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レグルスと、クライ、アンナ、リーチの三人は遺跡の床ですうすうと寝息を立てる家族三人を起こしてしまわないように近付くと寝床の準備をし始める。

レグルスは簡単に薄いシーツをシザーバッグから取り出すと、床に引いて簡素な寝床を作ろうとした。
だが、そのレグルスの行動を見てクライがレグルスに声を掛けると馬車から運んだ荷物の中から厚手の毛布をごそごそと何枚か取り出す。

「レグルス、待て。親父さんに許可は取っているからこの厚手の毛布を使ってくれ。……助けて貰った礼には遠く及ばないが、荷の中の物は自由に使って欲しい、と言っていた。入用な物があれば持って行ってくれ、との事だ」
「──厚手の毛布だが、いいのか?」

クライがスタスタとレグルスに近付いて来ると、レグルスの腕に毛布をぐっ、と押し付ける。

クライは勿論だ、と言葉を返して頷くと言葉を続ける。

「夜中の見張りは俺達に任せてくれて構わないから、レグルスはしっかり寝てくれ。──もし、襲撃があったらまた助けて貰う事にはなると思うが……それはすまん、先に謝っておく」
「はは、それは全然構わない。見張り、俺は参加しなくて本当にいいのか?」
「ああ。レグルスが居なければ護衛対象を守る事も出来なかったしな……今はこれくらいしか出来ないが、街に着いたら改めて礼をさせてくれ」

クライがそう言うと、レグルスが毛布を受け取ったのを確認し、アンナとリーチの元へと戻って行く。
三人で見張りの順番を決めるのだろう。
顔を合わせ、話しているのが見える。

見張りに参加しなくてもいい、と言うのはありがたい。
レグルスは有難くその言葉に甘える事にして、地面に毛布を敷くとその毛布で体を包む。
自分で持っていた薄手の毛布より、厚手で大判な毛布は夜の寒さも防いでくれ、地面に寝転がる体の違和感も軽微な物にしてくれる。

取り出した毛布の中から一番厚手な物を寄越してくれたクライに感謝しながら、レグルスはお言葉に甘える事にして瞳を閉じた。






翌朝、太陽の光が木々の間から差し込んで来ている事にレグルスは気付くと、ゆっくりと瞳を開いた。
夜中、この周囲に掛けていた気配感知の魔法にも何も異常はなく、またクライ達が見張りを行ってくれている、と言う安心感から思ったよりぐっすりと寝入っていたようだ。

太陽の光を感じた、とは言えまだ時刻は早朝だろう。
レグルスは寝転がった体制から起き上がる事なくそのまま周囲に視線を巡らせる。

(──最後の見張りは、アンナだったのか)

レグルス達が寝ている場所から少し離れた遺跡の折れた建造物に腰掛けながら、自分の剣を胸に抱き、アンナはじっと周囲を見張っている。

レグルスや家族三人から少し離れた場所、アンナの近くにはリーチが弓を側に置き、寝ている。
レグルスと家族三人、アンナとの中間の位置にはクライが寝転がっている。
地面に付いた肘に、自分の頭を乗せている体制だが、あれは眠る事が出来るのだろうか、とレグルスは疑問に思うがクライがあの体制でいるのならば問題ないんだろう。

レグルスはそっとその場に上半身だけ起き上がると、レグルスが起きた事に気付いたのか、アンナが視線を向けてくる。
だが、まだ時刻は早朝。レグルスの動きに一瞬クライが眉をぴくりと動かしたが、目を開ける気配はない。

レグルスは皆を起こさないように自分の唇に伸ばした人差し指を当てると、アンナに顔を向ける。
フードを被っているせいで表情は見えないだろうが、アンナには意図が伝わったのか、こくり、と頷くのをレグルスは視界に入れると物音を立てないようにその場に起き上がる。

(もうちょっと太陽の光を体に浴びたいな)

この場所は木々の間から光が入っては来るが、折角ならもっと全身で太陽の光を受けておきたい。
昨日、盗賊達に襲われていた場所は鬱蒼と木々が茂っており、太陽の光は差し込まない。
顔を隠せるのはいい事ではあるが、長時間森の中に居続けているせいか気分が滅入ってしまっても良くないだろう。
何処か木々がなく、空が良く見える場所がないか散策する事に決めたレグルスは、立ち上がると、アンナに視線を向ける。

立ち上がったレグルスに、何処かに行くの?と言うような表情を浮かべているアンナに、レグルスは自分の親指と人差し指を少しだけ離してアンナに向けると、その後にちょいちょい、と昨夜自分達が進んで来た方向へ指を向ける。
「少しだけ歩いてくる」と言う意味合いでジェスチャーを送ったが、アンナは正しくその意味を理解するとレグルスに向かってこくり、と頷いて笑顔で見送った。






さく、さく、と地面を歩く度に土と枯れた葉っぱを踏みしめる音がレグルスの耳に届く。

「太陽の光はやっぱ安心するな……」

レグルスはぐっ、と伸びをすると頭上を仰ぐ。
殆どの時間を地下で過ごしていたせいか、太陽の光をとても恋しく感じてしまう。
あの地下牢から連れ出され、生贄の洞穴に連れてこられてガルバディスと共に過ごした時間も、殆どが洞穴の中での生活だったのだ。
時々ガルバディスに外に連れ出して貰う事はあったが、中々太陽の光をお目にかかる事は多くなかった。

だから、レグルスは今自由に太陽の光を浴びる事が出来るなら沢山光を全身に浴びたい、と考えて森の中を進んでいた。
先程から柔らかい風がレグルスの周りで吹いていて、カサカサと木々の葉っぱを鳴らしている。
まるで風が道案内をしてくれているようにレグルスは感じて、木々の葉の鳴る方へ足を進めて行った。
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