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連載
第七十七話
しおりを挟むふ、とネウスが目を覚ますと室内が真っ暗になっており、魔道士団の宿舎に到着してから随分時間が経過していたようだ。
ネウスが上半身を起こすとベッドがぎしり、と耳障りな音を立てる。
「──あー……、」
まだ覚醒し切れていない頭で周囲をゆるり、と見回す。
ネウスは自分の部屋がある階で動く人間の気配を感じ取り、そう言えば人間──ノルトとミリアベルの力に惹かれここまで着いて来たのだった、と言う事を思い出す。
人間の代表の悪事を暴く為に一芝居打ち、傷を回復していたんだったな、とネウスは自分の体にペタペタと触れて確認すると、ノルトから受けた傷は綺麗に塞がったようでもう痛まない。
ベッドから足を下ろし立ち上がると脱ぎ捨てていた服に腕を通す。
服を着込み、部屋の扉の方向へと向かい歩いて行くと、ネウスの部屋に近付いて来る足音と気配を感じてネウスは扉のドアノブに掛けていた手をそこでピタリと止めた。
「──ネウス様、起きていらっしゃいますか?」
ミリアベルの声だ。
ネウスは嬉しそうに一瞬笑顔を浮かべるが、ミリアベルと共にあるもう一つの人間の気配に嫌そうな表情を浮かべると扉を開けた。
「ああ、起きた」
「──わっ!」
ミリアベルは、突然目の前の扉が開いてネウスが姿を表した事に驚き、半歩後ろに下がるとミリアベルの後ろに立っていたカーティスの肩にとん、とぶつかってしまう。
「──あっ、すみませんカーティスさん……!」
「ああ、大丈夫だよフィオネスタ嬢」
ミリアベルの肩に手を置き、ミリアベルを支えるような様子のカーティスにネウスは眉を顰めると唇を開く。
「何だ……俺が寝ている間に随分仲良くなったみたいだな……?」
ネウスの言葉にぎょっとしたような表情を浮かべるミリアベルとカーティス二人に、ネウスはミリアベルの後ろにいたカーティスにずいっと体を近付けるとぼそりと呟く。
「──ノルトにバレたらお前、大変な事になるんじゃないか?」
「──っちが、俺にそんなつもりはありません……!」
ボソボソと話を続けるネウスとカーティスに、ミリアベルは話の内容は聞こえておらずミリアベルは少し興奮気味に瞳を輝かせるとネウスに唇を開く。
「ネウス様!先程王城から使者が来られて、スティシアーノ卿が無事目を覚まされた事を教えて下さいました」
ほっとしたようにそう伝えて来るミリアベルに、ネウスは何とも言えない感情が自分の胸中を満たすのを自覚する。
その不快な感覚を誤魔化すように、ネウスはにやりと笑みを浮かべるとミリアベルの頭をぐりぐりと撫でて階下の談話室へと向かう為歩き始める。
「俺が力加減を誤る事はないからな。こっちに戻って来る時期は聞いたのか?」
歩いて行くネウスの背中に、ミリアベルは追い付くように小走りで着いていくと、ネウスの背中に向かって唇を開く。
「いえ、そこまではまだ……ですが、目を覚まされたそうなのでそこまで長く王城には留まらないだろう、とカーティスさんも仰って下さいましたので……きっとすぐ戻られますね」
ちらり、と肩越しにミリアベルに視線を向ければにこにこと屈託なく笑うミリアベルの表情が視界に入り、ノルトの無事を心から喜んでいるようなそんな態度にネウスは無意識に「面白くねぇな」と胸中で呟いた。
場所は変わって、魔道士団宿舎の談話室。
ミリアベル、ネウス、カーティスの三人は遅い夕食を談話室で取りつつ魔法騎士団のラディアンから報告された内容を確認していた。
カーティスが、ラディアンからの報告書を手に内容に目を通しミリアベルとネウスに分かりやすく伝えていく。
「──魔法騎士団の内部で、今回の軍規違反を犯した者は総勢二十四名。その内の五名は奇跡の乙女と同じ部隊に所属していた治癒魔法の使い手で、奇跡の乙女と、その信者達に半強制的に前線への同行を強いられているな……この五名に関しては重い処罰は科されないだろう……残りの十七名は、奇跡の乙女と同じ学院に通っている臨時団員達だな……奇跡の乙女の言葉に共鳴、心酔した者達が前線に突入、場を混乱させている為厳罰は免れない。後の二名はまあ奇跡の乙女本人とベスタ・アランドワ……この二人は既にネウス様の手で処罰を受けている……こっち側での軍法会議の時に奇跡の乙女と、ベスタ・アランドワを連れて来て欲しい、──と大まかには記載されているな」
カーティスから告げられた言葉達に、ミリアベルは「そんな大勢の人達が……」と驚き、ネウスは「どれだけがうちで貰えるか」と楽しそうに表情を輝かせている。
そんな二人の表情、特にミリアベルの表情を見てカーティスはラディアンからの報告書に記載されているもう一文を伝えるのを辞めた。
くしゃり、とカーティスの手のひらの中で歪んでしまったその報告書には最後に一文、ラディアンの予想である言葉が記されている。
"軍規違反を犯し、更には和解した魔の者の王への攻撃を行った二人は最悪の未来も有りうる"と。
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