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第11話 楽園
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「日本人の死生観は我々アングロサクソンには到底理解出来んよ。
生と死は人間がコントロールするものではない。それは神の領域なのだ。
男は75才、女は80才になると人間としての価値がないという考えは、かつてのナチスのホロコーストに匹敵する考えだ」
「大統領、日本には昔、『姥捨て』という風習があったそうです。足手纏いになった老人を山奥に捨てるという恐ろしいものです」
「日本人とは実に不可解な民族だよ。世界に類を見ない高度な教育制度や独特の文化を持ち、植民地も資源も持たずに基礎的な発明も発見も出来ない。ただの小さな島国、JAPAN。
太平洋戦争では310万人以上もの国民を失い、国土は焼き尽くされ瓦礫の山となり、殆どの国家財産は我々合衆国に没収されアメリカの実質的な植民地となって来た日本。
そんな日本が再び強大な軍事力を持って世界第1位の経済大国となって甦って来た。
マルコポーロは『東方見聞録』の中で日本を「黄金の国、ジパング」と紹介し、ポルトガル、スペイン、イギリスは日本の侵略を夢見た。
だが彼らは日本人を甘く見ておったのだよ。「未開の地に住む猿」だとね。
各藩から選抜された若者たちが命懸けで海を渡り、たった数年の内に我々が培った文化文明、生活習慣、社会制度を吸収し、外様大名として冷遇されていた薩摩や長州を中心としたギャングたちが列強の支援を受け、265年続いた江戸幕府を倒し、日本を短期間で変革させ明治維新を成し遂げたのだ。
そして富国強兵のスローガンの元、近代国家日本を創り上げ、我々の世界に土足で入り込んで来た。
恐ろしい国だよ日本は」
「ですが大統領、所詮サルはサルでしかありません。日本は我がアメリカの敵ではありませんよ」
「アーノルド、君はライオンが一番恐れる動物が何かを知らないようだ」
「大統領、百獣の王ライオンに恐れるものなど存在しません」
「シマウマだよ。死を恐れぬシマウマだ。忘れたのかね? 彼らがかつて掲げていたあの「一億玉砕」という美辞麗句を。
Bite a cornered rat cat,(窮鼠猫を噛む)
彼らは猫に追い詰められたネズミなのだよ。死を忘れたネズミなのだよ」
現代の姥捨て山、『楽園』は小笠原諸島にある国土地理院の発行する地図には存在しない島であった。
島の大きさは東京都の中央区と港区を合わせたほどの広さがあり、フェリーターミナルと空港が完備され、警察ではなく陸軍の治安維持部隊が駐留していた。
『楽園』には銀行もATMもない。すべてが無料なので現金は必要なかった。
欲しい物やサービスはすべて揃う。高級外車、宝飾品やブランド服、靴やバッグ。ヘアサロンにエステ。高級時計もすべて与えられていた。
食事は高級フレンチに中華、寿司、天ぷらなどが供され、ラーメン、蕎麦などの麺類、焼肉などが好きな時に好きなだけ食べることが出来た。
酒も飲み放題。タバコ、ドラッグさえも許されていた。
豪華タワーマンションが用意され、オーケストラや有名アーティストのコンサートに舞踏会、映画館にカラオケ。
カジノにパチンコ、麻雀などの娯楽も充実していた。
もちろん恋愛も自由。若い女、男を求め、風俗も充実していた。
食欲、睡眠欲、性欲。そして所有欲のすべてが満たされていた。
そこへ毎日毎日、航空機や大型フェリーなどによって続々と老人たちがこの島にやって来る。
「皆さん、『楽園』へようこそ! わたくしは皆さんをご案内するアンドロイド、アンジェロ23号と申します。
ここは24時間年中無休の眠らない都市です。
ここでは毎日が休日であり時間の概念がありません。
まさにこの世の『楽園』なのです。ここではお金は必要ありません。すべてが無料です。
かつて皆さんが夢に見たことがこの島では殆どの願いが叶うのです。
仮に宝くじで10億円が当たったら何がしたいですか?」
「ワシは大きな屋敷が欲しい」
「私はバーキンのバッグとシャネルのお洋服が欲しいわ」
「俺は鮨が食べたい。回らない寿司をたらふく食べてみたい。そして旨い酒にいい女もな」
「私は韓流スターのペ・ヨンジュンとお食事がしたいわ」
「ポルシェのオープンカーに乗りたいぞ」
アンジェロ23号は老人たちを前に言った。
「この島ではみなさんのそんな望みはすべて叶えられます。
ここでは好きなことが好きなだけ出来るのです。余計なことは考えずにただ毎日を楽しく愉快にお過ごし下さい。
ただしこの島を出て旅行に出掛けたり、家族の元を訪れることは出来ません。そして内地の人と連絡を取る事も出来ません。
ここにはひとつだけルールがございます。それはこの島を出ようとしないこと。もし万が一にもそのルールを破った場合はとても恐ろしい罰を受けることになりますのでご注意下さい。よろしいですね?」
老人たちは黙って頷いた。
「ではこれから皆さんの居住地にご案内いたします。このオートモービルにご乗車下さい」
老人たちはオートモービルから見える島の美しさに溜息を洩らした。
島には木々が生い茂り、南国の花々が咲き乱れ、小鳥たちの囀りが聞こえ、近代的な建物が立ち並んでいた。
今日、この島へ来た老人たちは、この『楽園』が別名、『メタルシティ』と呼ばれていることはまだ知る由もなかった。
血も涙もない欲望都市。現代の姥捨て山、メタルシティ。
生と死は人間がコントロールするものではない。それは神の領域なのだ。
男は75才、女は80才になると人間としての価値がないという考えは、かつてのナチスのホロコーストに匹敵する考えだ」
「大統領、日本には昔、『姥捨て』という風習があったそうです。足手纏いになった老人を山奥に捨てるという恐ろしいものです」
「日本人とは実に不可解な民族だよ。世界に類を見ない高度な教育制度や独特の文化を持ち、植民地も資源も持たずに基礎的な発明も発見も出来ない。ただの小さな島国、JAPAN。
太平洋戦争では310万人以上もの国民を失い、国土は焼き尽くされ瓦礫の山となり、殆どの国家財産は我々合衆国に没収されアメリカの実質的な植民地となって来た日本。
そんな日本が再び強大な軍事力を持って世界第1位の経済大国となって甦って来た。
マルコポーロは『東方見聞録』の中で日本を「黄金の国、ジパング」と紹介し、ポルトガル、スペイン、イギリスは日本の侵略を夢見た。
だが彼らは日本人を甘く見ておったのだよ。「未開の地に住む猿」だとね。
各藩から選抜された若者たちが命懸けで海を渡り、たった数年の内に我々が培った文化文明、生活習慣、社会制度を吸収し、外様大名として冷遇されていた薩摩や長州を中心としたギャングたちが列強の支援を受け、265年続いた江戸幕府を倒し、日本を短期間で変革させ明治維新を成し遂げたのだ。
そして富国強兵のスローガンの元、近代国家日本を創り上げ、我々の世界に土足で入り込んで来た。
恐ろしい国だよ日本は」
「ですが大統領、所詮サルはサルでしかありません。日本は我がアメリカの敵ではありませんよ」
「アーノルド、君はライオンが一番恐れる動物が何かを知らないようだ」
「大統領、百獣の王ライオンに恐れるものなど存在しません」
「シマウマだよ。死を恐れぬシマウマだ。忘れたのかね? 彼らがかつて掲げていたあの「一億玉砕」という美辞麗句を。
Bite a cornered rat cat,(窮鼠猫を噛む)
彼らは猫に追い詰められたネズミなのだよ。死を忘れたネズミなのだよ」
現代の姥捨て山、『楽園』は小笠原諸島にある国土地理院の発行する地図には存在しない島であった。
島の大きさは東京都の中央区と港区を合わせたほどの広さがあり、フェリーターミナルと空港が完備され、警察ではなく陸軍の治安維持部隊が駐留していた。
『楽園』には銀行もATMもない。すべてが無料なので現金は必要なかった。
欲しい物やサービスはすべて揃う。高級外車、宝飾品やブランド服、靴やバッグ。ヘアサロンにエステ。高級時計もすべて与えられていた。
食事は高級フレンチに中華、寿司、天ぷらなどが供され、ラーメン、蕎麦などの麺類、焼肉などが好きな時に好きなだけ食べることが出来た。
酒も飲み放題。タバコ、ドラッグさえも許されていた。
豪華タワーマンションが用意され、オーケストラや有名アーティストのコンサートに舞踏会、映画館にカラオケ。
カジノにパチンコ、麻雀などの娯楽も充実していた。
もちろん恋愛も自由。若い女、男を求め、風俗も充実していた。
食欲、睡眠欲、性欲。そして所有欲のすべてが満たされていた。
そこへ毎日毎日、航空機や大型フェリーなどによって続々と老人たちがこの島にやって来る。
「皆さん、『楽園』へようこそ! わたくしは皆さんをご案内するアンドロイド、アンジェロ23号と申します。
ここは24時間年中無休の眠らない都市です。
ここでは毎日が休日であり時間の概念がありません。
まさにこの世の『楽園』なのです。ここではお金は必要ありません。すべてが無料です。
かつて皆さんが夢に見たことがこの島では殆どの願いが叶うのです。
仮に宝くじで10億円が当たったら何がしたいですか?」
「ワシは大きな屋敷が欲しい」
「私はバーキンのバッグとシャネルのお洋服が欲しいわ」
「俺は鮨が食べたい。回らない寿司をたらふく食べてみたい。そして旨い酒にいい女もな」
「私は韓流スターのペ・ヨンジュンとお食事がしたいわ」
「ポルシェのオープンカーに乗りたいぞ」
アンジェロ23号は老人たちを前に言った。
「この島ではみなさんのそんな望みはすべて叶えられます。
ここでは好きなことが好きなだけ出来るのです。余計なことは考えずにただ毎日を楽しく愉快にお過ごし下さい。
ただしこの島を出て旅行に出掛けたり、家族の元を訪れることは出来ません。そして内地の人と連絡を取る事も出来ません。
ここにはひとつだけルールがございます。それはこの島を出ようとしないこと。もし万が一にもそのルールを破った場合はとても恐ろしい罰を受けることになりますのでご注意下さい。よろしいですね?」
老人たちは黙って頷いた。
「ではこれから皆さんの居住地にご案内いたします。このオートモービルにご乗車下さい」
老人たちはオートモービルから見える島の美しさに溜息を洩らした。
島には木々が生い茂り、南国の花々が咲き乱れ、小鳥たちの囀りが聞こえ、近代的な建物が立ち並んでいた。
今日、この島へ来た老人たちは、この『楽園』が別名、『メタルシティ』と呼ばれていることはまだ知る由もなかった。
血も涙もない欲望都市。現代の姥捨て山、メタルシティ。
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