【完結】婚約者に隠し子がいたようなのでお別れしたいのにお別れ出来ません

高瀬船

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「分かった、ならば直ぐに手紙を認めよう。ルーシェと、ルーシェの父君宛の二通だな」
「はい、その方が宜しいかと」

キアトの言葉に、ジェームズは使用人に指示をして食堂にペンと便箋を持って来るように伝える。
書斎に戻り、キアト一人で手紙を書かせては不安だ。
現在、キアトは伯爵家の当主代理と言う立場ではあるが不安な物は仕方ない。

修復不可能となってしまうような手紙を書かれては困る。

ジェームズは、周囲に残っていた使用人達に仕事に戻るよう指示を出すと、キアトの隣にそっと寄り添う。

「ルーシェ……先ずはルーシェだ……。直ぐに会いたいと伝えなければ……」
「それは宜しいですが、何故会いたいのか、何故会う必要があるのかをしっかりと記載しなければなりません」
「あ、ああ。そうだな……、そうだった。誤解を解きたいんだ。その為に今この家で起きている事を説明しなければ……。我が家の現状、誤解を解きたいから説明する時間をくれ、と書けばいいな??」
「そうですね。先ずはハビリオン嬢を不安にさせてしまった事に対する謝罪から書けば、その後も続けやすいかと」
「ああ。そうする」

そうして、キアトはジェームズの助言を聞きながらルーシェ宛の手紙と、ハビリオン伯爵宛の手紙、合計二通を認めると急いで封をして使用人へ手渡す。

これで、手紙は遅くとも二日後までには届くだろう。

キアトは手紙を書き終え、使用人がその手紙を持って行く後ろ姿を見つめながら今更冷静になって来て、先程までの自分を思い出し羞恥で頭を抱えた。

「──すまない、ジェームズ……。取り乱した……」
「いえいえ。キアト様が取り乱してしまうのも仕方ありません。今は様々な事が巻き起こり、頭の中が混乱してしまっているでしょう。お部屋にお戻り下さい。気分が落ち着く紅茶を用意させましょう」

ジェームズに柔らかく微笑まれ、キアトはぎこちなく笑みを返すと席を立った。

「ああ。ありがとう。紅茶を頂いたら寝るよ……」
「はい」

ジェームズは、去って行くキアトの後ろ姿を見詰めた。







自室へ戻ったキアトは、自分のベッドに腰掛け指先で眉間を軽く揉む。

「……明日は、兄上の生死を確認しに騎士団に向かわなければ……それと、伯爵家の仕事も進めなければいけないな……」

騎士団には、暫く戻る事が出来ないだろう。

当主の生死が不明なのだ。
こう言った緊急時には、騎士団の仕事を退職もしくは休職するのに必要な手続きは簡略化される。

勿論、兄が死んでしまったなんてキアトは考えていない。
きっと、何処かに流れ着いてしまって、直ぐに戻る事が出来ないのだろう。
怪我もしているかもしれない、その為に直ぐに動く事が出来ないかもしれない。

兄が、大切な女性との間に出来た子供を残して先に死んでしまうなんて有り得ない。

「そうだ……。兄上は絶対に生きている──」

そう思わないと、膝から崩れ落ちてしまいそうだ。



キアトの部屋に使用人がやって来て、紅茶を用意してくれる。
安眠効果のあるカモミールティーらしい。

(ここ数日、満足に眠れていないのもジェームズにはお見通しか……)

まだ眠るにはかなり早い時間帯だが、今少しでも仮眠しておかないと明日以降、体調に支障をきたしてしまいそうだ。

ジェームズの気遣いを有難く受け取る事にしたキアトは、カモミールティーを時間を掛けて飲み干し、ベッドに倒れ込むようにして眠りについた。







翌日。
キアトの手紙は、問題無くハビリオン伯爵家へと着いた。

ルーシェの元へも、その手紙は問題無く届いており、ルーシェは自室で軽く咳をしながらその手紙を読もうか読まないか考えていた。

「キアト様からの手紙……。話し合い……」

昨日は、怒りで頭に血が上っていたとばかり思っていたが、何だか違いそうだ。
全身が重だるいし、頭がぼーっとする。

「……やだ、熱でも出してしまったのかしら……」

キアトが赤子を抱いていたあの日、ルーシェは帰宅する馬車の中でぼろぼろと涙を零した。
泣いた事で汗をかき、馬車の窓を全開にしてしまっていたから冷たい風を全身に浴び過ぎて体調を崩してしまったのかもしれない。

話し合いをするのであれば、何日後だろうか。
今日手紙が届いたと言うのであれば翌日にでも早速キアトが訪問する可能性がある。

ルーシェは急いで手紙を開封すると、中身を取り出して広げる。

手紙には、キアトの少し癖のある文字で、先日の事についての謝罪と、あの日の事の説明をさせて欲しい、と記載されていた。
誤解があるのだ、と。

「──誤解、?」

誤解なんてあるのだろうか。

だって、あんなにあの赤子はキアトに似ていて、血縁関係だと一目で分かる。
キアトの、子供ではないのか。

自分の子供では無いのであれば、何故あの日追い掛けて来てくれた時にそう言ってくれなかったのか。
疚しいことがあって、どうにか誤魔化そうとしていたではないか。

「──ああ、駄目だわ熱が……」

熱が上がってきた。

ルーシェはふらり、と体を揺らすとそのままベッドへぱたりと倒れ込んだ。


キアトからの手紙には、明後日改めて伯爵邸に向かう、と文字が書かれていた。
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