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しおりを挟む街へと向かう道中、間に行ったのは二回の野営で、その野営中や道中は驚く程穏やかに時間が過ぎた。
以前のように盗賊に襲われる事もなく、夜に寝ている時も獣が出てくる事も無く、レグルスは街に到着するまでの時間、暇な時間が出来るとクライやアンナ、リーチに頼まれて稽古を付けて過ごした。
同じ時間を共有する内に、拾った子犬もレグルス以外の人間に懐いたのか、今ではレグルスの腕の中でレグルスの胸元に縋る事もなく、ミーナや母親、アンナと共に過ごす事にも慣れてきている。
女性より体格の大きい男性にはまだ恐怖心を覚えるのか、まだ父親やクライ、リーチに対しては腕に抱かれるのは怯えているように見えるが、近くに行くのは大分慣れたのか、子犬にでれでれと構うリーチや、不器用ながらも必死に構うようなクライの姿に女性達は笑っている。
三人の中で一番懐かれているのは不思議な事に、ミーナの父親で。あと少しで抱っこ出来そうな様子ではある。
そんな父親に嫉妬したような視線を向けるリーチだったり、羨ましそうに見ているクライに可笑しくなって皆で笑ってしまったり。
そんな風に二日を楽しく過ごし、皆で歩いていると前方に街の姿が見えてくる。
その事にいち早く気付いたのは先頭を歩いていたミーナで、「あ!」と明るい声を上げると後ろを歩いていた面々に表情を綻ばせながら振り向いた。
「見えたよ!街の影!あれが次の街のルードヒアでしょう?」
皆に伝えた後、パタパタと嬉しそうに走って行くミーナの後を慌てたように追い掛ける父親に、ミーナの母親が「走って転ばないでよ!」と声を掛けている。
後ろを歩いていたレグルス達は、やっと街に着いた、と各々ほっとした表情になる。
レグルスの目的地はルードヒアで、ミーナ達家族の目指す目的地はルードヒアの先にあるもう少し大きい街だ。
その為、家族に護衛として雇われた冒険者のクライ達三人も家族に着いていく為、この街でレグルスとは別れる事になる。
「あーあ、着いちゃったねぇ」
アンナが残念そうに呟きながら、レグルスの隣に並び立つ。
「もう少しレグルス先生に指導を受けたかったんだけど、あれからレグルスに一本も返せず悔しいや」
「でも、アンナも初日よりは動きが良くなってるんじゃないか?クライやリーチとこれからも続ければ格闘術はもっと伸びると思うぞ?」
「本当?そしたらいつかレグルスとまた会った時に一本取ってやれるくらいになるまで頑張ろっかな」
レグルスとアンナが和やかに会話をしていると、リーチが二人の会話に入ってくる。
「レグルスも、俺たちと一緒に着いて来てくれればいいのに」
「──馬鹿。元々レグルスとはここまで、と言う話だっただろう。……レグルス、すまんなリーチが」
リーチは、心からそう思っているのだろう。
レグルスは少し擽ったいような気持ちになるが、クライがリーチの言葉をピシャリと咎める。
流石に、このチームのリーダーをしているだけあって、自分達の距離感を狂わせたりはしない。
レグルスは、冒険者では無くただの旅人だ。
いくらレグルス本人が強いと言っても、冒険者ではない以上危険が付き纏う旅に誘う事は出来ないし、レグルスの強さを考えれば必要無いかもしれないが、一般人であるレグルスは冒険者からすれば護衛の対象となる。
単純に、目的地が一緒だった今回の同行とは違ってくる。
リーチも、自分が楽観的な発言をしてしまった事に気付くと、レグルスにすまん、と謝罪の言葉を掛ける。
「いや、気にしないでくれ。俺も皆との道中は楽しかったからな」
レグルスがフードの奥で笑んだのが分かったのか、リーチは照れくさそうに笑うと、レグルスの肩に自分の肩を回して唇を開く。
「よっしゃ!この街で一泊はするはずだから、今夜酒盛りしようぜ!」
「ははっ、分かったよ」
レグルス達は、近付いて来る街の姿に歩む足を早めると、街の城門へと向かって行った。
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