狂ったドリアン

菊池昭仁

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人間だけが偉いの?

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 俺は本当は熱い風呂が好きだ。
 那須に『鹿の湯』という歴史のある温泉があり、50℃の温泉に入ったこともあるくらいだ。
 ダチョウ倶楽部の上島竜兵さんより凄いと思う。
 恐る恐るつま先を入れた瞬間、

 「中々やるじゃねえか?」

 そう感じた。

 その枡の風呂にはすでに爺さんがドヤ顔で入っていた。

 「お若いの、やめといた方が身のためだぜ」

 と言わんばかりの態度にカチンと来た俺は、徐々にカラダを慣らしていき、ついに50℃温泉を攻略した。

 「満足、満足」

 するとその爺さんは不機嫌そうにその枡風呂を出て行ってしまった。
 ざまあ見ろ。


 それくらい俺は熱い風呂が好きだった。江戸っ子でもないのに。
 
 数年前までは45℃の風呂に入っていたが、ある日風呂から上がって心臓が苦しくなり、死にそうになったので熱い風呂は辞めた。

 女子のように長風呂である俺は1時間は湯船に浸かっている。

 なぜって、詩や小説が降ってくるから。
 バスタイムは俺にとってはシンキングタイムでもあるのだ。

 私はスマホを湯船の脇に置き、音楽を聴くのが習慣になっている。
 だから最近は41℃で我慢して入っているがぬるい。

 今日は久しぶりにイルカを聴いた。
 イルカと言ってもDolphinじゃないよ。シンガーソングライターのイルカさん。

 思わず泣いてしまった。

 『いつか冷たい雨が』にである。

 中学生の時、休み時間にギターで弾き語りをしていた曲だった。

 興味のある人は聴いてみて下さい。
 今、俺たちが忘れていた歌詞がそこに詰め込まれているので。

  
     人間だけが偉いんだなんてことだけは
     思わないでください

 
 その通りだと思った。

 私は牛肉も好きだが牛さんを殺して食べたことはない。
 嫌な仕事は誰かがやってくれる。
 
 焼肉屋さんでキレイなお姉さんが、

 「うわーっ、これA5ランクじゃないの! 美味しそう!」

 とは言っても、まさか彼女は牛さんに牛刀を持って襲いかかることはない。


 そんな歌がこの歌である。

 
     見て見ぬふりをして生きている


 知り合いの女性が最近、死にそうな子猫を保護して育てている。
 彼女は無責任なことはしない。

 「かわいそう。キャットフードをばら撒いてあげないと」

 と言ってその場を立ち去るような事はしない。
 仕方がないのだ、飼ってあげたいが彼女にも事情があるのだから。
 誰だって連れて帰りたくなる筈だ。

 なるべくそういう場面に遭遇したくないが、見てしまうと辛い。
 自分を責めてしまう。


     なんて俺は冷たい人間なんだと

 
 自分の良心を試されているようで。

 せめて人間だけが偉いなんて思わずに、悲しみを素直に受け止めて生きたい。
 
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