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第四章
第6話 決戦
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広々とした記者会見会場には多くのマスコミが集まっていたが、それでも用意した大広間は閑散としていた。
だが、記者会見の場をここにしたのには理由があった。
ホテルの司会者が進行を始めた。
「それでは定刻となりましたので、『イワスギホーム』の杉田社長の記者会見を始めさせていただきます」
吉田たちも自分たちのオフィスで、薄ら笑いを浮かべてそのテレビ中継を見ていた。
「ふん、万策尽きたか? 杉田」
俺はマイクの前に立った。
「みなさん、本日はお忙しい中、ここにお集まりいただき、誠にありがとうございます。社長の杉田でございます。
結論から申しますと、この度の吉田氏の企業買収の件につきましては、我々はそれを黙殺することといたしました」
会見場が騒然となった。
「ということは杉田社長! 会社を明け渡すということですか!」
「いいえ、無視するということです」
会場に再びどよめきが起こった。
「敵対的買収に何の策も講じないとは、あまりにも無責任じゃありませんか!」
「そうだ、無責任だぞ!」
「やっぱりアンタは無能な経営者だ!」
マスコミの怒号が飛んだ。
会場に静寂が戻るのを待って俺は続けた。
「こういうアホなカネの亡者も出て来ることを鑑み、この『イワスギホーム』は私が個人で商標登録をしております。
そして私は仮に100億積まれても、それを譲る気持ちはありません」
「吉田さんは「社名は変える」と言っていましたよ!」
「そうでしょうね? 価値が上がればどうせまた売り飛ばすんでしょうから。
でもどうでしょう? もし、会社に社員がいなくなってしまったとしたら?」
「どういう事ですか!」
「こういう事です」
俺は演台の下に隠しておいた、ふたつのダンボールに入った社員全員の退職届をテーブルの上に置いた。
「これは全社員から預かった退職願です。
もし、会社が彼らの手に渡るようなことがあれば、社員全員、この会社を去るというものです。
「企業は人なり」です。
社員あってこその会社なのです。
会社に価値があるんじゃない、そこで働く社員に価値がある。
そして会社は家族、ファミリーなんです。
ここにいる役員たちをはじめ、ウチの社員たちは美味い餌をもらえればホイホイついて行くような、尻軽社員ではない。
All for one One for all
誰のために働くか? それが生甲斐なのです」
「それは社長、杉田さんのためにということですかあ!」
「そんなの詭弁だ!」
俺はその記者たちを睨み付けて言った。
「馬鹿野郎! 会社は俺のためにあるんじゃねえ! お客さん、株主さん。銀行さんや職人さん。取引先の人たちや社員、そしてその家族のためにあるんだ! 社長を代われというならいつでも代わってやるよ!」
その時、会場の扉が開き、社員や汗で汚れた作業服を着た業者さん、顧客、株主さんたちが会場を埋め尽くした。
会場に入りきれず、ロビーや廊下も『イワスギホーム』の関係者でいっぱいになっていた。
「ス、ギ、タ! ス、ギ、タ! ス、ギ、タ! ス、ギ、タ!・・・」
鳴り止まない杉田コールに会場は包まれた。
「みなさん! ありがとうございます!
本当にありがとう!」
俺は深々と頭を下げた。
「これから当社は新株を発行をし、増資を行います。
私たちと共に、より良い家を作りませんか!
どうか、私たちを応援して下さい!
家は家族のための『船』ですから!」
また大きな歓声とシュプレヒコールが巻き起こった。
杉田には計算があった。このタイミングで新株を発行すれば、『キャピタル・インヴェストメント社』はどうせ買い取った株を売るだろうが、仮に保有されたままでも、その占有率を下げることが出来た。
会社には潤沢な資金が集まり、店舗展開を充実させ、研究部門、デザイン部門にもより優秀な人材を集めて会社を強化することが出来る。
『イワスギホーム』は大きく躍進することになるだろう。
珠江も華蓮も、そして信吾もテレビの中継を見ていた。
もちろん、絹世も直子も遥もだ。
そしてクラブのチイママだった芳恵も、LAで同じ大学の恋人、デビットとネット中継を見ていた。
「ヨシエ。彼が君の元恋人かい? なんて言っているんだい?」
芳恵は笑って彼に答えた。
「今でも君を愛してるって」
「ジェラシーを感じるよ」
娘の華蓮が言った。
「ママ、パパってカッコいいね?」
「そうね?」
珠江と華蓮は泣いていた。
「俺、出掛けて来るよ。晩飯はいらない」
「気をつけて行くのよ」
「うん」
家を出ると、信吾は恋人の舞に電話を掛けた。
「今、ヒマか?」
「私も今、信吾にLINEしようとしていたところ。すごいね? 信吾のパパさん!」
「驕るよ、一緒にメシでも食おうぜ」
「うん! 喜んで!」
吉田たちは言葉もなく、ただ呆然としていた。
「ボス、本国からチャットが繋がっています」
「わかっているよ、どうせ「お前はクビだ」ってことだろう・・・」
吉田は静かにオフィスを出て行った。
その後、吉田を見かけた者はいない。
「運のない、かわいそうな人・・・」
愛人だった薫子にも何も告げず、吉田は消えた。
だが、記者会見の場をここにしたのには理由があった。
ホテルの司会者が進行を始めた。
「それでは定刻となりましたので、『イワスギホーム』の杉田社長の記者会見を始めさせていただきます」
吉田たちも自分たちのオフィスで、薄ら笑いを浮かべてそのテレビ中継を見ていた。
「ふん、万策尽きたか? 杉田」
俺はマイクの前に立った。
「みなさん、本日はお忙しい中、ここにお集まりいただき、誠にありがとうございます。社長の杉田でございます。
結論から申しますと、この度の吉田氏の企業買収の件につきましては、我々はそれを黙殺することといたしました」
会見場が騒然となった。
「ということは杉田社長! 会社を明け渡すということですか!」
「いいえ、無視するということです」
会場に再びどよめきが起こった。
「敵対的買収に何の策も講じないとは、あまりにも無責任じゃありませんか!」
「そうだ、無責任だぞ!」
「やっぱりアンタは無能な経営者だ!」
マスコミの怒号が飛んだ。
会場に静寂が戻るのを待って俺は続けた。
「こういうアホなカネの亡者も出て来ることを鑑み、この『イワスギホーム』は私が個人で商標登録をしております。
そして私は仮に100億積まれても、それを譲る気持ちはありません」
「吉田さんは「社名は変える」と言っていましたよ!」
「そうでしょうね? 価値が上がればどうせまた売り飛ばすんでしょうから。
でもどうでしょう? もし、会社に社員がいなくなってしまったとしたら?」
「どういう事ですか!」
「こういう事です」
俺は演台の下に隠しておいた、ふたつのダンボールに入った社員全員の退職届をテーブルの上に置いた。
「これは全社員から預かった退職願です。
もし、会社が彼らの手に渡るようなことがあれば、社員全員、この会社を去るというものです。
「企業は人なり」です。
社員あってこその会社なのです。
会社に価値があるんじゃない、そこで働く社員に価値がある。
そして会社は家族、ファミリーなんです。
ここにいる役員たちをはじめ、ウチの社員たちは美味い餌をもらえればホイホイついて行くような、尻軽社員ではない。
All for one One for all
誰のために働くか? それが生甲斐なのです」
「それは社長、杉田さんのためにということですかあ!」
「そんなの詭弁だ!」
俺はその記者たちを睨み付けて言った。
「馬鹿野郎! 会社は俺のためにあるんじゃねえ! お客さん、株主さん。銀行さんや職人さん。取引先の人たちや社員、そしてその家族のためにあるんだ! 社長を代われというならいつでも代わってやるよ!」
その時、会場の扉が開き、社員や汗で汚れた作業服を着た業者さん、顧客、株主さんたちが会場を埋め尽くした。
会場に入りきれず、ロビーや廊下も『イワスギホーム』の関係者でいっぱいになっていた。
「ス、ギ、タ! ス、ギ、タ! ス、ギ、タ! ス、ギ、タ!・・・」
鳴り止まない杉田コールに会場は包まれた。
「みなさん! ありがとうございます!
本当にありがとう!」
俺は深々と頭を下げた。
「これから当社は新株を発行をし、増資を行います。
私たちと共に、より良い家を作りませんか!
どうか、私たちを応援して下さい!
家は家族のための『船』ですから!」
また大きな歓声とシュプレヒコールが巻き起こった。
杉田には計算があった。このタイミングで新株を発行すれば、『キャピタル・インヴェストメント社』はどうせ買い取った株を売るだろうが、仮に保有されたままでも、その占有率を下げることが出来た。
会社には潤沢な資金が集まり、店舗展開を充実させ、研究部門、デザイン部門にもより優秀な人材を集めて会社を強化することが出来る。
『イワスギホーム』は大きく躍進することになるだろう。
珠江も華蓮も、そして信吾もテレビの中継を見ていた。
もちろん、絹世も直子も遥もだ。
そしてクラブのチイママだった芳恵も、LAで同じ大学の恋人、デビットとネット中継を見ていた。
「ヨシエ。彼が君の元恋人かい? なんて言っているんだい?」
芳恵は笑って彼に答えた。
「今でも君を愛してるって」
「ジェラシーを感じるよ」
娘の華蓮が言った。
「ママ、パパってカッコいいね?」
「そうね?」
珠江と華蓮は泣いていた。
「俺、出掛けて来るよ。晩飯はいらない」
「気をつけて行くのよ」
「うん」
家を出ると、信吾は恋人の舞に電話を掛けた。
「今、ヒマか?」
「私も今、信吾にLINEしようとしていたところ。すごいね? 信吾のパパさん!」
「驕るよ、一緒にメシでも食おうぜ」
「うん! 喜んで!」
吉田たちは言葉もなく、ただ呆然としていた。
「ボス、本国からチャットが繋がっています」
「わかっているよ、どうせ「お前はクビだ」ってことだろう・・・」
吉田は静かにオフィスを出て行った。
その後、吉田を見かけた者はいない。
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