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第十二話
しおりを挟む「セレ、スティナ嬢……?」
屈託なく笑う姿を視線の先で捉えて、ジェイクは信じられない思いで唖然と呟いた。
今日は、待ちに待ったフィオナとの逢瀬の日で、前日からそわそわとしてこの日をこんなに楽しみにしていたのに、視界の先で最近見慣れた茶色の髪の毛が揺れて、そちらについつい視線をやってしまった。
そうしたら、普段自分には見せた事のない屈託なく笑う姿を自分の視線で捉えてしまってジェイクは衝撃を受けてしまった。
(俺、にはそんな風に笑ってくれた事がないのに)
厚かましくもそんな事を考えてしまった自分に愕然とする。
何故、こんなにも寂しいというような感情が自分の中に溢れて来てしまっているのだろう。
ジェイクは、見たくないのにもう一度セレスティナの姿を追ってしまって、視界の先で二人が楽しそうに笑い合いながら宝石店に姿を消した所を見て何だか泣きたいような不思議な気持ちに襲われる。
宝石店へと姿を消した、と言う事は二人は特別な仲なのだろうか。
セレスティナは、どんな顔で隣の男性から宝石を受け取るのだろうか。
そこまで考えてしまって、ジェイクは自分の考えを振り払うように頭を振るとフィオナと待ち合わせをしている令嬢達に人気の喫茶店へと肩を落としながら歩いて行く。
二人で共にいる姿を見られてはいけない、と言う事からフィオナとは現地集合だ。
喫茶店にしては珍しく、個室があるのでジェイクは予め予約を取っておりその個室で待ち合わせをしている。
フィオナと会って、話せばこのもやもやとした不思議な気持ちも何処かに消え失せるだろう。
「──早く、フィオナに会いたい」
ジェイクはフィオナに会いたいという気持ちで足早に喫茶店へと向かうと、迎えてくれた店員に自分の名前を告げた。
「あ、これ何かいいんじゃないかな?」
フィリップが手に取った髪飾りを、セレスティナが後ろから覗き込むと表情を歪ませる。
「センスが悪い……」
「ええ!?何処がだ!?」
ギラギラと下品な程宝石があしらわれた髪飾りは重そうでもし髪の毛にそれを付けたらストン、と落ちてしまいそうな程重量感がある。
「こんなデザインの物を婚約者から貰ったら百年の恋も綺麗さっぱり冷めそうです」
「ええ……強そうで良いと思ったんだがなぁ」
「強そうって何ですか、強そうって。年頃の女性は華奢で繊細な細工の髪飾りが好きなので……そうだ、ここら辺にあるのがお勧めです」
センスが壊滅的に悪い従兄弟のため、セレスティナは可愛らしい髪飾りが並べてある一帯を指さし、フィリップに教えてやる。
この中から選べばそうそう趣味が悪い物を選ばないだろう、と思いセレスティナは髪飾りの前でうんうん唸っている従兄弟を放置して、ブローチの辺りに移動する。
(今は贅沢品を買う事は出来ないけど……可愛い……)
セレスティナはブローチが並べられている一帯で足を止めるとある一つのブローチに目がいってしまう。
先程フィリップに話したカナリアをイメージしたブローチで、瞳の部分が珍しくローズピンクの宝石が嵌め込まれていてキラキラと輝く瞳がとても綺麗だ。
自分の家に余裕があれば、購入してしまっていた程可愛らしく、しかもお値段もお手頃で手に取りやすい。
どうやら一点物らしく、他には同じような種類のブローチはない。
洋服に付けるのも可愛らしいが、学園のバッグに付けても可愛いだろう。
セレスティナがじっとそのブローチを眺めていると、後ろからひょい、とそのブローチを手に取る者がいた。
(──あっ)
セレスティナは、誰かがこのブローチを気に入り、購入してしまうのだろうか、と少し残念に思ったが手に取った男は自分の従兄弟で、セレスティナに唇を開いた。
「これが気に入ったのか?──今日のお礼にプレゼントするよ」
「──えっ!」
にこやかに笑うフィリップに、セレスティナは申し訳ないからいい、と断ろうとしたがセレスティナが言葉を発する前にフィリップは上機嫌で婚約者に贈る髪飾りと一緒にセレスティナにプレゼントするブローチを持って会計へと向かってしまった。
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