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 集合時間に集合場所へとやって来た理仁達三人は、既に来ていたバスにそのまま乗り込んだ。

「──結構、バスに乗り込んでる人達も居たんだな」
「ああ。あ、あそこに居るのって、この間喫煙室で話した笹野部長と一宮部長が居るな。あの二人、年齢も離れてるのに意外と仲が良いよな」

 理仁の後からバスに乗り込んで来た蒲田がひょい、と理仁の背中から顔を出してそう呟く。
 理仁もそうだな、と頷くとバスの後方に座っている笹野と一宮の座る方へと歩いて行きながら蒲田に言葉を返す。

「全く違う部署だからこそ、逆に気が合うんじゃねえの? これが関わりのある部署だとこうも上手くいかないかもな」

 ぽつりと小声で理仁が蒲田に返事を返していると、乗り込んで来た理仁達に気付いたのだろう。
 笹野と一宮が理仁達に笑顔で手を上げた。

「やあ、大隈くんに蒲田くん。あ、後ろに飯沼くんもいるんだね、お疲れ様」
「笹野部長、一宮部長。昨夜はお疲れ様でした」
「ああ、お疲れ大隈くん」

 理仁はぺこり、と頭を下げると部長達と通路を挟んだ同じ列の窓際に座る。
 蒲田は、理仁の後ろの席に座り、後に続いていた昂太がどちらに座ろうか、と一瞬悩んだ姿を見せたが理仁に「隣に座れば?」と言われて昂太は頷き、そのまま理仁の隣に腰を下ろした。

 会社の人間が全員乗り込むまではまだ時間が掛かるだろう。
 バスが動き出したら恐らく周りの人達も眠るはずではあるが、発車までの数分を理仁は笹野と一宮達と会話をする機会を昂太に与えた。

「そう言えば飯沼くん! 君に教えて貰ったお土産に良さそうな物達の中から子供にお土産を買ってみたよ! こういったものなら、子供も喜びそうだ、ありがとうね」
「い、いえいえ! お役に立てて良かったです! お子さん、喜んでくれると良いですね」
「飯沼くんは、若者に人気の商品や話題に敏感だもんな。俺もまだ三十代で若いと思っていたけど、十代や二十代の子達に流行ってる物は全くわかんなかったもんなぁ……」

 和やかに会話を続けている昂太と、笹野一宮の会話に理仁や蒲田も時々加わり談笑をしながら過ごしていると、バスに乗車予定の人数が揃ったのだろう。

 運転手の「出発します」と言う言葉にドアが閉まる音がして、バスがゆっくりと動き出す。

「明日から、また仕事に戻らないとねえ」
「東京に着くまで、寝ますか笹野部長」

 ふわ、と欠伸を噛み殺したような声音で告げる笹野の言葉に一宮が言葉を返すと、笹野が「そうしようか」と同意する。
 そこで理仁達は会話をやめると、走るバスの心地良い揺れに身を任せ、襲い来る睡魔に抗う事なくそのまま眠りに落ちたのだった。



 途中、高速のサービスエリアに一度だけ寄ったが、理仁と昂太、蒲田はぐっすりと眠りに落ちていて起きずにそのまま、出発した時と同様会社にバスが到着するまで眠ったままだった。



 バスが停車した振動で、ぱちりと目を覚ました理仁は変な寝方をしていたのだろう。
 首が固まってしまっている事に気付き、軽く肩に手を当てながら首を動かすとパキリ、と小気味良い音が静かなバスの車内に響く。

「──着いたのか」

 理仁がぽつり、と呟いたと同時。
 運転手の到着した、と言うアナウンスが車内に流れ、眠っていた人達がぽつぽつと起き出す。

 笹野や一宮達も目が覚めたのだろう。
 固まった体を伸ばすようにぐぅっ、と伸びをしているのが見える。

「おい、飯沼。着いたぞ、起きろ」

 未だに眠りこけている昂太の肩を掴み、やや強めに揺さぶって声を掛ける。
 理仁達の後ろに座っていた蒲田も起きたのだろう。呻く声が聞こえて、次いで降りる為に支度をしている気配がする。

「──う……、もう着いたっすか……?」
「ああ。会社に着いたから後は電車に乗って帰るだけだ」

 理仁が何度か揺さぶり起こしているとようやく目が覚めた昂太が眠そうにしながら目を覚まし、ぐっと両手を真上に突き出した。

「──それじゃあ、僕達はお先に失礼するよ大隈くんに飯沼くん、蒲田くん。また明日、会社でね」
「お疲れー」

 笹野と一宮は、降車の準備が終わったのだろう。
 通路に立つと、理仁達にそう言葉を掛けてくれる。

「──あっ! お疲れ様でした!」
「お疲れ様でした、笹野部長、一宮部長。また明日から宜しくお願いします」
「お疲れ様でした」

 理仁達がそれぞれ挨拶をすると、笹野はにこりと笑顔を浮かべ、一宮は軽く手を挙げてそのままバスを降りて行った。
 降りて行く二人を見送り、理仁達も準備をすると通報に出る。
 バス内にはまだ支度途中の人達も居るが、理仁達は比較的早めに支度を済ませるとそのままバスを降りて行った。
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