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第5話
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宴会場は大広間をパーテーションで仕切られた場所だった。
会社の祝い事なのか、隣の宴会場には百足近いスリッパが並べられ、嬌声が聴こえていた。
温泉旅館での宴会は帰る必要がないので酒量も多くなりがちだ。ウチの宴会は女性数人を除いて他は温泉に浸かり、浴衣に丹前という出で立ちをしていた。
木下がマイクを取った。
「みなさん、おばんです。本日はお忙しいところ、遠方からの同級生も含めてようこそおいで下さいました。
会津での幹事は西川茜さんが引き受けて下さり、大変助かりました。西川さん、お疲れ様でした。
なお、今日の宿泊料金の交渉も西川さんがしてくれたおかげで、破格の料金になっております。
茜さん、本当にありがとうございました」
「茜! ありがとな!」
「よっ、名幹事!」
「さすけねえ(大丈夫よ)、交渉なら任せて頂戴。今日は飲み放題だからガンガン飲んで騒ぎましょうね!」
「おおーっ!」
木下が乾杯の音頭を私に指名した。
「今日は40年ぶりに唐沢君が東京から駆けつけてくれましたので、今夜の乾杯の音頭は唐沢君にお願いしたいと思います。では唐沢君、乾杯の音頭をよろしくお願いします」
私はグラスを持って立ち上がった。
「それでは木下からのご指名ですので、僭越ですがみなさん、グラスをどうぞ」
みんなもグラスを持った。
「それではみなさん、再会を祝して乾杯!」
「かんぱーい!」
拍手が湧いた。
御膳の席順はくじ引きで決められていた。うれしいことに私の右隣りは後藤で、左は西川だった。
すぐに西川が私にビールを注いでくれた。
「はい、飲んで飲んで唐沢君! かけつけ三杯よ」
私は一気にコップのビールを飲み干した。
「いい飲みっぷりじゃないの? 今日はジャンジャン飲んでね? 私と祥子が介抱してあげるから」
「俺はいいからふたりとも飲みなよ。俺が介抱してやるから」
「そんなこと言って私のGカップを触る気でしょう! 唐沢のスケベ!」
「嘘ばっかり、茜のお胸はせいぜいCカップでしょ? さっきお風呂で見ちゃったもんねー」
「あはははは、アンパンふたつ入れてくるの忘れてた」
「あはははは。私も私も」
私たちの席は一気に盛り上がった。
すると向かいの席の田崎が御膳を離れ、私たちの会話に参加して来た。
「何だべ、唐沢のところはやけに盛り上がってんでねえの?」
田崎が私たちにビールを注いでくれた。
「それじゃあまずは祥子から。ほれ麦ジュースだべ」
「ありがとう、田崎君もどうぞ」
「えへへへ、なんだか美人スナック・ママにお酌されてるみたいだな?」
「バカねー、祥子はスナックじゃなくて、銀座の高級クラブでしょ」
「あはははは、そうかそうか。それじゃ茜は赤坂だべか?」
「私? 私は赤羽のフィリピン・パブよ」
「じゃあ俺は会津のナンバーワンホストだべ」
「会津に歌舞伎町なんてあったっけ?」
「俺は会津のナンバーワン演歌歌手、ヨシ・ヤルゾーだ! カラオケ入れてけろ!
『俺ら東京さ行くだ』を歌うべ!」
みんなが田崎慎吾の歌に合わせて手拍子をした。お陰で一気に宴は盛り上がった。
祥子が私に酌をしてくれた。
「お酒、強いのね?」
「美人に注がれたら飲まないわけにはいかないよ」
「うふっ。唐沢君は明日帰るの?」
「もっとゆっくりしたいんだけど、月曜は会議なんだ。後藤は?」
「私はもう一泊してから帰るつもり」
「実家に寄ってから仙台に帰るのか?」
「まあそんなところ」
祥子は曖昧な返事をした。
(まさか男と一緒?)
私は変な邪推をしてしまった。確かに祥子のようないい女を放っておく男はいない。私の恋はあっけなく沈んだ。
そんなこともあり、私は酒を飲み続けた。やけ酒だった。
いつの間にか座席はバラバラになり、いくつかのグループに別れ、昔話に話がはずんだ。
久しぶりの再会ということもあり、私の周りには沢山の級友たちが集まってくれた。
「唐沢ちゃん、再婚しねえのか?」
「もうすぐ還暦のジジイの所に嫁に来る危篤な女はいねえべさ」
私も酔ってつい会津弁になってしまった。
「またみんなで集まるべな?」
「還暦の時にか?」
「うんだうんだ、赤いちゃんちゃんこ着てな?」
「それじゃあ私は赤いパンティ履いて来る! あはははは」
小野寺明美が笑いながらそう言った。
「そのパンティ、後で記念にオラにくろ」
「高いわよ~、私のパンツ」
「オライのベコと交換してくろ」
「あはははは」
中学を卒業してから40年、故郷の友だちとは良いものだ。
私は東京では別な自分を演じていた気がする。本心を隠して生きていた。それが都会で生きる知恵だと思っていた。私は久しぶりに鎧を脱いで楽しんだ。
「唐沢君、還暦のクラス会にも来てよね?」
「ああ、参加させてもらうよ」
「唐沢! 絶対だぞ!」
「ああ、死んでも来るよ」
「あははは このおんつあげす(馬鹿野郎)! 死んだら来れねえべ、長生きしろ唐沢!
よし指切りだ! 嘘ついたら明美のパンティもーらう、指切った!」
「あはははは」
トイレに宴会場を出た時、廊下の隅で祥子が深刻な顔でスマホで話しをしていた。
「だから違うってば! いつもあなたはそうなんだから!」
祥子が私に気づき、スマホの会話を辞めた。
「まずいところを見られちゃったわね?」
「何のことだ?」
私はわざととぼけてみせた。
「そういうところ、変わってないね? 後でここを出て、市内でふたりで飲まない?」
「いいけど」
「それじゃあスマホ貸して。一緒に出ると拙いから」
祥子にスマホを差し出すと、そこに祥子は自分のデータを手際よく登録してくれた。
「私の仙台の住所とスリーサイズも入れておいたからね?」
祥子はそう言って笑った。
会社の祝い事なのか、隣の宴会場には百足近いスリッパが並べられ、嬌声が聴こえていた。
温泉旅館での宴会は帰る必要がないので酒量も多くなりがちだ。ウチの宴会は女性数人を除いて他は温泉に浸かり、浴衣に丹前という出で立ちをしていた。
木下がマイクを取った。
「みなさん、おばんです。本日はお忙しいところ、遠方からの同級生も含めてようこそおいで下さいました。
会津での幹事は西川茜さんが引き受けて下さり、大変助かりました。西川さん、お疲れ様でした。
なお、今日の宿泊料金の交渉も西川さんがしてくれたおかげで、破格の料金になっております。
茜さん、本当にありがとうございました」
「茜! ありがとな!」
「よっ、名幹事!」
「さすけねえ(大丈夫よ)、交渉なら任せて頂戴。今日は飲み放題だからガンガン飲んで騒ぎましょうね!」
「おおーっ!」
木下が乾杯の音頭を私に指名した。
「今日は40年ぶりに唐沢君が東京から駆けつけてくれましたので、今夜の乾杯の音頭は唐沢君にお願いしたいと思います。では唐沢君、乾杯の音頭をよろしくお願いします」
私はグラスを持って立ち上がった。
「それでは木下からのご指名ですので、僭越ですがみなさん、グラスをどうぞ」
みんなもグラスを持った。
「それではみなさん、再会を祝して乾杯!」
「かんぱーい!」
拍手が湧いた。
御膳の席順はくじ引きで決められていた。うれしいことに私の右隣りは後藤で、左は西川だった。
すぐに西川が私にビールを注いでくれた。
「はい、飲んで飲んで唐沢君! かけつけ三杯よ」
私は一気にコップのビールを飲み干した。
「いい飲みっぷりじゃないの? 今日はジャンジャン飲んでね? 私と祥子が介抱してあげるから」
「俺はいいからふたりとも飲みなよ。俺が介抱してやるから」
「そんなこと言って私のGカップを触る気でしょう! 唐沢のスケベ!」
「嘘ばっかり、茜のお胸はせいぜいCカップでしょ? さっきお風呂で見ちゃったもんねー」
「あはははは、アンパンふたつ入れてくるの忘れてた」
「あはははは。私も私も」
私たちの席は一気に盛り上がった。
すると向かいの席の田崎が御膳を離れ、私たちの会話に参加して来た。
「何だべ、唐沢のところはやけに盛り上がってんでねえの?」
田崎が私たちにビールを注いでくれた。
「それじゃあまずは祥子から。ほれ麦ジュースだべ」
「ありがとう、田崎君もどうぞ」
「えへへへ、なんだか美人スナック・ママにお酌されてるみたいだな?」
「バカねー、祥子はスナックじゃなくて、銀座の高級クラブでしょ」
「あはははは、そうかそうか。それじゃ茜は赤坂だべか?」
「私? 私は赤羽のフィリピン・パブよ」
「じゃあ俺は会津のナンバーワンホストだべ」
「会津に歌舞伎町なんてあったっけ?」
「俺は会津のナンバーワン演歌歌手、ヨシ・ヤルゾーだ! カラオケ入れてけろ!
『俺ら東京さ行くだ』を歌うべ!」
みんなが田崎慎吾の歌に合わせて手拍子をした。お陰で一気に宴は盛り上がった。
祥子が私に酌をしてくれた。
「お酒、強いのね?」
「美人に注がれたら飲まないわけにはいかないよ」
「うふっ。唐沢君は明日帰るの?」
「もっとゆっくりしたいんだけど、月曜は会議なんだ。後藤は?」
「私はもう一泊してから帰るつもり」
「実家に寄ってから仙台に帰るのか?」
「まあそんなところ」
祥子は曖昧な返事をした。
(まさか男と一緒?)
私は変な邪推をしてしまった。確かに祥子のようないい女を放っておく男はいない。私の恋はあっけなく沈んだ。
そんなこともあり、私は酒を飲み続けた。やけ酒だった。
いつの間にか座席はバラバラになり、いくつかのグループに別れ、昔話に話がはずんだ。
久しぶりの再会ということもあり、私の周りには沢山の級友たちが集まってくれた。
「唐沢ちゃん、再婚しねえのか?」
「もうすぐ還暦のジジイの所に嫁に来る危篤な女はいねえべさ」
私も酔ってつい会津弁になってしまった。
「またみんなで集まるべな?」
「還暦の時にか?」
「うんだうんだ、赤いちゃんちゃんこ着てな?」
「それじゃあ私は赤いパンティ履いて来る! あはははは」
小野寺明美が笑いながらそう言った。
「そのパンティ、後で記念にオラにくろ」
「高いわよ~、私のパンツ」
「オライのベコと交換してくろ」
「あはははは」
中学を卒業してから40年、故郷の友だちとは良いものだ。
私は東京では別な自分を演じていた気がする。本心を隠して生きていた。それが都会で生きる知恵だと思っていた。私は久しぶりに鎧を脱いで楽しんだ。
「唐沢君、還暦のクラス会にも来てよね?」
「ああ、参加させてもらうよ」
「唐沢! 絶対だぞ!」
「ああ、死んでも来るよ」
「あははは このおんつあげす(馬鹿野郎)! 死んだら来れねえべ、長生きしろ唐沢!
よし指切りだ! 嘘ついたら明美のパンティもーらう、指切った!」
「あはははは」
トイレに宴会場を出た時、廊下の隅で祥子が深刻な顔でスマホで話しをしていた。
「だから違うってば! いつもあなたはそうなんだから!」
祥子が私に気づき、スマホの会話を辞めた。
「まずいところを見られちゃったわね?」
「何のことだ?」
私はわざととぼけてみせた。
「そういうところ、変わってないね? 後でここを出て、市内でふたりで飲まない?」
「いいけど」
「それじゃあスマホ貸して。一緒に出ると拙いから」
祥子にスマホを差し出すと、そこに祥子は自分のデータを手際よく登録してくれた。
「私の仙台の住所とスリーサイズも入れておいたからね?」
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