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第七十八話

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(これはフィオネスタ嬢に伝えない方がいいな……)

カーティスはそう判断すると、報告書を自分の懐へと仕舞い込む。

最悪の場合、処刑と言う処罰が科される可能性があると言うのはミリアベルに伝えなくてもいいだろう。
今まで人の生き死にとは縁遠い生活をしていたのだから、このような情報を耳に入れるのはまだ早いかもしれない。

(この報告に関しては、ノルトが戻って来た時に相談しよう……それに──魔の王であるネウス様がどう動くかまだ分からないしな)

カーティスはちらり、とネウスに視線を向ける。

捕らえたティアラとベスタの身柄はネウスが預かっている。
ティアラに関しては、ネウスが体内の魔力の核を破壊した事で聖魔法を使用する事が出来なくなっている、らしい。
そして、ベスタ・アランドワについては下僕の訓練相手にすると言うような発言があった。
下僕、とは恐らく魔獣の事だろう。
その魔獣の訓練相手を正規の魔法騎士でもない見習い程度の力しか持たないベスタが務めればどうなるか。

(死んだ方がマシだと思う程の毎日になるだろう……)

カーティスの視線に気付いたネウスが、つい、とカーティスに視線を向けてくるがカーティスはにっこりと笑顔を浮かべるとそのまま二人に視線を向ける。

カーティスからの報告を聞いていたミリアベルは、やはり暗い顔をしているのがカーティスの座る位置からも伺い見れて、早くノルトが戻って来るといいのに。と心の中で強く願った。












傷の痛みとは違い体が熱を持ち、重だるい感覚がしてノルトはふと目を覚ました。

ネウスからの斬り傷により熱を出してしまっているらしい自分の体をゆっくりと起き上がらせると、ノルトは深く溜息をついた。

(ここまで治癒が効かないとは──)

ミリアベルの治癒魔法であればもう少し傷が塞がり、熱等も出す事はなかっただろう。
ノルトは発熱により痛む頭に自分の手をあてるときょろ、と室内に視線を巡らせる。

どうやら治癒士は既に退出しているらしく、室内にはノルト以外誰も居らず気配を探ると部屋の外、扉の前に二人程護衛が立っているだけのようだ。

「──国王陛下はネウスから庇った俺を随分と信用してくれているみたいだな」

ノルトはぽつりと呟くと、ベッドから立ち上がり側にあった自分の上着を手早く羽織ると扉とは反対方向にある室内の窓際へと歩いて行く。

「監視も付けていないとは、動きやすい」

まだ体は本調子ではないが、耐えられない傷の痛みではない。
窓の外はまだ薄暗く、日が昇るにはまだ時間はありそうだ。

ノルトは窓周辺に対して防音結界を張ると、窓を大きく開け放つ。
結界のお陰で窓を開ける音は外に漏れず、部屋の外にいる護衛には気付かれていない。

(恐らく、夜が開けるまでは室内には誰も入ってくる事はないだろう)

ノルトは窓枠に足を掛けると、自分に身体能力増幅の魔法をかけると窓枠を強く蹴り、上空へと跳躍した。

(大司教はランドロフの影が探る、と言っていたな……それならば俺は陛下の様子を確認しに行こう──)

ネウスとの戦闘の後だ。
本来であればネウスとの取引で見返りを貰う予定だった国王は確実に動揺し、本来の自分の目的だった事を「確認」するはずだ。
操縦の魔法を手に入れようとしていた事、そして長い年月を掛けて奇跡の乙女を作っていた事から国王の目的は何かとてつもなく大きい物だろう。
ただ、戦争の為だけに操縦の魔法を手に入れようとしていたとはどうしても思えない。

ランドロフは、自分の母親が死んでから国王は変わってしまったと言っていた。
その言葉を思い出し、ノルトは禁術にでも手を出していないだろうな、と嫌な予感を感じつつ夜が開ける前の暗い中、上階のバルコニーに降り立つと中の気配を探る。

ノルトが居た部屋の上階は、政務官等が仕事を行なう階のようで、ノルトが降り立ったバルコニーのある部屋も、執務室のようだ。
そっとバルコニーから室内へと入る扉の鍵を開けると中に侵入し、出入口の扉の方向へと歩いて行く。

「見回りとかち合うと面倒だな」

ノルトは呟くとそっと外の様子を伺う。
扉の向こう、廊下で動く人の気配が無い事を確認するとノルトはそっと扉を開けて廊下へと出る。

自分の足音を殺して、人の気配がしない方向へと進みつつ、ノルトは自分の脳内で王城の内部の地図を思い浮かべる。

(流石に国王陛下が休む宮に侵入するのは難しい……それならば、陛下の執務室もしくは王太子や第二王子の執務室を探るか……)

国王と教会の大司教二人だけの企てなのか、それとも第三王子を除く王族ぐるみでの企てなのか。
まずはそこを判明させるのもいいだろう。

ノルトはそう考えると、国王の執務室や王太子の執務室がある方向へと向かって駆け出した。
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