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最終話
「待たせてしまったかな?申し訳ない」
ランドロフが入室すると同時、朗らかな表情で手を上げてノルトやネウスに声を掛ける。
ランドロフと共にこちらに戻って来るミリアベルにノルトとネウスは一瞬だけ視線をやりながら、小さく言葉を交わした。
「──ネウス……、ミリアベル嬢にはあまり残酷な内容は伝えないようにしてくれ」
「ああ。それは分かっている」
ひそり、と会話をした後ノルトは笑顔を自分の顔に貼り付けるとランドロフに向かって返事を返した。
四人がソファに腰を落ち着かせ、一息ついた頃。
ランドロフが唇を開く。
「フィオネスタ嬢……体調が戻って良かった。もう魔力は回復したんだな?」
「はい。もうすっかり。ご迷惑をお掛け致しました」
ランドロフの言葉に、申し訳ないと言うようにミリアベルがぺこり、とランドロフに向かって頭を下げる。
「いや、気にしないで欲しい。寧ろ、私もフィオネスタ嬢の体調を鑑みないであのような依頼をしてしまって申し訳無かった。私のような立場の者から頼まれては断りにくいだろう……。これからは少しでも体調が悪ければ遠慮せずに言って欲しい」
「──ランドロフ殿下、それでは今後王太子殿下達の対応時間に制限を設けては如何でしょう」
「ああ、そうだな」
ノルトの言葉に、ランドロフも頷く。
話し合いの結果、王族への聖魔法の"治療"に関しては週に三回、午前中の二時間のみ、と言う事で合意した。
王城へは毎回ノルトとネウスが同行する事になり、魔力の流れが見えるネウスが治療中少しでもミリアベルへ負担が掛かっているのを確認した場合治療はそこで中断する権利を得た。
「──それでは、治療に関してはこれでいいかな?宜しく頼むよ、フィオネスタ嬢」
「はい。ランドロフ殿下。お任せ下さい」
ぺこり、と頭を下げるミリアベルにランドロフが頷くとそこでノルトが続けて唇を開く。
「ランドロフ殿下、もう一つ宜しいか?」
「ん?ノルト、何だ?」
「──今回の件で、協力してくれたネウス──いや、魔の者全体に今助けが必要らしいのですが、我々人間側で協力を申し出たいのです」
「助けが?それは本当か、ネウス殿」
ランドロフの言葉に、ネウスは真剣な表情でこくりと頷く。
「──それならば、勿論我々で良ければ協力しよう。何か我々に出来そうな事は?」
「──俺達は魔力を糧にしているのはもう分かっているな?」
ネウスの言葉に、ランドロフはこくりと頷く。ネウスはランドロフが頷いたのを確認すると、言葉を続ける。
「他国に魔力が豊富な土地がある。そこをうちの種族の土地とする。その際に国同士での諍いが起きるだろう。介入して戦争にならぬように調整してくれ」
「──他国、を……?その地の民を攻撃はしないのだろうな?」
「攻撃するつもりはない。だが、抵抗されればうちも強硬手段に出る他ない。魔力が尽きれば魔の者も命を落とすからな。……出来れば俺達も人間を無差別に殺したくはない」
ネウスの言葉に、ランドロフは自分の顎に手を当てると「その土地とはどこの国だ?」と言葉を返し、ネウスとランドロフの話し合いは続いた。
暫し話し合いが続き、ある程度話しが纏まった所で、ランドロフはソファから腰を上げる。
「──私はこれから交渉の会談の準備を始める……。申し訳ないが私はここで失礼させて貰う」
「ああ、悪いなランドロフ。頼んだ」
「ランドロフ殿下、何かあれば俺達にも声を掛けて下さい」
「ありがとう。では失礼する」
ランドロフは、話し合いを終えるとソファから立ち上がり三人へ挨拶を行うと扉へと向かって行く。
先日の軍法会議の際に、この国で王族の血を引き、今現在国政に関われる王族はランドロフのみとなってしまった。
その為、ランドロフは関係各所とのやり取りや国政、市政の暴動に関する対応で毎日を忙しく過ごしていた。
時間がいくらあっても足りないくらいだ、と嘆いているのを知っているノルトは、国内のみならず国外への交渉や会談にまで関わらせるような事になってしまって申し訳ない気持ちを抱いたが、これも国を背負う者として仕方の無い事なのかもしれない。
ならば、ノルトはノルトでランドロフに手助けが必要な時には直ぐに手を貸そう、と思う。
ネウスはランドロフが出て行った方向に視線を向けながらほっとしたように溜息を零すと軽く体を伸ばす。
「ああ、良かった……。あの土地が手に入ればうちの者達も何とかなんだろう」
「ネウス様達の種族はこれでもう安心して過ごせるようになるんですか?」
ミリアベルの言葉に、ネウスはミリアベルの頭をぐりぐりと撫でながら「ああ」と頷く。
「力のねぇ奴は動く事が出来なくなって来てるからな……。──微量な魔力を得る事は可能になったが、それだけじゃあ当然回らねぇ。ランドロフが首を縦に振ってくれて助かった」
「──苦痛を伴わない魔道具を開発してくれれば俺も魔力を供給するのは構わないぞ?」
「……っ!私もですっ!全然少ないかもしれませんが、その……っ、痛いのが無ければいくらでも!」
ミリアベルとノルトの言葉にネウスは嬉しそうに笑顔を見せると、二人の肩を抱き寄せて声を上げて笑った。
あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか。
イルムドは虚ろな瞳で地面に横たわったまま上空をただただ見つめる。
「リスティアーナ……。リスティアーナ。リスティアーナ。早く私の前に姿を表してくれ」
何故だか分からないが、イルムドが魔力を消費すればリスティアーナが姿を表してくれる。
だが、それはリスティアーナの時もあれば、嫌な過去の記憶の時もある。
嫌な過去の場合はただひたすらに時間が経過するのを待ち続ける。
そして、嫌な過去の後は必ずリスティアーナが姿を表してくれるのだ。
イルムドが魔力を消費してから暫し時間が経った。
常ならばもうすぐリスティアーナが姿を表す筈である。
イルムドはゆっくりと首をもたげ、周囲に視線を巡らせる。
そうすると、ある場所で見慣れた姿を見つけ、イルムドは歓喜の表情を浮かべると地面を這ってリスティアーナの名前を何度も何度も呟きながらその方向へと向かって行った。
真っ白な世界で、繰り返し繰り返し悪夢と幸せな夢を見続ける。
魔力を消費し続ける限り、幸せな夢を見られ続けるのだ。
イルムドは、その命が尽きるまでいつまでもいつまでも永遠に繰り返した。
そして、同じような空間で同じような目に合っている者達も複数いるのはネウスだけが知っている。
「──はぁ?ミリアベルを何でノルトの別邸に連れて行くんだよ?普通は自分の家に戻すだろう!?そのままお前、自分の権力でミリアベルを囲うつもりか!?」
「──違う違う違う!ミリアベル嬢が暮らしていた部屋から荷物を伯爵邸に戻さなきゃならないだろう!?一度俺の邸に戻るだけだ……!」
ぎゃいぎゃいとミリアベルは背後で言い合っている声を聞きながら、苦笑する。
ランドロフとの話し合いが終わり、王城を出た後はどうするか、と言う話になった時にノルトが一度邸へ戻ろう、と口にした瞬間から言い合いが始まってしまった。
前を歩くミリアベルに追いつき、ネウスはミリアベルの肩を掴んで振り向かせる。
「なあ、ミリアベル!俺の邸も過ごしやすいぞ、一度泊まればいい!」
「──へ!?」
「やめろやめろ!堂々とそう言う事を言うな!」
「別に下心ないぞ!純粋に泊まりに来て欲しいだけだ!」
「そんな事ないだろう!?男がそう言って女性を誘うのは──!」
ミリアベルを置いて、再度言い合いを始めた二人にミリアベルは声を出して笑ってしまう。
敵対していた種族同士だったのに、今ではそんな気配を微塵も感じない。
昔からの知り合いのように気安い態度でやり取りを行うノルトとネウスに視線を向けると、ミリアベルはそっとノルトに視線を向けた。
今も必死にネウスの言葉を遮り、「常識的」な言葉で諭そうとしているが、時折ぽろり、と自分の気持ちを吐露してしまっている。
「──ミリアベル!別に今好きな男も、婚約者も居ないんだろう!」
「ネウス……!そう言う問題じゃあ──……っ!」
ネウスの言葉に、ミリアベルは再度ノルトへ視線を向けると、照れ笑いのような表情を浮かべ、唇を開いた。
「──気になる方が居るので、ごめんなさいネウス様。お泊まりはちょっと……」
ミリアベルの視線と、言葉にノルトとネウスは驚愕に瞳を見開くと、素っ頓狂な大声を出した。
青空の下で、ノルトとネウスの声が響き、ミリアベルの楽しげな笑い声がいつまでも続いた。
─終─
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