【完結】パパはエイリアン(作品250621)

菊池昭仁

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第1話

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 E.T, extra terrestrial. 安達あだちアダムは時空を越えて宇宙からやって来た地球外生物、エイリアンであった。


 それは土砂降りの雨の日のことだった。

 グウァン グウァン グウァン グウァン

 突然練馬の上空に巨大なアダムスキー型UFOが現れ、大きなダンボール箱がゆっくりと降ろされた。
 その段ボールにはトム・クルーズに似た、安達アダムが入っていた。
 とても還暦過ぎには見えない爽やかさとツヤがあるトム、じゃなかったアダム。
 さすがは時空を越えてやって来た、「死なない機械のカラダ」を持った、シュワちゃんのようなターミネーターであった。
 彼は地球から何億光年も離れた、あんころ餅星雲にある『どら焼き星』からペコポン、地球にやって来た。

 「ボク、どら太郎~」

 と言ったかは定かではないが、とにかく凄いイケメンであった。
 ジャパネット・タカタの豪華クルーズではない、あのトム・クルーズである。
 その星は地球よりもはるかに優れた文明を持ち、ガミラスでもイスカンダルでもなく、ましてやゆうこりんの『こりん星』でもない楽園であった。


 「すみませ~ん、ちょっとすみませ~ん。私はかわいそうな「捨てエイリアン」で~す。誰かボクを拾ってくれませんかあ~」

 と、あのB級グルメ番組、『パパイヤ・マンのせっかくぐるめ』の日村ロボのようにアダムは叫んでいた。
 傘もなく、雨合羽もなく、アダムはずぶ濡れであった。
 段ボールには黒のマジックで、

    かわいがってあげてください

 と、ミミズが腸捻転を起こしたような殴り書きがされていた。
 

 「おい明美、ヘンな金髪外人が捨てられてるぜ」
 「ウケるんですけど~。でもどっきりじゃないの? 『瓜買ってもいいですか?』とかの?」

 テレビカメラがないかと周囲を見渡す明美。

 「バカだな明美は~。それを言うなら『突然ですが、デタラメだけど占ってもいいですか?』だろ?
 とにかくネットで拡散させようぜ。「チャンネル登録お願いしま~す」っと」
 「それ、いいかも」

 道行く人たちは面白半分にスマホでアダムを撮影したが、彼を助ける者は誰もいなかった。
 現代の日本人は薄情である。


 「かわいそうに・・・、あなた、捨て宇宙人なの?」
 「はい、どら焼き星から来ました。凄くさ、寒いです、た、助けて下さい」
 「ママ、この宇宙人さん、お家で飼ってあげようよ」
 「ダメよ、ウチは貧乏な母子家庭で備蓄米の『進次郎』も買えないのに、どうしてこんな汚い宇宙人が飼えるのよ? さあ行くわよ麻莉亜」
 「でもかわいそうだよママ、このままだと死んじゃうよお」 
 「大丈夫よ、もうすぐマザー・テレサが通るでしょうから」
 「マザー・テレサはもう死んじゃったよ? お願いママ、この「捨て人」をこの練馬ナンバーの火のクルマ、オッサン「イクラ」で連れて帰ろうよ」
 「ダメだって言ってるでしょ。こんな電動バイブ、じゃなかった電気軽自動車ではムリよ。パワーがないし、電気が足りないからエアコンもオプションなのよ、熱中症で死んだらどうすんのよ。
 三人は乗せられないわ」

 すると麻莉亜はその段ボールの中にアダムと一緒に入り、そこから出ようとはしない。

 「もういい! ママの淫乱、元ヤンの黒ギャルの男狂い! だったら私も捨て地球人になる! そしてこの捨てエイリアンと一緒に風俗で働くからいい!」
 「しょうがない娘ねえ? それじゃあ一日だけよ」
 「ありがとうママ! ママ大好き!」


 こうして宇宙人アダムはかき氷に染み込む苺シロップのように、いつの間にか立花家の居候いそうろうとなったのである。
 
 麻莉亜とアダムはまるで本当の親子のようであった。

 
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