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第百八話(※閲覧注意)

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今回の話には、若干グロテスクな描写が出てきます。
嫌な予感を感じられた方はブラウザバックをお願いします。
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──第二王妃

ノルトの口から零れ落ちたその言葉に、ミリアベルは目を見開くとノルトに視線を向ける。

「第二王妃、とは……数年前に身罷られたランドロフ殿下の母君ですよね……!?」
「ああ、そうなんだが……。何故ここにこんなに大量に第二王妃の姿絵が……?」

ノルトは自分の顎に手を当てて周囲を見回すようにぐるりと視線を巡らせる。
異常、異質とでも言える程第二王妃の姿絵が壁一杯に貼られ、しかもその視線は全て椅子に座った状態の人物に向けられるように描かれ、配置されている。

その異常性にミリアベルとノルトは薄ら寒さを感じた。
何故このような空間があるのか。
二人が考えていると、ネウスが呆れたように唇を開く。

「そんなの、簡単じゃねぇか。ただ単にこの部屋の持ち主はこの姿絵の女を心底愛してたんだろう。まあ、その感情が異質ではあるがな」
「愛情……そうか、第二王妃に並々ならぬ執着を持って居なければこんな部屋にはならないよな……」
「まあ、愛は重いけどなぁ。いくら数百年を生き、伴侶は一人しか持たない俺達の種族でもこんな狂ったような異質な愛し方はしないがな」

嫌そうな表情をするネウスに、ノルトも無意識に頷いてしまう。
こんな執着、相手にとっては重い枷にしかならない。
ノルトは自然とミリアベルに視線を向けてしまい、自分だったらこんな重い愛し方はしないのに、と考えてしまう。相手の負担にしかならない感情など重いだけだ。

「──ノルト様?」
「……っ、何でもない」

じっと見つめ過ぎてしまったのだろうか。ノルトの視線に気付いたミリアベルが不思議そうにノルトに話掛けてくるが、ノルトはぱっとミリアベルから視線を逸らす。

不思議そうにしているミリアベルに視線を戻す事が出来ずに、ノルトが木製のテーブルに視線を落とすと、そこには紙が散乱しており、その紙には殴り書いたような文字や文章が羅列している。

何の気なしにノルトはその紙を一枚手に取るとその文字に目を落とす。
そこには、国王陛下の部屋で見た物と同じように古代語で書かれた文字がぎっしりと書かれており、ノルトはその文字をゆっくりと解読して行った。

「──あの、時。何故、もう一度、リスティアーナ、魔獣、抽出、甦り……」
「──大司教の物か」

ノルトの呟きに、ネウスが反応するとノルトは落としていた資料から視線を上げてネウスに頷いた。

「ああ。恐らく禁術を使用する為のその方法の走り書きだろう……リスティアーナ様は第二王妃の名前だ」
「大司教は、第二王妃様と面識があったのですね……」

ミリアベルの言葉にノルトも頷く。

「ああ。何処で知り合ったのかは分からないが……面識があったのは確かで、第二王妃に執着……重い程の愛情を抱いていたみたいだな」
「──だから、国王陛下を亡き者にしたのでしょうか。自分の愛する人を妻にした方だから?」
「だが……元々国王陛下とは幼い頃から婚約をしていたし、──好きになるのは仕方ないとは言え、これでは逆恨みだ……」

ミリアベルが資料を確認しようとノルトの近くへとやって来る。
そうして、ふと資料の山に違和感を感じてその資料達を退かすように紙の束を持ち上げた。

そして、そこから出て来た物にミリアベルとノルトは驚きに目を見開いた。

紙の束、資料に隠されるようにしてそこにあったのは上等な絹の真っ白な敷き布で、その布に直接赤茶色のインクのような何かで図形が描かれている。
そして、その図形の中心地にはズタズタにされ原型の留めていない何か。
その何か、から赤茶色のインクのような物が広範囲に染み込んでいる。

それを見てしまったミリアベルは咄嗟に自分の口元に手を当てると後ろへ数歩下がってしまう。
良く確認してみれば、その中心地にはズタズタの何かの上に赤茶色のインクのような物に塗れて人の髪の毛の束のような物が置かれていた。

それをマジマジと興味深そうに眺めるネウスは、小さく首を横に振ると唇を開く。

「──駄目だな、俺達の種族にもこんな魔法は存在しない」
「……ああ、俺達人間が使用する魔法にも、こんな物は見た事がない……」

ノルトもネウスの言葉に必死に自分の中にある魔法の知識を思い出して考えるがこんな物は見た事がない。
これでは、まるで誰かの命を引き換えに誰かを──
そこまで考えてだが、それもおかしいと思い直す。

奇跡の乙女を作ったのは教会と、国王陛下だ。
では何の為に奇跡の乙女を作って大量の信者を作ったのか。
甦りの禁術の為に人を支配し、傀儡とし沢山の命を得る為なのか。
だが、人の命を大量に使用する禁術では甦りの術が上手く行かなかったのか。
では魔獣の実験は何の為に行っていたのか。
単純に国を堕とす戦力を欲していたのか。
国王陛下は、甦りの禁術で第二王妃が甦ると思い行動していた。
だが、国王陛下に元から恨みがあった大司教が国王陛下を謀っていたのならば。
そして、今まで培ってきた知識と経験で国王陛下を亡き者にし、何らかの方法を見つけ甦りの術を行おうとしていたのなら。

「ああ、駄目だこんがらがってきた……」

ノルトは自分の思考が纏まらず散らばって行くのを自覚して頭を横に振る。

「──この場所が、教会から通じていると言う事はこのような事を仕出かしたのは大司教で間違い無い事は確かだな……魔道具で証拠を撮って一旦戻ろう……」
「そうだな、一度考えを纏める方がいい」
「そう、ですね。あまり長い事この場に居ると大司教に気付かれてしまうかもしれませんし」

三人は一度王城へと戻る事を決めると、部屋にある証拠類を全て魔道具で撮影してネウスの転移魔法で戻る事に決めた。
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