あなたの事はもういりませんからどうぞお好きになさって?

高瀬船

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第百九話

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「じゃあ、戻るぞ」

証拠を全て魔道具で撮影し終わると、ネウスがミリアベルとノルトにそう伝え、二人が頷くとネウスは転移魔法を使用して王城へと転移した。

転移魔法を発動した際の光に包まれた後一瞬の浮遊感を感じる。

ミリアベルは自分の足先が硬い床に触れた事に気付き、王城へと戻ってきたのだと瞳を開こうとした。
が、瞳を開くより先にミリアベル達の姿が突然現れた事に驚いたのだろう。
聞き覚えのある男の声で叫び声が上がった。

「──ぎゃあっ!」
「……っ、」

一瞬、王城の人間かと思いミリアベルの隣に居たノルトが対処しようとしたが、その声が聞こえた方向に視線を向けてほっと安堵したような吐息を漏らす。

「──カーティスか……。何故ここに?」
「いやいやいや!何故ここにって、お前がぜんっぜん連絡寄越さないから心配して王城に来たんだよ……!火急の用事って嘘ついてまで来たってのに……!」

ぶつくさと文句を言うカーティスに、ノルトはすまない、と軽く返事を返すとネウスとミリアベルに視線を向ける。

「──ネウス、ありがとう。助かった」
「ああ、気にすんな」
「何か軽くねえ?俺の扱い適当じゃねぇ?そう思わない、ミリアベル嬢ー」
「え、いえ、えぇ?」
「カーティス、絡むな」

ノルトがスパッとカーティスにそう言うと、カーティスが不貞腐れたように眉を寄せて唇を開く。

「何だよなぁ、かなり心配したってのに……。で、どうだったんだよ。何か動きはあったのか?」

カーティスの言葉に、ミリアベル達はお互いに視線を交わすとノルトがカーティスに向かって唇を開いた。













「──へぇ、大司教が第二王妃をねぇ……滅茶苦茶重い人だったんだな。で、ノルト達はこれからどうすんの?」
「ああ。そうだな……入手した証拠を元に国王陛下へ行った邪法や国民に行った禁術、甦りの禁術の使用。それに国王陛下への反逆その他諸々を──」
「いやいやいや、それ始めると時間滅茶苦茶掛かるだろ?もう軍法会議で全部一気に終わらせちゃえばいいんじゃねーの?」

カーティスの言葉に、ノルトが呆気に取られたように瞳を見開く。

「いや、だがそうすると──」

ノルトがカーティスに反論しようとした所で、突然室内に転移魔法の眩い光が発生し、その場に居たミリアベルやノルト、カーティスは驚き身構える。
その中でネウス一人だけが慌てたようにその転移魔法に対抗しようとしたが、転移が完了する方が早かった。

「──ネウス様!まだこちらに居るのですか、戻りますよ……」

ミリアベル以外の、女性の落ち着いた声が室内に響き渡り、転移魔法の光が収まると白銀の髪の毛を靡かせて長身の女性がその場にしゃんと背筋を伸ばして立っていた。

「──っ、ロザンナ……っ何故お前がここに!」

ネウスは、その姿を表した女性──ロザンナを視界に入れた瞬間怯むような素振りを見せて、その場から逃走しようと踵を返すが「逃がすかっ」と些か声を荒らげたロザンナにネウスの襟元が背後から掴まれ、そのまま床へと投げられる。

べしゃり、とそのまま床へと倒れたネウスはロザンナに向かって両手を上げるとそのまま背後に下がるようにして床をずりずりと移動する。

「いつまでこちらに居るつもりなのですか……こっちの魔力の枯渇も最重要問題なのにいつまでもこっちに居て」
「違っ、俺だってこっちでどうにか出来そうな場所が新しくないか探してたり……っ」
「それに、我が国の内戦……っ。収集がつかなくなって来てるんです。ネウス様が居ないから暴れる者達を抑えられず、見てくださいこれを。この傷を」

ネウスの言葉を無視してロザンナは淡々と言葉を続け、ネウスへと一歩一歩ゆっくりと近付く。
そうして自分の傷を見せる為にお腹の服を捲り上げると、その場には大怪我を負った後のような傷跡が痛々しく残っている。

「穴が空いたんです、穴が。戦闘は得意じゃないのにネウス様がいなかったせいで私も戦闘に駆り出され、突進して突き刺す事しか能のない野蛮な奴らにやられたんです、ネウス様がこっちに居るせいで……っ」
「あ──……あいつらか、分かった分かった。今度俺が行って言い聞かせとくから……」
「もう遅いです、何もかも!本当に何もかも……っ。大体ネウス様、貴方本人の体がもう持たないでしょう!?」

ロザンナとネウスの会話を呆気に取られて見ていたミリアベル達だったが、ロザンナの最後の言葉がその場に響くとミリアベルとノルトが瞳を見開く。

「──ネウス……っ!それはどう言う事だ!?」
「体が、持たないって何ですかそれっ」

ノルトとミリアベルの言葉にそこで初めてミリアベル達の存在に気付いたかのようなロザンナは、僅かに眉を寄せると億劫そうに唇を開く。

「──これだけネウス様の側に居ながら人間は何も感じ取れないのか……。私の言葉の通りだ。このまま時間が経過し、魔力を消費し続ければ我々魔族は滅びるだけだ」

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