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第22話 無夜中のプロポーズ

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 その夜、雪乃は初めて小次郎の屋敷に泊った。
 久しぶりに小次郎に抱かれた雪乃は、夢中でその行為に没頭した。

 小次郎はそのまま雪乃の体に自分の精子を放出した。
 ドクンドクンと脈打つ小次郎のペニスに雪乃は歓喜した。

 押し寄せる凄まじいほどのエクスタシーに雪乃のカラダの痙攣は収まらなかった。
 
 「うれしい、小次郎。
 私、絶対に小次郎の子供が欲しい・・・」

 雪乃は小次郎の背中の龍にキスをした。

 「どうかこの双龍の子供が出来ますように。
 そしてどうか小次郎をお守り下さい」

 小次郎は雪乃を優しく抱きしめ、雪乃のネックレスを愛でながら言った。

 「このダイヤのネックレスは雪乃のお守りだ。
 いつも身に着けているんだ。
 これを俺だと思え。雪乃がピンチになった時、必ずこのネックレスがお前を守る。
 そして雪乃、もし俺がお前より先に死んでも決して悲しむな。
 俺はいつもお前と一緒だ、お前を守る。
 約束だぞ雪乃」
 「いや、小次郎が先に死んじゃいや。
 私よりも長生きすると約束して。
 あなたのお葬式の喪主になんかなりたくない」
 「雪乃、人は必ず死ぬんだ。
 死を意識して生きることは悪いことではない。
 死は突然の人生の中断だ。
 死を考えることは「どう生きるかを考えること」なんだ。
 雪乃、愛しているよ」
 「私もよ、小次郎・・・」
 「雪乃、今度またあの海の見えるレストランで食事をしような?」
 「うん、行きたい」
 「またカニピラフか?」
 「また殻を剥いてくれる? うふっ」
 「ああいいよ、また剥いてやるよ、雪乃のために」
 「うれしい・・・、だって手が汚れちゃうんだもん」

 雪乃は静かに目を閉じた。
 レストランから見える雄大な太平洋の海が広がり、潮騒の音が聞こえた。

 
 その時、小次郎の携帯が鳴った。
 紅虎組の佐竹からだった。

 「小次郎、いよいよ明日だ。
 ギャラリーはなるべく多い方がいい。
 変な真似はするなよ、必ず来い」

 それだけ伝えると佐竹は携帯を切った。

 「誰からなの?」
 「昔からの古い友人だよ」

 (雪乃、俺は必ず生きて帰る)

 小次郎はそう自分に誓い、雪乃を強く抱きしめた。

 「雪乃、明日、俺の仕事が終わったら、一緒に役所に婚姻届を出しに行こう。
 俺と結婚してくれ、雪乃」
 「うん、待ってる。大変なお仕事なの?」
 「大した仕事じゃない、すぐに終わるよ」
 「すぐに帰って来てね」
 「ああ、すぐに帰って来るよ。
 印鑑だけ準備して待っていてくれ」

 雪乃は何故か胸騒ぎを感じ、小次郎に抱き付いた。

 「小次郎、必ず戻って来てね」
 「ああ、必ず、必ず戻って来るよ」

 池の錦鯉が跳ね、その音が夜の闇から聞こえた。

 何も言わず、ふたりは体を合わせた。

 忘れることが出来ない熱い夜だった。
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