★【完結】終わりなき長いトンネルの中を 口笛を吹きながら進め(作品230601)

菊池昭仁

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第4話

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 母は昼間はクリーニング工場で働き、深夜零時から朝の5時まではファミレスのセントラルキッチンを掛け持ちしていた。
 母は寝る間も惜しんで働いていた。

 妹の葵が学校へ出掛け、母がクリーニング工場へ出勤した頃、俺は部屋から出てシャワーを浴びる。
 洗濯籠に母の下着が入れられていた。
 それはとてもくたびれた物だった。

 母は新しい下着すら買えずに働いている。
 誰のために?

 俺と葵のために。
 生きることは戦いだ。その戦いを俺は放棄していた。



 玄関に行くと、葵のスニーカーが置いてあった。
 それは踵がすり減り、外側に斜めになっていた。
 見覚えのあるそのスニーカーは、2年前に妹がお年玉で買った物だった。
 俺はその靴を持ち上げて泣いた。

 「俺は何をしているんだ・・・」




 パソコンを開き、秀樹の動画を再生した。

 
 「おはようございます。元気な病人、前嶋でーす。
 今日はこちらは快晴のようです。窓からお日様が見えますから。
 みなさんはしあわせですか?
 突然ですが、あなたは人生の勝ち組ですか? それとも負け組ですか?
 「俺は勝ち続けているよ」というあなた、おめでとうございます。
 そして「私はいつも負けてばかり」というあなた、お気の毒様です。
 ボクは朝の情報番組の占いを見ていて思うのですが、
 「今日のしし座のあなたはラッキーです。ステキな出会いがあるでしょう」と、今日の運勢をアナウンサーのお姉さんが祝福してくれます。
 そして「ごめんなさーい、今日の射手座のあなたは最低です。どら焼きを食べると災難から逃れることができるでしょう!」とか。
 私には占いは関係ありません。
 だっていつもベッドの上ですから。
 新しい出会いも、これ以上の災難もありません。
 人生も同じです。
 人生には「勝ち」も「負け」もないのです。
 「勝ち」とは自分の一瞬の錯覚です。驕りです。あなたがそう思っているだけです。
 ましてや自分の努力や才能でもありません。
 周りの人たちのおかげなんです。
 そして「負け」もありません。なぜなら人生は、常に戦いの連続だからです。
 あなたが戦いを放棄しない限り、負けることはありません。
 たとえばのび太君がジャイアンとケンカして負けるとします。
 次の日、のび太君はまたジャイアンへ立ち向かいます。そしてまた負ける。
 そこに学びが生まれるのです。
 「そうか、俺はジャイアンの大きな体に負けているんだ。空手でも習おうかなあ」とね。
 そしてまたジャイアンに戦いを挑み続けるのです。
 するとジャイアンはどう思うでしょうか?

 「なんだのび太のやつ、いじめてもいじめても俺に勝負を挑んできやがる。
 なんてやつだ、のび太は」

 それでジャイアンがのび太君を恐怖に感じるか、友だちになるかはわかりませんが、のび太君は確実に成長しています。
 私のような若輩がこんなことを言うのも生意気に聞こえるかもしれませんが、私も日々、自分と戦っています。
 私は戦うのみです。死ぬまで負けません。死んだら負けですから。
 負けたとか、勝ったとかはどうでもいいんです。
 こうして生かされていることに意義があると思っています。
 『吉里吉里人』、半分まで読みました。厚い本だから大変です。
 それではみなさん、今日、素晴らしいハッピーな一日でありますように。
 いってらっしゃーい。
 チャンネル登録、よろしくお願いします」


 秀樹、俺は人生の「負け組」だよ。
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