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入院55日目
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以前、入院した時にお世話になった澤田さんと病室でじゃれていた。
「あら狸小路さん、出戻り?」
「ただいま澤田さん、パンツちょうだい」
「アハハハ 相変わらず元気そうで安心したわ、その調子ならもうすぐ退院ね?」
「何だか延びるみたいなんだよ」
「あらそう? 頭が痛いとか怠いとかは?」
「元気だよ、この前はシンいっそセレナーゼで死にかけたけど」
「心タンポナーデだったんだってね?」
すると斜め向かいのカーテンからイライラした声がした。
「来る看護師、来る看護師といちゃついてんじゃねえ!」
と、温かいお言葉。
私と澤田さんは顔を見合わせた。
私はそのオッサンのカーテンを
開けて私は吹き出して笑った。
なんとオッサンだと思ったそのオッサンは爺さんだつたからだ。
シワとシミ、怒りにワナワナと唇震えた唇。そして生え際のない真っ黒なアイパーのヘアスタイルに私は床に柴ワンコのように転がり笑い続けた。
「何がおかしい!」
「だってヅラだけ30代なんだもん、顔はジジイなのに。あははあはは」
「おのれよくも人が気にしてることを!」
「ヅラなんか取っちまえよ、俺なんかハゲだけど隠さねえよ。
だってそれが俺の個性だから」
「お前と一緒にするな! 不愉快だ!」
そして翌朝、爺さんはヅラを外して晴れやかな笑顔で挨拶をして来た。
「ようやく85歳の自分になれたよ」
「その方が自然でいいよ」
「そうだな? ありのままに生きたアリは蟻のままだからな?」
俺と爺さんは笑った。
左手の中指が逆さ爪になっていた。逆さ爪は親不孝の証だと笑っていた親はもういない。
なぜ逆さ爪が親不孝かと言うと、それが夜遊びなどの不摂生が原因で逆さ爪になり、それにより水仕事が出来ず親に迷惑をかけるからだという。
昔の日本人の平均寿命は50年だったと言われている。
だから還暦を盛大に祝ったのだろう。
それが今では100歳も珍しくはなくなった。
医学の進歩は目覚ましい。それがいい事か悪い事かは別としてだが人は死ななくなった。
昭和の時代は定年を過ぎて70歳前後が男性の寿命だった。
呆けることもなく、家族に迷惑もかけずにあっさりと死んで行った。
大した年金も受け取ることもなく、家族の為に働いて死んで行ったのである。
この病院も高齢者ばかりでその9割が痴呆、あるいはその予備軍だった。
鳴り止まないナースコール、走り回るナースたち。
「お願~い、お願~い、誰か来て~!」
と叫び続ける痴呆老人。そしてその老人が静かになるまで話しかけているナースには頭が下がる。
私は瑠璃子に訊いた。
「鎮静剤でも打って放置すればいいじゃねえか?」
「同じ人間として出来るだけのことをしてあげたいから。
だってそれがナースの仕事だもの」
女性の社会進出が求められる昨今.高市早苗やわけのわからない女大臣ではなく、こんな人たちにこそ、国政に参加してもらいたいものである。
私はまた、このセント・パラダイス病院に入院して良かったと思った。
「あら狸小路さん、出戻り?」
「ただいま澤田さん、パンツちょうだい」
「アハハハ 相変わらず元気そうで安心したわ、その調子ならもうすぐ退院ね?」
「何だか延びるみたいなんだよ」
「あらそう? 頭が痛いとか怠いとかは?」
「元気だよ、この前はシンいっそセレナーゼで死にかけたけど」
「心タンポナーデだったんだってね?」
すると斜め向かいのカーテンからイライラした声がした。
「来る看護師、来る看護師といちゃついてんじゃねえ!」
と、温かいお言葉。
私と澤田さんは顔を見合わせた。
私はそのオッサンのカーテンを
開けて私は吹き出して笑った。
なんとオッサンだと思ったそのオッサンは爺さんだつたからだ。
シワとシミ、怒りにワナワナと唇震えた唇。そして生え際のない真っ黒なアイパーのヘアスタイルに私は床に柴ワンコのように転がり笑い続けた。
「何がおかしい!」
「だってヅラだけ30代なんだもん、顔はジジイなのに。あははあはは」
「おのれよくも人が気にしてることを!」
「ヅラなんか取っちまえよ、俺なんかハゲだけど隠さねえよ。
だってそれが俺の個性だから」
「お前と一緒にするな! 不愉快だ!」
そして翌朝、爺さんはヅラを外して晴れやかな笑顔で挨拶をして来た。
「ようやく85歳の自分になれたよ」
「その方が自然でいいよ」
「そうだな? ありのままに生きたアリは蟻のままだからな?」
俺と爺さんは笑った。
左手の中指が逆さ爪になっていた。逆さ爪は親不孝の証だと笑っていた親はもういない。
なぜ逆さ爪が親不孝かと言うと、それが夜遊びなどの不摂生が原因で逆さ爪になり、それにより水仕事が出来ず親に迷惑をかけるからだという。
昔の日本人の平均寿命は50年だったと言われている。
だから還暦を盛大に祝ったのだろう。
それが今では100歳も珍しくはなくなった。
医学の進歩は目覚ましい。それがいい事か悪い事かは別としてだが人は死ななくなった。
昭和の時代は定年を過ぎて70歳前後が男性の寿命だった。
呆けることもなく、家族に迷惑もかけずにあっさりと死んで行った。
大した年金も受け取ることもなく、家族の為に働いて死んで行ったのである。
この病院も高齢者ばかりでその9割が痴呆、あるいはその予備軍だった。
鳴り止まないナースコール、走り回るナースたち。
「お願~い、お願~い、誰か来て~!」
と叫び続ける痴呆老人。そしてその老人が静かになるまで話しかけているナースには頭が下がる。
私は瑠璃子に訊いた。
「鎮静剤でも打って放置すればいいじゃねえか?」
「同じ人間として出来るだけのことをしてあげたいから。
だってそれがナースの仕事だもの」
女性の社会進出が求められる昨今.高市早苗やわけのわからない女大臣ではなく、こんな人たちにこそ、国政に参加してもらいたいものである。
私はまた、このセント・パラダイス病院に入院して良かったと思った。
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