【連載】気まぐれ日記エッセイ「残された時間の過ごし方」

菊池昭仁

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生かされていること

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 いつその時はやって来るのだろう?
 駅の階段を降りている時? 料理をしている時? 自転車を漕いでいる時? スーパーで買い物をしている時? 幸楽苑で中華そばを食べている時? 風呂に浸かっている時や歯を磨いている時? それとも布団に入って寝ようとしている時?
 突然この心臓が停止するのかもしれないと思いながら今も生きています。

 いや、生かされています。

 「何のために?」 それは私にはわかりません。
 人生を学ぶため? 人を励ますため? 人に生きることの素晴らしさを伝えるため?

 100歳まで生きたいとは思いません。周りに迷惑を掛けたくないからです。
 還暦とは死んで生まれ変わることだと思うのです。それを余生というのかもしれない。
 私は余生という言葉が嫌いです。「余りの人生」なんてないからです。
 
 人は病気や事故で亡くなるのではなく、神様がお決めになった寿命で死ぬのです。
 だから天寿を全うしなければならない。神様が与えて下さった命だからです。

 目を患い、心臓を患い、腎臓を患い、そして精神も危うい。いや、もうとっくに壊れていると思います。
 それでも生かせていただいている。
 家族は私から離れて行きました。私は色んな物を失う度に「自分は奇跡の連続で生かされているんだなあ」と感じます。
 手があって、足があって歩くことも出来る。話が出来て、耳が聞こえて呼吸も出来る。
 それは決して当たり前ではないことを。
 だがそんなことを言ったところで健康な人には理解できないし、興味もないかもしれません。
 でもそれが真実なんです。私たちは奇跡で生かされているのです。
 
 私は病気になって良かったのかもしれません。それに気づくことが出来たから。

 
 人間は欲望の塊です。食欲、性欲、睡眠欲で生きています。つまり五感を満足させるためにです。
 なぜ欲望があるのでしょうか? それは生きて自分を進化させ、命を繋ぐためだと思います。
 欲があるから努力し、成長するのも否めない事実だからです。
 
 そしてその欲望を叶えてくれるのがお金です。
 人間はお金を欲しがります。心を満たすために。

 美味いものを食べ、美酒に酔う。雨露をしのぎ、温かいベッドで眠るしあわせ。恋愛をすることで満たされる感情、心。

 
 人はしあわせになるためにはそれに見合うだけの物を差し出さなければなりません。
 一級海技士の資格を取り、世界の海を渡り、五大陸も訪れました。地球が丸いのも経験して知っています。
 企業家になり成金にもなりました。豪邸に高級車、毎晩のように美味い物を食べ、浴びるように酒を飲み、女を抱きました。
 大統領のように働いて王様のように遊んだのです。
 そして多くを失いました。楽しんだ分なくしたのです。

 普通に真面目に生きていれば失う物も少なかったのかもしれません。
 別れた奥さんから言われました。

 「普通の生活がしたかった」

 私は来世で償わなければなりません。欲望の限りを生きた人生を。
 今度は自分のためではなく、人のために生きたいと思います。
 そんなことを考えた午前3時でした。
 
 
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