【連載】気まぐれ日記エッセイ「残された時間の過ごし方」

菊池昭仁

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 昨日は2週間に一度の内蔵の検査の日だった。連休明けということもあり、病院は病人たちで大賑わい、大盛況である。
 昨夜はあまり寝ていない私は酷く疲れ果てていた。


 まずは血液検査と採尿。そしてレントゲンである。
 今日の臨床検査技師さんはおばちゃんだった。

 (おばちゃんなら安心だな?)

 と思ったのも束の間、

 「菊池さんは右手指定なんですね?」
 「ええ、透析する腕を左腕に予定しているので右腕でお願いします」
 「そうですか? いつもこの辺から採血しています?」

 プニプニと血管の辺りを触るおばちゃん。
 私の血管はわかりやすいとベテラン美人ナースは言うが、この時点で針を指す場所に自信がない検査技師はヤバい。間違いなく痛いのである。

 「ちょっとチクッとしますね~」

 案の定、チクッじゃなく「ザクッ」だった。私はスナック菓子の「オーザック」を思い出していた。


 なんとか採血を終え、採尿室へ。
 今日は採尿カップに三分の一しか出なかった。ビールじゃないんだから並々注ぐのも迷惑だよな。

 
 手を洗っていると後ろでおばちゃんの声がする。

 「あらら、何かしらこれ? 血?」

 トイレ掃除のおばちゃんだった。どうやら床に血液が滴っていたらしく、真っ先に私に嫌疑が向けられた。

 「血尿ですか?」
 「うん、そうみたい」
 「私は血は出ていませんでしたけどねえ」

 それには答えず黙々と床を消毒するおばちゃん。
 ここは病院だ。鼻血や血尿くらい出るよなあ。若い頃、先輩からよく言われたなあ。

 「男なら血の小便が出るくらい働け」

 と言われたことを思い出した。
 血尿は出たことはないが、死んじゃうと思ったくらい死ぬほど働いた。
 そしたら病気になっていた。



 検査を終え、待合室で診察の順番を待っていると後ろの席が以上に盛り上がっている。ジジイとババアとその娘。

 (俺は居酒屋にタイムスリップしたのか?)

 「この前なんかさあ、うるさいって注意されちゃって。電話しているわけでもないのによ」
 「それはおかしい!」
 「うんうん」

 電話の方がまだマシだよ、お前らバカ家族のくだらない会話よりも!
 私は席を移動し、注意しようか迷っていると、私のメラメラオーラに気付いたようで静かになった。
 健康な人は病院には来ない。傷み苦しんでやってくる患者さんが殆どである。中には手術や余命宣告を受ける人もいるかもしれない。みんなのいる場所でのエチケットは必要なのだ。

 エチケットという言葉はベルサイユ宮殿の花壇の看板に由来するらしい。

 「お花畑を荒らさないで下さい」

 人の気持は傷つきやすいお花だ。




 「菊池さん、心臓の肥大も収まってクレアチニンやカリウムの値もいいですね?
 これならまだ透析のためのシャント手術は先のようですよ」
 「先生のお陰です!」

 ちょっと泣いちゃった。爺さんになると涙脆くて困る。
 この名医のお陰で私はまた健常者と変わらぬ生活が送れている。



 今度は眼科医からの診断書を携えてバスに揺られて30分。市役所に障がい者手帳の更新申請に行った。

 ここも結構混んでいた。やっと私の番になり、

 「ではこの書類で間違いがないか、ご確認をお願いします」
 「あのー、目が不自由なので読めません」

 するとその女性職員さんは書類を読み上げてくれた。
 いつも思うのだが身体障害者には視覚障害者もいる。それなのに文字は小さくてグレーで見えない。
 まあ、ひとりで来る自分が悪いのかもしれないが、「やればいい」が見え隠れする。

 
 帰り際、

 「白十字の障がい者ストラップってどこに売っているんですか?」
 
 と尋ねると、

 「少しお待ち下さい」

 と言ってストラップを渡してくれた。

 「あとステッカーが2枚選べますよ」

 私は「視覚障害者」と書かれたステッカーを2枚お願いした。


 私は目が不自由で心不全、腎不全には見えないジジイなので電車でステッキを突いて立っていてもあまり席を譲られたことはない。
 優先席に座っている人達は都知事のようにタヌキ寝入りかスマホをいじって目を合わせようとはしない。

 (これで席を譲ってくれるかもしれないし、クソチェーン店の店員にも舌打ちされることもないはずだ)

 たぶん・・・。



 でも外国人には絶好のカモなのかもしれないな(ダジャレ)

 「あのチョロいジジイを襲え」

 とかね? 移民の受け入れを楽しんでいる日本の政治家やリベラリストたち。どうか治安だけは守ってよね。

 
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