★【完結】恋ほど切ない恋はない(作品241118)

菊池昭仁

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第9話

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 私は暗くなる前に東京に戻ろうと、久しぶりの会津ではあったが、早めに会津を出ることにした。
 ただ猪苗代湖と磐梯山を目に焼き付けたいと思い、磐越自動車道には乗らず、49号国道を猪苗代まで走って行った。
 祥子の艶めかしい顔、声、肌の温もりが蘇る。
 私は志田浜でクルマを停め、湖畔の砂浜を革靴のまま独り歩いた。観光客の姿は疎らだった。
 昔から比べるとプレジャーボートも増え、湖水は汚れていた。
 ここから見る猪苗代湖は瀬戸内海の景色に似ている。猪苗代湖に明るいイメージはないが、見ていると何故か心が落ち着く。猪苗代湖には母なるやさしさと強さがあった。
 後ろを振り返えると、悠然とそびえ立つ磐梯山が見える。
 猪苗代湖は母であり、磐梯山は父だった。
 私は売店でコーヒーを買い、再びクルマを走らせ、猪苗代インターチェンジから高速に乗った。
 このまま行けば日暮れ前には都内に入ることが出来るだろう。
 長いトンネルが続いた。それは私と祥子の未来のようでもあった。私はアクセルを踏み込み、クルマを加速させた。



 祥子は黒沢のメルセデス、S600に乗って仙台に向かっていた。

 「久しぶりのクラス会はどうだった?」
 「別に」
 「お前はいいよなあ、クラス会なんて洒落たもんに誘われて。
 俺みたいな奴は呼ばれもしねえ。俺に会いたい奴はいねえからな? お前は恵まれているよ」
 「ヤクザに会いたい同級生なんて、いるわけないでしょ」

 祥子は吐き捨てるように言った。

 「そりゃそうだ、所詮、極道は利用する奴はいても、仲良くなりてえ奴はいねえからな? 鮨でも食って行くか?」
 「今日は帰る」
 「だったらここでしゃぶってくれよ」
 「イヤよ」
 「お前、何様だよ」

 黒沢はハンドルを握ったまま祥子の髪を鷲掴みにすると、自分の股間に祥子の顔を押し付けた。

 「だからイヤだってば!」
 「同級生とでもヤッて来たのか?」
 「やめてって言ってるでしょ!」


 黒沢は仙台南インターを降りると、近くのラブホにクルマを滑り込ませた。

 「今日はやめて、お願い」

 黒沢は祥子をクルマから引き摺り出すと、祥子の頬を平手打ちし、腹に蹴りを入れた。
 うずくまり、苦痛に顔を歪める祥子。それでも祥子は黒沢を睨みつけていた。

 「お仕置きがたりねえか? 立て、早くついて来い」

 祥子は仕方なく黒沢に從った。

 (ごめんなさい、清彦・・・)

 祥子は唐沢に心の中で詫びた。


 部屋に入ると、黒沢はオーストリッチのセカンドバッグから注射器を取り出した。それは黒沢のセックスの定番だった。

 「宇宙食、一緒にやろうぜ」
 「いや! やめて!」
 「お前、これがないと駄目だもんな?」

 黒沢は祥子の細い腕をむんずと掴むと血管を探し当て、手際よく静脈注射をした。
 注射器に祥子の血液が少し逆流して来た。どうやら針は静脈を捉えたようだった。
 祥子は観念し、抵抗することを諦めた。

 祥子は朝まで黒沢に責められ、よだれを垂らしながら我を忘れ、激しいエクスタシーが祥子のカラダを痺れさせた。

 「本当にお前はいい女だな? お前以上の女は見たことがねえよ」

 祥子は唐沢を思って泣いた。

 (さよなら、清彦・・・)


 
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