★【完結】恋ほど切ない恋はない(作品241118)

菊池昭仁

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第6話

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 ささやかなビンゴゲームも終わり、最後の締めは東北大学医学部教授の上原だった。
 上原は学級委員長だったので適任だった。流石に白い巨塔の教授だけあって、こういうスピーチには慣れているようだった。

 「今日は大変楽しいクラス会でした。高校や大学での同級会もありますが、やはり中学のクラス会というのは良いものです。中学時代の自分に戻ることが出来ました。もっとも、中学生ではありすがお酒だけはたっぷり飲ませていただきましたけどね。
 ぜひまた参加させて下さい。楽しみにしています。
 幹事の木下、茜ちゃん。本当にありがとう、お疲れ様でした。
 それではみなさん、一本締めでお願いします。よーっつ パン」

 盛大な拍手が湧いた。ある程度の年齢になってのクラス会とは、実に良いものだった。
 もちろん、消息のわからない奴や亡くなった奴もいた。だがそれも人生なのだ。みんな必死に生きている。 そして私も。


 宴会場を出ようとした時、今村が私たちを二次会に誘った。

 「みんなどうだべ、市内で2次会しねえか?」
 「ホテルでもいいんでねえかい?」
 「ここもいいけんじょ、高いべした」
 「なるほどねー。俺はいいよ」
 「私も行くーっ」
 「オラも行くぞ、まだ飲みたりねえからな」
 「俺はパス。今日は疲れたから温泉に入って寝るわ」 
 
 そして約半数が街に出ることに賛同した。

 「唐沢も行くんだべ?」
 「唐沢君は行くわよね? 私、唐沢君とデュエットしたーい!」

 私は祥子と街で会う約束だったが、考えてみればいつ歓楽街で彼らと出くわすとも限らない。私は仕方なくそれに同意することにした。

 「もちろん俺も参加させてもらうよ」

 チラリと祥子を見ると笑っていた。
 その顔には「仕方がないわよ」と書かれてあった。

 「それじゃあ私も行こうかなあ。会津の夜も久しぶりだし」

 祥子も参加することになった。

 「行こう行こう、祥子ともっとお話ししたいから!」
 「茜、祥子と何の話をすんだ?」
 「決まってるでしょ、恋バナよ」
 「姥桜みていえな顔して何が恋バナだよ」
 「アンタに言われたくないわよ」
 「そりゃそうだ。あはははは」
 「あはははは」

 
 私たちは其々タクシーに分乗し、飲み屋街へと出掛けた。
 タクシーに乗っていると、祥子からLINEが届いた。


     せっかくふたりで
     飲めると思ったの
     にね?

     残念

                 こうなるような
                 気がしていたよ(笑)


 「俺のボトルがあるから、そのスナックでいいべか?」
 「大久保の知ってる店なら安心だべ。そこにすんべ」


 私たちはパティオ・ビルの3階にある、『プチ・ボヌール』という店に入った。

 「ママー、俺のボトルあったよな? 出してけろ」
 「あら大久保ちゃん、今日は何の集まりなの? 大勢で」
 「東山温泉でクラス会だったんだ、中学の時の。コイツラはみんな昔は中学生だべ。あはははは」
 「それは良かったわね? それじゃあ今日は貸し切りにしてあげる」
 「10人なんだ、一人3,000円で二時間貸し切りでどうだべ?」
 「しょうがないわねー。大久保ちゃんのお友たちなら大歓迎よ」
 「ありがとう、ママ!」
 「ママさん大好き!」

 店のカウンターとボックスがすぐにいっぱいになった。

 「はい、リモコンとマイク。沢山楽しんでいってね? お酒はみんな水割りでいいかしら?」
 「はーい、大丈夫でーす! それじゃあ私と唐沢君のデュエットで『ロンリー・チャップリン』を歌いまーす!」
 「おっ、懐かしいでねえの? ロンリーチャップリンだなんて。俺はいつもロンリー・チャップリンだべ」
 「あはははは これしか知らないのよ。うふっ」
 
 私は茜と一緒にモニターの歌詞を見ながら歌った。
 会社での飲み会ではあまりカラオケはしなかった。私はいつも聴き役だった。

 「いいぞー、お二人さん! 不倫カップル誕生だべ! あはははは」
 「上手いわよー、ふたりともー!」

 祥子が声援を送ってくれた。

 (次は祥子と歌いたい)

 そう思った。

 スナックはいつの間にかカラオケボックスとなり、会話どころではなくなった。


 午前零時を過ぎたのでお開きになった。

 「それじゃあまだ飲みたい奴!」
 「大久保、俺もつきあうべ」
 「唐沢、お前も来るよな?」
 「俺はギブ、もうジジイだから帰って寝るよ」
 「オラもジジイだべ」
 「今村は若いよ」
 「しょうがねえなあ」
 「僕はラーメンを食べて帰るよ」

 木下が言った。

 「俺もラーメンなら食いてえ」
 「私も食べたーい! 味噌ラーメン!」

 飲みに行く連中と、ラーメンを食べに行くグループ、そしてホテルへ帰る組とに分かれた。
 
 「祥子はどうすんの?」
 「私もお婆ちゃんだからホテルに帰って寝るね? 茜は楽しんで来て」
 「そう? じゃあまた明日」
 「うん、明日またね? じゃあお先でーす」


 私と祥子は同じタクシーで一緒にホテルに帰ることになった。
 私が先にタクシーに乗り込んだ。
 すると隣に座った祥子が私の手を握った。

 「こんなに手が冷たくなってる」
 「酔いも覚めてきたからな?」
 
 私は耐えきれず、祥子にキスをした。
 祥子もそれに応じた。
 そして祥子は運転手に行き先の変更を告げた。

 「運転手さん、『ホテル富士』まで」
 「わかりました」

 年配の運転手は無愛想にそう答えると、ウインカーを出して道を曲がった。
 私たちは40年の時を越え、恋人同士に戻った。大人の恋人同士になろうとしていた。

 
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