13 / 15
第13話 死の選別
しおりを挟む
白衣を着た十数人の医学生たちが談笑しながら大野の前を通り過ぎて行った。
「お前、今日の解剖はあと何体だ?」
「午前中に3体やって午後からは2体。いい加減、流石にもううんざりだよ、ジジババの解剖なんて」
「桐野はまだいいよ、死んでるご遺体の解剖だから。俺は臨床試験と言う名の「人体実験」だ。ジジババとは言え、流石に堪えるよ。まるでかつての旧日本陸軍の731部隊と同じだ」
「でもいいじゃないか? そのお陰でしょっちゅう製薬会社から銀座で接待されて。おまけに「お車代」とかいって小遣まで貰えるんだろう?」
「だったらお前も前田教授に志願しろよ、「ラボに移動させて下さい」ってな? そうすればザギンでシースー喰ってホステスとやりまくって10万円の小遣いが貰えるぞ。その代わり、老人たちの「死にたくない、殺さないでくれ!」っていう断末魔の叫びと哀願するような眼差しに耐える自信があればの話だがな? そのせいで平野は今も閉鎖病棟に入院したままだ」
「やっぱり辞めとくよ。俺は人が死なねえラクな皮膚科か泌尿器科志望だからな。あはははは。
早いとこクリニックを開業して大金持ちだぜ」
大野はいつものようにこの海岸通りのベンチに座り、ただボーッと海を眺めていた。
ダイヤモンドをばら撒いたように煌めく海。海猫たちが長閑に空を舞っていた。
このメタルシティに来てからすでに一週間が過ぎようとしていた。
見知らぬ老人が大野に話し掛けて来た。
「下品な医者の卵たちですな? あんな連中が将来、医者になるのかと思うとゾッとします」
「仕方がありませんよ。我々の体は彼らの「教材」になるのですから」
「私は畦倉啓介といいます。岩手の盛岡の出身です」
「はじめまして、大野修一です。名古屋から参りました」
私たちは握手を交わし、畦倉は私の隣に腰を降ろした。
「小山田総理は悪魔ですな? よくもまあこんな巨大な姥捨て山を作り、安楽死などと馬鹿げたことを考えおって。
あやつはヒトラーの生まれ変わりでしょうな? ここはまるでナチスの作ったユダヤ人居留区、ゲットーのようです。
大野さんは我々がどうやって殺されるかご存知ですかな?」
「いえ、知りません。ここには一週間前に来たばかりなので」
「左様か? 実はな、それぞれ人によって殺され方が違うんじゃよ。
マイナンバーカードに記憶されている国民評価ポイントによって5段階に分類されます。
800ポイント以上の国民はフカフカのベッドである薬物を注射され、好きな音楽を聴きながら眠るように死ぬことが出来る。
600ポイント以上、800ポイント未満ではシャブ漬けにされ、ボロボロの廃人になって死んで行きます。
400から600ポイントの老人たちは『死の舞踏会』に招かれて踊り続け、最後は会場に充満させたサリン・ガスで殺される。
200から400ポイントになるとアウシュビッツのように裸にされてガス室に寿司詰めにされて恐怖の中で死を迎える。
一番悲惨なのが200ポイントにも満たない連中だ。
彼らはモルモットにされる。つまり様々な人体実験に利用されることになるのです。
そしてその国民評価ポイントの数値はこのメタルシティの執行官しか知らんのです」
「そうでしたか・・・」
大野にはどうでも良い話だった。
苦しまずに眠るように死のうが、銃殺や絞首刑になろうが死ぬことに変わりがないからだ。
たとえラクに死ねたとしてもそれは現世でのことであり、死後の神の裁きは別にある筈だからだ。
家族から見捨てられ、5年前に左目を失明して心筋梗塞。今は心臓が30%しか動いていない大野にとってはいつも死は身近なものだった。
懸命に働き贅沢に暮らした。大きな屋敷や高級車、いつも女たちと過ごしていた。
美食に旨い酒、だがいつも大野は深い孤独の中にいた。
大野が怖いのは死ではなく孤独だった。
だから大野は死を怖れはしない。死はこの孤独からの解放に過ぎないからだ。
「いかがですかな? 一緒にお食事でも? 血の滴るようなレア・ステーキとシャトー・マルゴーなどは?」
「私は食が細いので今日は握飯を持参していますからどうぞお気遣いなく」
「そうでしたか? 歳を取っても肉を食べないと力が出ませんからな? では失礼」
畦倉はそう言って去って行った。
大野は思った。彼は200ポイント未満のモルモットなのかもしれないと。
「お前、今日の解剖はあと何体だ?」
「午前中に3体やって午後からは2体。いい加減、流石にもううんざりだよ、ジジババの解剖なんて」
「桐野はまだいいよ、死んでるご遺体の解剖だから。俺は臨床試験と言う名の「人体実験」だ。ジジババとは言え、流石に堪えるよ。まるでかつての旧日本陸軍の731部隊と同じだ」
「でもいいじゃないか? そのお陰でしょっちゅう製薬会社から銀座で接待されて。おまけに「お車代」とかいって小遣まで貰えるんだろう?」
「だったらお前も前田教授に志願しろよ、「ラボに移動させて下さい」ってな? そうすればザギンでシースー喰ってホステスとやりまくって10万円の小遣いが貰えるぞ。その代わり、老人たちの「死にたくない、殺さないでくれ!」っていう断末魔の叫びと哀願するような眼差しに耐える自信があればの話だがな? そのせいで平野は今も閉鎖病棟に入院したままだ」
「やっぱり辞めとくよ。俺は人が死なねえラクな皮膚科か泌尿器科志望だからな。あはははは。
早いとこクリニックを開業して大金持ちだぜ」
大野はいつものようにこの海岸通りのベンチに座り、ただボーッと海を眺めていた。
ダイヤモンドをばら撒いたように煌めく海。海猫たちが長閑に空を舞っていた。
このメタルシティに来てからすでに一週間が過ぎようとしていた。
見知らぬ老人が大野に話し掛けて来た。
「下品な医者の卵たちですな? あんな連中が将来、医者になるのかと思うとゾッとします」
「仕方がありませんよ。我々の体は彼らの「教材」になるのですから」
「私は畦倉啓介といいます。岩手の盛岡の出身です」
「はじめまして、大野修一です。名古屋から参りました」
私たちは握手を交わし、畦倉は私の隣に腰を降ろした。
「小山田総理は悪魔ですな? よくもまあこんな巨大な姥捨て山を作り、安楽死などと馬鹿げたことを考えおって。
あやつはヒトラーの生まれ変わりでしょうな? ここはまるでナチスの作ったユダヤ人居留区、ゲットーのようです。
大野さんは我々がどうやって殺されるかご存知ですかな?」
「いえ、知りません。ここには一週間前に来たばかりなので」
「左様か? 実はな、それぞれ人によって殺され方が違うんじゃよ。
マイナンバーカードに記憶されている国民評価ポイントによって5段階に分類されます。
800ポイント以上の国民はフカフカのベッドである薬物を注射され、好きな音楽を聴きながら眠るように死ぬことが出来る。
600ポイント以上、800ポイント未満ではシャブ漬けにされ、ボロボロの廃人になって死んで行きます。
400から600ポイントの老人たちは『死の舞踏会』に招かれて踊り続け、最後は会場に充満させたサリン・ガスで殺される。
200から400ポイントになるとアウシュビッツのように裸にされてガス室に寿司詰めにされて恐怖の中で死を迎える。
一番悲惨なのが200ポイントにも満たない連中だ。
彼らはモルモットにされる。つまり様々な人体実験に利用されることになるのです。
そしてその国民評価ポイントの数値はこのメタルシティの執行官しか知らんのです」
「そうでしたか・・・」
大野にはどうでも良い話だった。
苦しまずに眠るように死のうが、銃殺や絞首刑になろうが死ぬことに変わりがないからだ。
たとえラクに死ねたとしてもそれは現世でのことであり、死後の神の裁きは別にある筈だからだ。
家族から見捨てられ、5年前に左目を失明して心筋梗塞。今は心臓が30%しか動いていない大野にとってはいつも死は身近なものだった。
懸命に働き贅沢に暮らした。大きな屋敷や高級車、いつも女たちと過ごしていた。
美食に旨い酒、だがいつも大野は深い孤独の中にいた。
大野が怖いのは死ではなく孤独だった。
だから大野は死を怖れはしない。死はこの孤独からの解放に過ぎないからだ。
「いかがですかな? 一緒にお食事でも? 血の滴るようなレア・ステーキとシャトー・マルゴーなどは?」
「私は食が細いので今日は握飯を持参していますからどうぞお気遣いなく」
「そうでしたか? 歳を取っても肉を食べないと力が出ませんからな? では失礼」
畦倉はそう言って去って行った。
大野は思った。彼は200ポイント未満のモルモットなのかもしれないと。
0
あなたにおすすめの小説
★【完結】アネモネ(作品230605)
菊池昭仁
現代文学
ある裁判官の苦悩とその家族の生き様に迫る。同じ人間が同じ人間を裁く矛盾。
人は神ではない。人を裁けるのは神だけだ。
人間の本当のしあわせとは? 罪とは? 贖罪とは?
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
★【完結】ダブルファミリー(作品230717)
菊池昭仁
現代文学
結婚とは生涯1人の女を愛し、ひとつの家族を大切にすることが人としてのあるべき姿なのだろうか?
手を差し伸べてはいけないのか? 好きになっては、愛してはいけないのか?
結婚と恋愛。恋愛と形骸化した結婚生活。
結婚している者が配偶者以外の人間を愛することを倫理に非ず、不倫という。
男女の恋愛の意義、本質に迫る。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる