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第百十七話
しおりを挟む「洗脳、とは──どう言う事ですかランドロフ殿下」
「ああ。私も今の今まで疑問に思わなかったのだが……何故かここ数年兄上達と交流を持っていない……。そして、それに疑問も持っていなかったのに今更気付いたんだ、何故……今までだったら兄上達と顔を合わせる事も多々あったのに……」
ノルトの言葉に、ランドロフは悔しそうに表情を歪めて何とかそれだけを絞り出す。
「分かりました。ランドロフ殿下に洗脳が掛けられているのであれば、それを解除致します」
「ああ、頼む。フィオネスタ嬢」
こくり、と頷くランドロフを見てミリアベルは聖魔法の発動の為に魔力を構築して行く。
ここまで疑問を持たさず、洗脳していたと言うのであれば相手も精度の高い精神干渉の魔法を掛けていたのだろう。
その精度の高い精神干渉を打ち消す為には少々複雑な魔力構築が必要になる。
ミリアベルが集中している間に、ノルトやネウス、カーティスが小声で話し合う。
「──殿下が洗脳されていた、とすれば何が狙いだ?」
「兄弟と疎遠になるように仕向けられてた、って事だよな?さすがに父親である国王との交流は断つ事はできねぇ……兄弟から遠ざけてた、のか?」
「ですが、何の為に王太子殿下達からランドロフ殿下を……?それがわからない……」
男達三人の会話を側で聞いていたロザンナは、ふとランドロフへと視線を向ける。
ランドロフからも自身の魔力以外、うっすらと他の者の魔力が混ざっているようでロザンナは唇を開いた。
「あの、ランドロフと言う王族の洗脳が解けて来たのは、ネウス様があの女の核を破壊したからではないでしょうか?あの女の魔力を中心、──核にして自分で洗脳の魔法を開発して王族のあの男へ掛けていたのでは?」
まあ、理由は分かりませんが。そう呟くロザンナにノルトとカーティスはネウスへと視線を向ける。
「そのような魔法を自分で開発何て簡単に出来る物なのか?」
「あー……そうだな……。あの大司教の執念深さならやっちまぇるんじゃねぇか?禁術、邪法に明るい人間だ。他人の魔力を核に洗脳するなんて少し時間があれば無理な事ではねぇな」
「──最悪、だな……」
ノルトは自分の額に手を当てると息を吐き出す。
知らないところで王族が洗脳を受けていた。
洗脳や精神干渉に対して、王族は常にそれを防ぐような魔道具を身に付けているにも関わらず、だ。
それがどれ程恐ろしい事か。
それに気付かずにいたら本当に大司教の意のままにこの国を動かされていたかもしれない。
何処かでその真実に気付いたとしても、既に洗脳により信者化された者が大勢いたら。
禁術により魔獣を数多く作り出され、大司教の支配下に居たら。
その争いを抑え込む為に内戦が起き、国が疲弊し他国からの侵攻を受けていた可能性がある。
「大司教は、国を滅茶苦茶にしたかったのか……?内戦を起こして、国そのものを滅ぼそうと?」
そうとしか思えない所業にノルトは表情を歪ませる。
大司教の目的は第二王妃を甦らせる為ではないのか。
甦らせたらそれでもういいのだろうか。
第二王妃が愛した国も、国民も、子供がどうなろうがどうでも良かったのだろうか。
そう考えている内に、ミリアベルの魔法が発動してランドロフを真っ白い清廉な輝きが包み込む。
「──……っ」
「ランドロフ殿下、大丈夫ですか?」
ランドロフが瞳を開けると、ミリアベルが心配そうにランドロフを覗き込む。
ミリアベルが覗き込むと、ランドロフは目を見開き唖然とした表情を浮かべている。
ミリアベルの言葉に、ランドロフはぎこちなくミリアベルに視線を向けると唇を開いた。
「──ああ、大丈夫だ……。ありがとうフィオネスタ嬢……。今はしっかりと兄上達の事を考える事が、出来る……」
小さく、か細く言葉を返すランドロフに心配そうにミリアベルやノルトが近寄ると、そこでランドロフの瞳から耐えきれなくなったかのようにぽろり、と一筋涙が頬を伝い、そして静かに床へと落ちて行った。
ランドロフのその姿に驚いたノルトは何があったのか、何を思い出したのかを確認する為にランドロフの肩を掴んだ。
「ランドロフ殿下……!何が、いえ、何を思い出してしまったのですか」
力強いノルトの声に、ランドロフはのろのろと自分の視線をノルトに向けると、悔しそうに唇を開いた。
「兄上の……、王太子殿下の言葉を思い出したんだ……。きっと私を助ける為に、遠ざける為に兄上達は大司教に近付いて……」
そこで、かくんと膝から力が抜けたランドロフを慌ててノルトが支えると側のソファにカーティスと二人で運んで行った。
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