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タヌキは不安定
第七話 夜明けの狼藉者
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日付も変わった夜更けに、ローイックは宿舎のベッドで仰向けになっていた。
「姫様に手伝って貰って、助かっちゃったな」
今日は書類の処理をキャスリーンが手伝ってくれて、終わりこそしなかったが、日付が変わる前に宿舎に戻ってこれた。勿論キャスリーンは所定の時刻に帰ってもらった。皇女に残務などさせられない。
だがキャスリーンと一緒にいられたことで、ローイックの気持ちは大分落ち着いていた。
「でも、国から使節団て……」
エクセリオン帝国とアーガス王国は戦後正式に国交を回復してはいなかった。商人たちは国境を超えて商いをしているが、国としての貿易は行われていなかったのだ。
アーガス王国は穀倉地帯を抱えた、農業を中心とした国だ。国としての規模は大きくはないが、豊富な食料を背景に資金には苦労していない、金持ちの国だった。
だが軍事的には強い国ではなく、帝国との一連の戦争で国境から大分侵略されてしまった。その失われた国土と引き換えの賠償金を、相当額支払っていた。その一部がローイックなどの人質だった。
人質としてはローイックの他に三人いたが、一人は精神的に追い詰められて、自ら命を絶っていた。今、ローイックがのほほんとしていられるのも、実はキャスリーンのおかげなのだ。
彼女の癒しがあったからこそ、生きていると言ってもいい。
「今更、国交回復の機運でも高まったのかなぁ」
皇帝の視察の時に聞いた祖国の名が頭から離れず、眠気も襲ってこない。
「まぁ、考えても、分からないものは分からないな」
考えることを放棄して、ローイックは静かに目を閉じた。
春先の風が木々を鳴らす音を聞きながら、ローイックの意識は段々と沈んでいった。
翌朝、なんとか起きられたローイックは、第三騎士団の宿舎から建物へと歩いていた。ローイックの部屋のある宿舎は、宮殿の中でも端に位置する。第三騎士団の建物も宮殿の端にあるが、ちょうど反対にあった。
まだ朝食には早いが、あまり眠れなかったローイックは、そのまま騎士団へと行ってしまうことにしたのだ。
「春先でも、まだ寒いなぁ」
薄い上着を羽織っただけのローイックはブルッと体を震わせた。さっぱりとした頭も寒さに一役買っていたが、これは仕方がないだろう。
上着の袖を掴みながら背を丸くして歩いていると、先の方で何か言い争っている声が聞こえてきた。女性の声と男性の声がする。
朝っぱらから痴話喧嘩でもしているのだろうか。ローイックは、面倒くさそうなことに肩を落とした。
「殿下は、何故にあの者の肩を持つのですか?」
「そんな事、アレイバーク殿には関係のない事だ」
「貴女は皇女殿下なのです。もっと自身にふさわしい男性に気を配るべきだ」
「それこそ貴方には関係ない事だ。皇室の問題に口を挟まないでいただきたい。大体これは、父の許可も得ての事だ!」
先で言い争っている女性は、騎士服姿のキャスリーンだった。凛としてはいるが、結構な剣幕でまくし立てていた。
相手は騎士服を着た金髪の大柄な男だ。ローイックの記憶が正しければ、彼はホーク・アレイバークという騎士で公爵家の跡取りだ。
絶えず微笑みを浮かべている優男と評判で、第一騎士団の団長でもある。まだ二十四歳と若いが、家柄もあって騎士団長に抜擢されていた。俗にいうエリートという奴だ。
キャスリーンが揉め事に巻き込まれているとあれば、ローイックも黙って見ている訳にはいかなかった。例え相手が公爵家のボンボンだろうとも、男には引けない場面だ。
元々由緒ある侯爵家の次男として高水準の教育と躾は受けてきた身だ。貴族としての喧嘩の作法も心得てはいた。
「……姫様?」
ローイックは、すっとぼけてキャスリーンに声をかけた。いきなりの喧嘩腰は彼の信義に悖る。
「ローイック!」
キャスリーンは、助け船が来た、という顔をした。傍からは嬉しそうな笑顔に見えるだろう。
そんな笑顔を見せつけられたホークは、イラついたのか口を歪めた。
「ふん、戦利品が馴れ馴れしい」
ホークは忌々しげに吐き捨てた。汚いものを見る目でローイックを見下ろしている。
「おはようございます」
戦利品扱いされても、ローイックはにこやかに挨拶をし、あくまで呑気を演技した。
短気ほど男の株を下げる物はない。
「はっ、お前に挨拶される覚えなどない」
「あ、いえ、キャスリーン皇女殿下にご挨拶をしたまでです。私の上司になりますので。あ、ホーク様、おはようございます」
「なんだと、貴様!」
ローイックは優し気な笑みを浮かべ、あくまで礼儀正しく、慇懃に振舞った。これで彼の意識は完全にローイックに移ったのだ。短気は損気とはよく言ったものである。
だがこんな慇懃な振る舞いも、キャスリーンがいればできることだ。尤も、キャスリーンが絡まれていなければ、ローイックは無視していただろう。あくまでキャスリーンの為にやっていることだ。
ホークは簡単に挑発に引っかかってローイックの胸倉を掴み、ぐいっと持ち上げた。ガリガリのローイックは軽いのだ。多分、キャスリーンでも持ち上げられるのではなかろうか。
「おや失礼致しました。しかしホーク様。その振る舞いは、皇女殿下の御前では如何かと思われますが? とても帝国に名を轟かせるアレイバーク公爵家の御子息様とは思えません。皇女殿下からの信望が悪くなってしまいますよ?」
ローイックは宙吊りのまま、あくまで礼儀正しく丁寧な対応を繰り返した。ホークは、優男との評判を覆すほど顔を歪め、ローイックを睨みつけている。そのローイックはあくまでにこやかな笑みを浮かべつつも、目は笑ってはいなかった。
睨み合う男達の脇では、キャスリーンがクスリと笑っていた。
「まぁまぁ、ホーク殿。うちの文官が怪我をすると業務に差し支える。その辺で勘弁してやってくれないか」
いつもの、ローイックとじゃれあっているキャスリーンではなく、騎士として、第四皇女としての凛とした口調だった。そして既に彼の目的は、ずらされていた。
「殿下の頼みとあらば、致し方ありませんな」
放り投げるように荒っぽくローイックを開放すると、ホークは左胸に手を当て、スッと華麗に礼をした。ただ、顔には苦渋の皺が現れていたのは、いただけなかった。そこに公爵家の跡取りの優男の姿はない。
「命拾いしたな」
ホークはローイックを一瞥すると、フンと鼻を鳴らし、踵を返して去っていった。大股で去っていく彼を確認すると、ローイックは乱れた襟を直し、キャスリーンに向き直った。
「姫様、彼に何かされませんでしたか?」
「ローイック、大丈夫? 痛くない?」
二人は、同時に話しかけた。ハタと固まり、見つめ合い、同時に笑った。
「助けてくれて、ありがとね」
騎士団の建物まで二人並んで歩く道すがら、キャスリーンは恥ずかしいのか、視線を逸らして礼を述べていた。
ローイックは彼女が照れ屋な皇女様だという事は、よーく知っている。
「ちょっと、怖かったです。殴られたら痛そうでしたし」
「無理しちゃって」
ローイックは苦笑いだった。事実、ローイックは怖かったのだ。
相手は体格も良く、ローイックでは逆立ちしても腕力では勝てないだろう。キャスリーンの手前、暴力はないだろうと踏んでの挑発だった。
相手の知性が足りなかったからすんなりと乗ってくれたが、頭が切れる奴なら簡単にあしらわれていたろう。
「ローイックも鍛えた方が良いんじゃない?」
キャスリーンが悪戯っぽく笑うが、ローイックは肩を竦めるばかりだ。ローイックは右袖を捲って腕を見せた。女性の様に白く、細い腕だ。
「女の子みたいな腕ね。まぁ、何かの時はあたしが守ってあげるから」
キャスリーンは楽しそうに、二パッと笑った。その顔を見るとローイックの頬も緩むのだった。
「そうそう、アーガス王国からくる使節団の中の女性なんだけど」
キャスリーンは視線を上に向け、思い出したかのように話し出した。
アーガス王国という単語に、ローイックの表情が一瞬強張るが、直ぐに戻した。
「ロレッタ・リッチモンドって人なの。知ってる?」
その名前を聞いたローイックの目が大きく開く。彼の良く知っている人物だったからだ。
「……リッチモンド公爵家の令嬢です。私が祖国にいた時の上司の息女で、小さい時には遊んだりしていました。なんで彼女が……」
顎に手を当て考え込むローイックを、キャスリーンは冷ややかな目で見ていた。
「へぇ~、幼馴染なんだ。綺麗な人?」
ジト目で見るキャスリーンには気が付かず、ローイックは考え込んでいる。女性と一緒に居るのに考え事に没頭するのは朴念仁の特徴だ。
「私が帝国に来る時には、まだ十二歳の女の子でした。可愛いとは思いますが、その後は知りませんので……」
キャスリーンがブツブツ零しながら指折り数え始めた。算術は苦手な皇女様である。今でも計算には指が活躍するのだ。
「あたしより若いの!?」
「そう、なりますかね」
素っ頓狂な声を上げるキャスリーンに対して、ローイックは冷静だった。
「使節団の名簿ってありますか?」
顔を上げたローイックに対して、キャスリーンは鞄から書類を取り出し、無言で渡してきた。読みながらローイックは額に皺を寄せ、手を顔に当てた。そこには親友の名前と、元上司の名前もあったからだ。
彼等が何のために来るのか、朧げながら予想が付いてしまっていた。
「姫様に手伝って貰って、助かっちゃったな」
今日は書類の処理をキャスリーンが手伝ってくれて、終わりこそしなかったが、日付が変わる前に宿舎に戻ってこれた。勿論キャスリーンは所定の時刻に帰ってもらった。皇女に残務などさせられない。
だがキャスリーンと一緒にいられたことで、ローイックの気持ちは大分落ち着いていた。
「でも、国から使節団て……」
エクセリオン帝国とアーガス王国は戦後正式に国交を回復してはいなかった。商人たちは国境を超えて商いをしているが、国としての貿易は行われていなかったのだ。
アーガス王国は穀倉地帯を抱えた、農業を中心とした国だ。国としての規模は大きくはないが、豊富な食料を背景に資金には苦労していない、金持ちの国だった。
だが軍事的には強い国ではなく、帝国との一連の戦争で国境から大分侵略されてしまった。その失われた国土と引き換えの賠償金を、相当額支払っていた。その一部がローイックなどの人質だった。
人質としてはローイックの他に三人いたが、一人は精神的に追い詰められて、自ら命を絶っていた。今、ローイックがのほほんとしていられるのも、実はキャスリーンのおかげなのだ。
彼女の癒しがあったからこそ、生きていると言ってもいい。
「今更、国交回復の機運でも高まったのかなぁ」
皇帝の視察の時に聞いた祖国の名が頭から離れず、眠気も襲ってこない。
「まぁ、考えても、分からないものは分からないな」
考えることを放棄して、ローイックは静かに目を閉じた。
春先の風が木々を鳴らす音を聞きながら、ローイックの意識は段々と沈んでいった。
翌朝、なんとか起きられたローイックは、第三騎士団の宿舎から建物へと歩いていた。ローイックの部屋のある宿舎は、宮殿の中でも端に位置する。第三騎士団の建物も宮殿の端にあるが、ちょうど反対にあった。
まだ朝食には早いが、あまり眠れなかったローイックは、そのまま騎士団へと行ってしまうことにしたのだ。
「春先でも、まだ寒いなぁ」
薄い上着を羽織っただけのローイックはブルッと体を震わせた。さっぱりとした頭も寒さに一役買っていたが、これは仕方がないだろう。
上着の袖を掴みながら背を丸くして歩いていると、先の方で何か言い争っている声が聞こえてきた。女性の声と男性の声がする。
朝っぱらから痴話喧嘩でもしているのだろうか。ローイックは、面倒くさそうなことに肩を落とした。
「殿下は、何故にあの者の肩を持つのですか?」
「そんな事、アレイバーク殿には関係のない事だ」
「貴女は皇女殿下なのです。もっと自身にふさわしい男性に気を配るべきだ」
「それこそ貴方には関係ない事だ。皇室の問題に口を挟まないでいただきたい。大体これは、父の許可も得ての事だ!」
先で言い争っている女性は、騎士服姿のキャスリーンだった。凛としてはいるが、結構な剣幕でまくし立てていた。
相手は騎士服を着た金髪の大柄な男だ。ローイックの記憶が正しければ、彼はホーク・アレイバークという騎士で公爵家の跡取りだ。
絶えず微笑みを浮かべている優男と評判で、第一騎士団の団長でもある。まだ二十四歳と若いが、家柄もあって騎士団長に抜擢されていた。俗にいうエリートという奴だ。
キャスリーンが揉め事に巻き込まれているとあれば、ローイックも黙って見ている訳にはいかなかった。例え相手が公爵家のボンボンだろうとも、男には引けない場面だ。
元々由緒ある侯爵家の次男として高水準の教育と躾は受けてきた身だ。貴族としての喧嘩の作法も心得てはいた。
「……姫様?」
ローイックは、すっとぼけてキャスリーンに声をかけた。いきなりの喧嘩腰は彼の信義に悖る。
「ローイック!」
キャスリーンは、助け船が来た、という顔をした。傍からは嬉しそうな笑顔に見えるだろう。
そんな笑顔を見せつけられたホークは、イラついたのか口を歪めた。
「ふん、戦利品が馴れ馴れしい」
ホークは忌々しげに吐き捨てた。汚いものを見る目でローイックを見下ろしている。
「おはようございます」
戦利品扱いされても、ローイックはにこやかに挨拶をし、あくまで呑気を演技した。
短気ほど男の株を下げる物はない。
「はっ、お前に挨拶される覚えなどない」
「あ、いえ、キャスリーン皇女殿下にご挨拶をしたまでです。私の上司になりますので。あ、ホーク様、おはようございます」
「なんだと、貴様!」
ローイックは優し気な笑みを浮かべ、あくまで礼儀正しく、慇懃に振舞った。これで彼の意識は完全にローイックに移ったのだ。短気は損気とはよく言ったものである。
だがこんな慇懃な振る舞いも、キャスリーンがいればできることだ。尤も、キャスリーンが絡まれていなければ、ローイックは無視していただろう。あくまでキャスリーンの為にやっていることだ。
ホークは簡単に挑発に引っかかってローイックの胸倉を掴み、ぐいっと持ち上げた。ガリガリのローイックは軽いのだ。多分、キャスリーンでも持ち上げられるのではなかろうか。
「おや失礼致しました。しかしホーク様。その振る舞いは、皇女殿下の御前では如何かと思われますが? とても帝国に名を轟かせるアレイバーク公爵家の御子息様とは思えません。皇女殿下からの信望が悪くなってしまいますよ?」
ローイックは宙吊りのまま、あくまで礼儀正しく丁寧な対応を繰り返した。ホークは、優男との評判を覆すほど顔を歪め、ローイックを睨みつけている。そのローイックはあくまでにこやかな笑みを浮かべつつも、目は笑ってはいなかった。
睨み合う男達の脇では、キャスリーンがクスリと笑っていた。
「まぁまぁ、ホーク殿。うちの文官が怪我をすると業務に差し支える。その辺で勘弁してやってくれないか」
いつもの、ローイックとじゃれあっているキャスリーンではなく、騎士として、第四皇女としての凛とした口調だった。そして既に彼の目的は、ずらされていた。
「殿下の頼みとあらば、致し方ありませんな」
放り投げるように荒っぽくローイックを開放すると、ホークは左胸に手を当て、スッと華麗に礼をした。ただ、顔には苦渋の皺が現れていたのは、いただけなかった。そこに公爵家の跡取りの優男の姿はない。
「命拾いしたな」
ホークはローイックを一瞥すると、フンと鼻を鳴らし、踵を返して去っていった。大股で去っていく彼を確認すると、ローイックは乱れた襟を直し、キャスリーンに向き直った。
「姫様、彼に何かされませんでしたか?」
「ローイック、大丈夫? 痛くない?」
二人は、同時に話しかけた。ハタと固まり、見つめ合い、同時に笑った。
「助けてくれて、ありがとね」
騎士団の建物まで二人並んで歩く道すがら、キャスリーンは恥ずかしいのか、視線を逸らして礼を述べていた。
ローイックは彼女が照れ屋な皇女様だという事は、よーく知っている。
「ちょっと、怖かったです。殴られたら痛そうでしたし」
「無理しちゃって」
ローイックは苦笑いだった。事実、ローイックは怖かったのだ。
相手は体格も良く、ローイックでは逆立ちしても腕力では勝てないだろう。キャスリーンの手前、暴力はないだろうと踏んでの挑発だった。
相手の知性が足りなかったからすんなりと乗ってくれたが、頭が切れる奴なら簡単にあしらわれていたろう。
「ローイックも鍛えた方が良いんじゃない?」
キャスリーンが悪戯っぽく笑うが、ローイックは肩を竦めるばかりだ。ローイックは右袖を捲って腕を見せた。女性の様に白く、細い腕だ。
「女の子みたいな腕ね。まぁ、何かの時はあたしが守ってあげるから」
キャスリーンは楽しそうに、二パッと笑った。その顔を見るとローイックの頬も緩むのだった。
「そうそう、アーガス王国からくる使節団の中の女性なんだけど」
キャスリーンは視線を上に向け、思い出したかのように話し出した。
アーガス王国という単語に、ローイックの表情が一瞬強張るが、直ぐに戻した。
「ロレッタ・リッチモンドって人なの。知ってる?」
その名前を聞いたローイックの目が大きく開く。彼の良く知っている人物だったからだ。
「……リッチモンド公爵家の令嬢です。私が祖国にいた時の上司の息女で、小さい時には遊んだりしていました。なんで彼女が……」
顎に手を当て考え込むローイックを、キャスリーンは冷ややかな目で見ていた。
「へぇ~、幼馴染なんだ。綺麗な人?」
ジト目で見るキャスリーンには気が付かず、ローイックは考え込んでいる。女性と一緒に居るのに考え事に没頭するのは朴念仁の特徴だ。
「私が帝国に来る時には、まだ十二歳の女の子でした。可愛いとは思いますが、その後は知りませんので……」
キャスリーンがブツブツ零しながら指折り数え始めた。算術は苦手な皇女様である。今でも計算には指が活躍するのだ。
「あたしより若いの!?」
「そう、なりますかね」
素っ頓狂な声を上げるキャスリーンに対して、ローイックは冷静だった。
「使節団の名簿ってありますか?」
顔を上げたローイックに対して、キャスリーンは鞄から書類を取り出し、無言で渡してきた。読みながらローイックは額に皺を寄せ、手を顔に当てた。そこには親友の名前と、元上司の名前もあったからだ。
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