あなたの事はもういりませんからどうぞお好きになさって?

高瀬船

文字の大きさ
63 / 80
連載

第百十七話

しおりを挟む

「洗脳、とは──どう言う事ですかランドロフ殿下」
「ああ。私も今の今まで疑問に思わなかったのだが……何故かここ数年兄上達と交流を持っていない……。そして、それに疑問も持っていなかったのに今更気付いたんだ、何故……今までだったら兄上達と顔を合わせる事も多々あったのに……」

ノルトの言葉に、ランドロフは悔しそうに表情を歪めて何とかそれだけを絞り出す。

「分かりました。ランドロフ殿下に洗脳が掛けられているのであれば、それを解除致します」
「ああ、頼む。フィオネスタ嬢」

こくり、と頷くランドロフを見てミリアベルは聖魔法の発動の為に魔力を構築して行く。
ここまで疑問を持たさず、洗脳していたと言うのであれば相手も精度の高い精神干渉の魔法を掛けていたのだろう。
その精度の高い精神干渉を打ち消す為には少々複雑な魔力構築が必要になる。
ミリアベルが集中している間に、ノルトやネウス、カーティスが小声で話し合う。

「──殿下が洗脳されていた、とすれば何が狙いだ?」
「兄弟と疎遠になるように仕向けられてた、って事だよな?さすがに父親である国王との交流は断つ事はできねぇ……兄弟から遠ざけてた、のか?」
「ですが、何の為に王太子殿下達からランドロフ殿下を……?それがわからない……」

男達三人の会話を側で聞いていたロザンナは、ふとランドロフへと視線を向ける。
ランドロフからも自身の魔力以外、うっすらと他の者の魔力が混ざっているようでロザンナは唇を開いた。

「あの、ランドロフと言う王族の洗脳が解けて来たのは、ネウス様があの女の核を破壊したからではないでしょうか?あの女の魔力を中心、──核にして自分で洗脳の魔法を開発して王族のあの男へ掛けていたのでは?」

まあ、理由は分かりませんが。そう呟くロザンナにノルトとカーティスはネウスへと視線を向ける。

「そのような魔法を自分で開発何て簡単に出来る物なのか?」
「あー……そうだな……。あの大司教の執念深さならやっちまぇるんじゃねぇか?禁術、邪法に明るい人間だ。他人の魔力を核に洗脳するなんて少し時間があれば無理な事ではねぇな」
「──最悪、だな……」

ノルトは自分の額に手を当てると息を吐き出す。
知らないところで王族が洗脳を受けていた。

洗脳や精神干渉に対して、王族は常にそれを防ぐような魔道具を身に付けているにも関わらず、だ。
それがどれ程恐ろしい事か。
それに気付かずにいたら本当に大司教の意のままにこの国を動かされていたかもしれない。

何処かでその真実に気付いたとしても、既に洗脳により信者化された者が大勢いたら。
禁術により魔獣を数多く作り出され、大司教の支配下に居たら。
その争いを抑え込む為に内戦が起き、国が疲弊し他国からの侵攻を受けていた可能性がある。

「大司教は、国を滅茶苦茶にしたかったのか……?内戦を起こして、国そのものを滅ぼそうと?」

そうとしか思えない所業にノルトは表情を歪ませる。
大司教の目的は第二王妃を甦らせる為ではないのか。
甦らせたらそれでもういいのだろうか。
第二王妃が愛した国も、国民も、子供がどうなろうがどうでも良かったのだろうか。

そう考えている内に、ミリアベルの魔法が発動してランドロフを真っ白い清廉な輝きが包み込む。

「──……っ」
「ランドロフ殿下、大丈夫ですか?」

ランドロフが瞳を開けると、ミリアベルが心配そうにランドロフを覗き込む。
ミリアベルが覗き込むと、ランドロフは目を見開き唖然とした表情を浮かべている。

ミリアベルの言葉に、ランドロフはぎこちなくミリアベルに視線を向けると唇を開いた。

「──ああ、大丈夫だ……。ありがとうフィオネスタ嬢……。今はしっかりと兄上達の事を考える事が、出来る……」

小さく、か細く言葉を返すランドロフに心配そうにミリアベルやノルトが近寄ると、そこでランドロフの瞳から耐えきれなくなったかのようにぽろり、と一筋涙が頬を伝い、そして静かに床へと落ちて行った。

ランドロフのその姿に驚いたノルトは何があったのか、何を思い出したのかを確認する為にランドロフの肩を掴んだ。

「ランドロフ殿下……!何が、いえ、何を思い出してしまったのですか」

力強いノルトの声に、ランドロフはのろのろと自分の視線をノルトに向けると、悔しそうに唇を開いた。

「兄上の……、王太子殿下の言葉を思い出したんだ……。きっと私を助ける為に、遠ざける為に兄上達は大司教に近付いて……」

そこで、かくんと膝から力が抜けたランドロフを慌ててノルトが支えると側のソファにカーティスと二人で運んで行った。
しおりを挟む
感想 504

あなたにおすすめの小説

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。