あ・・・」
 
 椿の耳元で私は囁いた。

 「洪水になっているよ、ここが」
 「だって、あなたが好きだから」
 「吸ってあげるよ」

 私も服を脱ぎ始めた。
 そして私の身体を見て、椿は自分の口を押えた。
 
 「唐獅子牡丹? 大森さんって・・・」
 「もう足は洗ったんだ。若気のいたりというやつだ。嫌なら止めてもいいぞ」
 「そうじゃないの、とてもキレイな入れ墨だと思ったから。
 私の死んだ夫もね、極道だったの。背中には龍の入れ墨をしていたわ。
 網走に服役していてね? 私は夫に面会するために東京を離れ、網走のスナックで働いた。
 最果ての地、網走で」
 「だから『津軽海峡 冬景色』には情感が込められていたんだな?」
 「彼ね、出所してすぐに殺されちゃったの。
 私の目の前で」

 私は静かにベッドに腰を降ろした。

 「ごめんなさいね、ヘンな話をしてしまって」
 「聞いておいてよかったよ」
 「どうして?」
 「お前に惚れたから」

 椿は俺に抱き付いて来た。

 「私も大森さんが大好きよ。だからお願い、私を抱いて」

 私が椿の足の付け根に顔を移動させると、椿の顔にはペニスが掛かり、椿はそれに手を添えると口に含んでくれた。
 そして淫らな音を立ててそれを上下させた。

 私も椿の大きくなったクリトリスの皮を剥くように、丹念にクンニリングスを始めた。
 私たちはしばらくそれを続け、お互いのカラダを労わった。
 そして傷付いた心も慰めあった。

 挿入することだけがSEXではない。
 セックスとはお互いの快楽を追求し、労わり与え合うことだ。

 ゆったりと熱い前戯を終え、私たちはカラダを合わせた。
 お互いを強く感じられる正常位で、私は定速の律動を繰り返した。

 「はっ、ごめん、なさい、もうダメかも、イキそう・・・私」
 「いいよ、好きな時にイッてくれ」

 私の腕を掴んだ椿の指に力が入り、椿の白いカラダは弓なりになり、ガクガクと震え始めた。

 そして彼女の意識が戻ると、

 「今度はあなたの番、中に頂戴」
 「いいのか? 中に出しても?」
 「うん。今日は大丈夫な日だから」

 私は再び挿入を開始し、椿の中で果てた。
 今度はふたり同時にイクことが出来た。


 「はあはあ すご、く、感じちゃった」
 「俺も年甲斐もなく興奮したよ」
 「いつ足を洗ったの? 極道?」
 「20才の時だ。組長が逮捕されて組が解散したんだ。
 それから基礎工事の職人をしながら夜学に通った」
 「高校は出たんだ?」
 「かろうじてな?」
 「偉いね? 大学まで行くなんて」
 「家の基礎を作っていると、家を作ってみたくなったんだ。それで大学で建築を学んだ」
 「あなたのスーツ姿、似合っているわ」
 「ヤクザには見えないだろう?」
 「背広を着たヤクザはたくさんいるけどね?
 公務員の人とか「先生」と呼ばれる人」

 すると椿はベッドから降りて、妻だった由紀子の遺影の前に立った。
 
 「この人が亡くなった奥さんなの? きれいな人」
 「しあわせにしてやれなかったけどな?」
 「そうかしら? 何だかとてもうれしそうに笑っているけど。
 あなたが撮ったんでしょう?」
 「そうだ」
 「愛してるって書いてあるみたいな笑顔をしているわ・・・」
 「椿は今までしあわせだったのか?」
 「しあわせって言葉なんか、もう忘れたわ」
 「旦那のこと、愛していたんだな?」
 「でも死んだ人はもう私に何もしてはくれないわ。
 こんなふうに抱いてもくれない」
 「ごめんな? 嫌な事を訊いて」
 「ううん、こんなこと誰にも言えないから、大森さんに聞いてもらってスッキリした」

 椿は再びベッドに戻ると私に寄り添った。

 「私ね、福島県の柳津で生まれたの」
 「あの会津のか?」
 「そう、虚空蔵様がある小さな温泉街。
 5歳の時、母親は私を置いて家を出て行った。
 その時のことは今でも覚えている。
 父親は腕のいい大工だったんだけど酒乱でね、いつも私と母はビクビクしていたわ。
 そして地元の高校を卒業するとすぐに、私は新宿のデパートに就職した。
 そして夜、音楽学校へと通った。
 私、歌が大好きだったから歌手になりたかったの。
 母はね、よく私に歌を歌って聴かせてくれた。やさしい母だった。
 そして今では売れないドサ回りの演歌歌手・・・」

 私と椿はそのまま抱き合って眠った。
 お互いの古傷を舐め合うかのように。

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