【完結】『続・聖パラダイス病院』(作品260123)

菊池昭仁

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入院55日目

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 以前、入院した時にお世話になった澤田さんと病室でじゃれていた。

 「あら狸小路さん、出戻り?」
 「ただいま澤田さん、パンツちょうだい」
 「アハハハ 相変わらず元気そうで安心したわ、その調子ならもうすぐ退院ね?」
 「何だか延びるみたいなんだよ」
 「あらそう? 頭が痛いとか怠いとかは?」
 「元気だよ、この前はシンいっそセレナーゼで死にかけたけど」
 「心タンポナーデだったんだってね?」

 すると斜め向かいのカーテンからイライラした声がした。

 「来る看護師、来る看護師といちゃついてんじゃねえ!」

 と、温かいお言葉。
 私と澤田さんは顔を見合わせた。
 
 私はそのオッサンのカーテンを
開けて私は吹き出して笑った。

 なんとオッサンだと思ったそのオッサンは爺さんだつたからだ。

 シワとシミ、怒りにワナワナと唇震えた唇。そして生え際のない真っ黒なアイパーのヘアスタイルに私は床に柴ワンコのように転がり笑い続けた。

 「何がおかしい!」
 「だってヅラだけ30代なんだもん、顔はジジイなのに。あははあはは」
 「おのれよくも人が気にしてることを!」
 「ヅラなんか取っちまえよ、俺なんかハゲだけど隠さねえよ。
 だってそれが俺の個性だから」 
 「お前と一緒にするな! 不愉快だ!」


 そして翌朝、爺さんはヅラを外して晴れやかな笑顔で挨拶をして来た。

 「ようやく85歳の自分になれたよ」
 「その方が自然でいいよ」
 「そうだな? ありのままに生きたアリは蟻のままだからな?」
 
 俺と爺さんは笑った。



 左手の中指が逆さ爪になっていた。逆さ爪は親不孝の証だと笑っていた親はもういない。
 なぜ逆さ爪が親不孝かと言うと、それが夜遊びなどの不摂生が原因で逆さ爪になり、それにより水仕事が出来ず親に迷惑をかけるからだという。
 昔の日本人の平均寿命は50年だったと言われている。
 だから還暦を盛大に祝ったのだろう。
 それが今では100歳も珍しくはなくなった。
 医学の進歩は目覚ましい。それがいい事か悪い事かは別としてだが人は死ななくなった。
 昭和の時代は定年を過ぎて70歳前後が男性の寿命だった。
 呆けることもなく、家族に迷惑もかけずにあっさりと死んで行った。
 大した年金も受け取ることもなく、家族の為に働いて死んで行ったのである。

 この病院も高齢者ばかりでその9割が痴呆、あるいはその予備軍だった。
 鳴り止まないナースコール、走り回るナースたち。

 「お願~い、お願~い、誰か来て~!」

 と叫び続ける痴呆老人。そしてその老人が静かになるまで話しかけているナースには頭が下がる。
 私は瑠璃子に訊いた。

 「鎮静剤でも打って放置すればいいじゃねえか?」
 「同じ人間として出来るだけのことをしてあげたいから。
 だってそれがナースの仕事だもの」
 
 女性の社会進出が求められる昨今.高市早苗やわけのわからない女大臣ではなく、こんな人たちにこそ、国政に参加してもらいたいものである。

 私はまた、このセント・パラダイス病院に入院して良かったと思った。
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