★【完結】乗客のいない観覧車(作品230607)

菊池昭仁

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第8話 御庭番

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 霞ヶ関のとある省庁の地下室に、3人の獣が飼われていた。
 お互いに本名は知らない。
 表向きは国家公務員だが、架空の職員である。
 
 田中一郎、佐藤次郎、高橋三郎。
 もちろん偽名だ。

 田中は陸上自衛隊、佐藤は海上自衛隊の特殊部隊出身、そして高橋は警察のSWATから選抜されたスーパーエリートたちだった。

 田中一郎は部長と呼ばれ、次郎は課長、そして三郎は係長と呼ばれていた。

 何の変哲もない、役所の普通のオフィス。
 電話、書類キャビネット、資料書籍、コピー機・・・。
 ただ、窓がないだけで、厳重なセキュリティ・システムもなかった。

 
 「本社から仕事の依頼だ」
 「本社はいいですよね? 命令するだけだから。
 危ない嫌な仕事はすべてこっちに丸投げですから」

 三郎が嫌味を言った。

 
 「今、貴様らのスマホにターゲットの画像を送信した。確認してくれ」
 「今回は外国人ですか?」
 「フランス人の父親と日本人の母親とのハーフのバイオリン弾きだ」
 「バイオリニスト? 何でこのイケメン君が重要ターゲットなんですか?」
 「表向きはな? ミッシェル・吉岡35歳。
 またの名を『雨のバイオリン弾き』と呼ばれている殺し屋だ」
 「こんなに美しい男が殺し屋?」
 「殺人なら我々の担当ではないのではありませんか? 警察の仕事ですよね?」
 「単なる闇の殺し屋ではなくなったのだ。この男は西園寺と繋がった」
 「レッド・スフィンクスの西園寺ですか?」
 「そうだ。西園寺共々、ミッシェルも消去せよとの命令だ。
 本社の話ではレッド・スフィンクスのクーデター計画が、近く実行されるらしい。
 それを阻止するためのミッションだ。
 ではこれからミッションの概要を伝える」
 「はっ!」

 課長と係長は立ち上がり、部長の田中に敬礼をした。

 この三人は内閣官房調査室直属の秘密の暗殺部隊だった。
 彼らは国家治安維持のため、危険人物を暗殺するのが任務だった。
 彼らは通称「御庭番」と呼ばれ、あらゆる武器の携帯を許された、政府公認の殺人許可のある者たちだった。

 ドイツ、イギリス、中東、アフリカ、アメリカで特殊軍事訓練を受けており、暗殺成功率100%の現代の忍者部隊だった。
 ターゲットにされたら最後、その人物の人生は終わったも同然だった。

 議員秘書、官僚、政治家の自殺などもすべて彼らの仕業だった。
 書類キャビネットの裏には彩光認証の隠し部屋があり、そこには数多くの武器弾薬や器具、カツラに衣装が格納されていた。
 課長の次郎がS&W M19 コンバット・マグナムを手にした。
 
 「課長、またそれですか?
 日本でそれを操れるのは課長だけですよ。45口径でデカいし、重いし。
 ターゲットは頭が吹き飛びますからね?
 俺はこっちの方が好きです。軽くて扱い易いし」
 「ガバメントもいいが、オートマチックの場合、レボルバーと違って、不発の場合には不発弾を排出する手間が命取りになる。
 俺は確実性を選ぶ。失敗は許されないからな?」
 「それに比べると日本の警察の銃はオモチャですよ。22口径のニューナンブなどは命中精度は高いが、殺傷能力は低い。
 2006年からはS&W社製の「サクラ」に変わりましたが、日本はつくづく平和な国ですよ」
 「アメリカから無理やり買わされたんだから仕方がないさ。
 それよりも、すべての警官の携行している実弾が5発だけというのが問題だ」
 「実戦では死にますね? しかも1丁だけだなんて」
 「とりあえず、そのイケメン・バイオリニストに会いに行くぞ」
 「はっ!」

 部長の田中一郎が言った。

 「あの西園寺が惚れた男だ、甘く見るなよ」
 「わかりました」

 ホルスターに拳銃を納めると、3人の獣たちは部屋を出て行った。
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