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第9話

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 ローレライはメイドのキャンディと庭に咲く薔薇の手入れをしていた。
 
 「つっ」

 ローレライの人差し指に薔薇の棘が刺さった。
 その指を素早く口で吸うキャンディ。

 「ありがとう、キャンディ」
 「奥様の指、とても美味しいです・・・」

 ローレライはキャンディの頬を撫でた。

 「バチが当たったのね? 私。
 サファイアにあんな酷いことをしたから」


 そこへ、サファイアがやって来た。
 身構えるキャンディ。

 「奥様は悪くありません!
 お仕置きなら、このキャンディがお受けいたします!
 ムチでもローソクでも、大人のオモチャでもなんでも好きにして下さい!」

 ローレライが毅然と言い放った。

 「わたくし、謝らなくてよ」
 「謝る? 何を?」
 「だってサファイア、私は睡眠薬であなたを・・・」
 「だから何?」
 「だからってあなた・・・」
 「そんなの気にしてなんかいないわ。フォグワーツの魔法学校のイジメに比べたら、あんなのご挨拶程度よ。
 ベッドにキングコブラを入れられたり、歯ブラシにデトロドトキシンを塗られたり、そんなのしょっちゅうだもの。危うく死んじゃうところだったんだから。
 メールには「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね・・・」なんて1万回も送り付けられて、クラスのみんなから「この貧乳!」と罵られた時には、さすがに手首にカミソリを当てようとしたこともあったわ。でも私は負けなかった。
 虐められる私にもそれなりに原因があることもあるわけだしね。
 だから私は強くなった。
 空手に柔道、相撲にキックボクシング、レスリングにムエタイ、ブラジリアン柔術とあらゆる格闘技を習得したわ。
 だから平気。やられたらやり返す、倍返しするから。
 今度はあたしがお紅茶に「笑い茸」と、バリで買ったフライング・マッシュルームでオムレツを作って食べさせちゃうから。覚悟してね? ローレライ」
 「あなたって娘は・・・。ごめんなさい、私、レイモンドに抱かれるあなたが羨ましくて、あなたをレイモンドに盗られたくなくて・・・。
 だから、だからつい」
 「私こそごめんなさい。ローレライの気持ちを知りながら、あんなことやこんなこと、そしてあそこがああしてこうなるようなことをしようとして」
 「ううん、私も前は男が好きだったからわかるの。その気持ち。そして私はレイモンドの妃」
 「ローレライ・・・。
 そんなことより聞いてよ聞いて。私、見ちゃったのよ!」
 「見ちゃったって何を?」
 「つまりそのー、男の人が男の子と、何が何して何するあれよあれ!」
 「ああ、レイモンドとアンドレのことね?」
 「えっ、知ってたの?」
 「ええ。それってそんなに驚くことかしら? BLなんてみんな好きよ。イケてる腐女子は」
 「だってさあ、男同士だよ男同士。あり得ないでしょう? 普通。どうすんのよ、文春砲にやれちゃったら」
 「だったら私たちみたいな女同士はいいの?」
 「そ、それは女同士ならいいわよ・・・、綺麗だし」
 「アンドレはとてもいい男の子よ。真面目で上品で頭が良くて、まるで池田理代子先生のお描きになるアンドレみたいじゃない?
 私は好きよ、アンドレのこと。
 だってアンドレの童貞は、このわたくしが卒業させてあげたんですもの。オーッツホッホッ」
 「ゲゲッ、ローレライがアンドレの筆おろしを?」
 「そうよ、ダメなの? 大人の女が経験のない男子を男にしてあげるのって。
 だって女のことなんか何も知らないんだから。
 今の若い子たちは彼女とも付き合わず、ゲームとAV鑑賞しか興味がないのよ」
 「でもビックリしちゃって。私、そんなの初めて見たから。
 そんなことやあんなことやこんなことを男同士がしているなんて」

 そのサファイアとローレライの遣り取りをじっと黙って聞いていたキャンディが叫んだ。

 「サファイア様は間違っています!
 女同士は良くて、男同士はキモイだなんて、そんなの偏見です!」
 「誰もキモイなんて言ってないでしょう? びっくりしたって言ったのよ、この巨乳ドMビッチ・メイド!」

 まずい、キャンディはあの天真爛漫なキャンディス・ホワイトではないのだった。ただのドM痴女。
 ヤバイ、被虐的な言葉にウットリしている!

 「私はなんと詰られようと、たとえメス豚と罵られようと、むしろそれを望みます。望みますとも!
 でも私が申しあげたいのは、


      「同じ人間じゃねえか! どうして同性同士が愛し合っちゃいけないんじゃ、ボケ!」


 そう申し上げているのでございます。
 だってそうじゃありませんか! セックスって男女だけのものなんですか!
 愛ってセックスだけなんですか? ただ手を繋ぐ、それだけでもいいんです!
 それも愛なんです!
 大昔は近親相姦など当たり前でした。同じコミュニティーで繁殖を繰り返すわけですから。
 そして食料が無い時は「食人」も行われていたのです。 
 つまり性愛とは生殖のみに非ず、愛の延長線上にあるべき行為なのです。
 それでは風俗で抜いてもらうのも、自分でするのも同じではありませんか!
 愛のないセックスなど虚しいだけです!
 日本のおバカな政治家みたいに「子供の産めない同性愛は認めん!」なんて言っているのと同じことです!
 男も女も人間です! 愛し合う権利は平等にあります!」

 サファイアは驚いた。
 ただの巨乳ドM、メス豚痴女ビッチだとばかり思っていたキャンディが、同性愛についてこんなに熱弁を奮うなんて。
 意外だった。
                                          
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