9 / 27
9
しおりを挟む「分かった、ならば直ぐに手紙を認めよう。ルーシェと、ルーシェの父君宛の二通だな」
「はい、その方が宜しいかと」
キアトの言葉に、ジェームズは使用人に指示をして食堂にペンと便箋を持って来るように伝える。
書斎に戻り、キアト一人で手紙を書かせては不安だ。
現在、キアトは伯爵家の当主代理と言う立場ではあるが不安な物は仕方ない。
修復不可能となってしまうような手紙を書かれては困る。
ジェームズは、周囲に残っていた使用人達に仕事に戻るよう指示を出すと、キアトの隣にそっと寄り添う。
「ルーシェ……先ずはルーシェだ……。直ぐに会いたいと伝えなければ……」
「それは宜しいですが、何故会いたいのか、何故会う必要があるのかをしっかりと記載しなければなりません」
「あ、ああ。そうだな……、そうだった。誤解を解きたいんだ。その為に今この家で起きている事を説明しなければ……。我が家の現状、誤解を解きたいから説明する時間をくれ、と書けばいいな??」
「そうですね。先ずはハビリオン嬢を不安にさせてしまった事に対する謝罪から書けば、その後も続けやすいかと」
「ああ。そうする」
そうして、キアトはジェームズの助言を聞きながらルーシェ宛の手紙と、ハビリオン伯爵宛の手紙、合計二通を認めると急いで封をして使用人へ手渡す。
これで、手紙は遅くとも二日後までには届くだろう。
キアトは手紙を書き終え、使用人がその手紙を持って行く後ろ姿を見つめながら今更冷静になって来て、先程までの自分を思い出し羞恥で頭を抱えた。
「──すまない、ジェームズ……。取り乱した……」
「いえいえ。キアト様が取り乱してしまうのも仕方ありません。今は様々な事が巻き起こり、頭の中が混乱してしまっているでしょう。お部屋にお戻り下さい。気分が落ち着く紅茶を用意させましょう」
ジェームズに柔らかく微笑まれ、キアトはぎこちなく笑みを返すと席を立った。
「ああ。ありがとう。紅茶を頂いたら寝るよ……」
「はい」
ジェームズは、去って行くキアトの後ろ姿を見詰めた。
自室へ戻ったキアトは、自分のベッドに腰掛け指先で眉間を軽く揉む。
「……明日は、兄上の生死を確認しに騎士団に向かわなければ……それと、伯爵家の仕事も進めなければいけないな……」
騎士団には、暫く戻る事が出来ないだろう。
当主の生死が不明なのだ。
こう言った緊急時には、騎士団の仕事を退職もしくは休職するのに必要な手続きは簡略化される。
勿論、兄が死んでしまったなんてキアトは考えていない。
きっと、何処かに流れ着いてしまって、直ぐに戻る事が出来ないのだろう。
怪我もしているかもしれない、その為に直ぐに動く事が出来ないかもしれない。
兄が、大切な女性との間に出来た子供を残して先に死んでしまうなんて有り得ない。
「そうだ……。兄上は絶対に生きている──」
そう思わないと、膝から崩れ落ちてしまいそうだ。
キアトの部屋に使用人がやって来て、紅茶を用意してくれる。
安眠効果のあるカモミールティーらしい。
(ここ数日、満足に眠れていないのもジェームズにはお見通しか……)
まだ眠るにはかなり早い時間帯だが、今少しでも仮眠しておかないと明日以降、体調に支障をきたしてしまいそうだ。
ジェームズの気遣いを有難く受け取る事にしたキアトは、カモミールティーを時間を掛けて飲み干し、ベッドに倒れ込むようにして眠りについた。
翌日。
キアトの手紙は、問題無くハビリオン伯爵家へと着いた。
ルーシェの元へも、その手紙は問題無く届いており、ルーシェは自室で軽く咳をしながらその手紙を読もうか読まないか考えていた。
「キアト様からの手紙……。話し合い……」
昨日は、怒りで頭に血が上っていたとばかり思っていたが、何だか違いそうだ。
全身が重だるいし、頭がぼーっとする。
「……やだ、熱でも出してしまったのかしら……」
キアトが赤子を抱いていたあの日、ルーシェは帰宅する馬車の中でぼろぼろと涙を零した。
泣いた事で汗をかき、馬車の窓を全開にしてしまっていたから冷たい風を全身に浴び過ぎて体調を崩してしまったのかもしれない。
話し合いをするのであれば、何日後だろうか。
今日手紙が届いたと言うのであれば翌日にでも早速キアトが訪問する可能性がある。
ルーシェは急いで手紙を開封すると、中身を取り出して広げる。
手紙には、キアトの少し癖のある文字で、先日の事についての謝罪と、あの日の事の説明をさせて欲しい、と記載されていた。
誤解があるのだ、と。
「──誤解、?」
誤解なんてあるのだろうか。
だって、あんなにあの赤子はキアトに似ていて、血縁関係だと一目で分かる。
キアトの、子供ではないのか。
自分の子供では無いのであれば、何故あの日追い掛けて来てくれた時にそう言ってくれなかったのか。
疚しいことがあって、どうにか誤魔化そうとしていたではないか。
「──ああ、駄目だわ熱が……」
熱が上がってきた。
ルーシェはふらり、と体を揺らすとそのままベッドへぱたりと倒れ込んだ。
キアトからの手紙には、明後日改めて伯爵邸に向かう、と文字が書かれていた。
84
あなたにおすすめの小説
私から婚約者を奪った妹が、1年後に泣きついてきました
柚木ゆず
恋愛
『お姉ちゃん。お姉ちゃんのヌイグルミ、欲しくなったの。あたしにちょうだい』
両親に溺愛される妹・ニナは私が大切にしている物を欲しがり、昔からその全てを奪ってきました。
そしてやがては私から婚約者を奪い、自分が婚約者となって彼の家で同棲を始めたのです。
ですが、それから1年後。
『お姉様助けてっ! あの男をどうにかしてっ!!』
そんな妹が突然帰ってきて、いつも見下していた私に様付けをしながら泣きついてきたのです。
あちらでは仲良く、幸せに暮らしていたはずなのに。何があったのでしょうか……?
私を捨てた元婚約者は、新しい恋人に飽きられてきたらしい
柚木ゆず
恋愛
「シルヴィー、悪いなっ。君との婚約は、この時をもって解消する!」
「聞くがいいシルヴィーっ。なんと俺は、ロティナ様にお眼鏡にかなったのさ……!!」
ハヌエ子爵家の嫡男、シモン。彼は侯爵令嬢ロティナから告白されたことにより、上機嫌で子爵令嬢・シルヴィーとの婚約を解消しました。
有力な侯爵家と関係を持てることになり、大喜びで浮かれるシモンでしたが――。彼の幸せは、長くは続かないようです。
逆行令嬢の反撃~これから妹達に陥れられると知っているので、安全な自分の部屋に籠りつつ逆行前のお返しを行います~
柚木ゆず
恋愛
妹ソフィ―、継母アンナ、婚約者シリルの3人に陥れられ、極刑を宣告されてしまった子爵家令嬢・セリア。
そんな彼女は執行前夜泣き疲れて眠り、次の日起きると――そこは、牢屋ではなく自分の部屋。セリアは3人の罠にはまってしまうその日に、戻っていたのでした。
こんな人達の思い通りにはさせないし、許せない。
逆行して3人の本心と企みを知っているセリアは、反撃を決意。そうとは知らない妹たち3人は、セリアに翻弄されてゆくことになるのでした――。
※体調不良の影響で現在感想欄は閉じさせていただいております。
※こちらは3年前に投稿させていただいたお話の改稿版(文章をすべて書き直し、ストーリーの一部を変更したもの)となっております。
1月29日追加。後日ざまぁの部分にストーリーを追加させていただきます。
魅了の魔法をかけられていたせいで、あの日わたくしを捨ててしまった? ……嘘を吐くのはやめていただけますか?
柚木ゆず
恋愛
「クリスチアーヌ。お前との婚約は解消する」
今から1年前。侯爵令息ブノアは自身の心変わりにより、ラヴィラット伯爵令嬢クリスチアーヌとの関係を一方的に絶ちました。
しかしながらやがて新しい恋人ナタリーに飽きてしまい、ブノアは再びクリスチアーヌを婚約者にしたいと思い始めます。とはいえあのような形で別れたため、当時のような相思相愛には戻れません。
でも、クリスチアーヌが一番だと気が付いたからどうしても相思相愛になりたい。
そこでブノアは父ステファンと共に策を練り、他国に存在していた魔法・魅了によってナタリーに操られていたのだと説明します。
((クリスチアーヌはかつて俺を深く愛していて、そんな俺が自分の意思ではなかったと言っているんだ。間違いなく関係を戻せる))
ラヴィラット邸を訪ねたブノアはほくそ笑みますが、残念ながら彼の思い通りになることはありません。
――魅了されてしまっていた――
そんな嘘を吐いたことで、ブノアの未来は最悪なものへと変わってゆくのでした――。
なんでも欲しがる妹が、姉の婚約者を奪おうとした結果
柚木ゆず
恋愛
あたしの姉さん・サーラは、昔から物分かりが悪くて意地悪な人。小さな頃はヌイグルミを欲しいってねだっても譲らないし、今は婚約者のフェリックス様が欲しいと頼んでも言うことを聞かないの。
だからあたしは魅了の魔法をかけて、サーラ姉さんから婚約者を奪うことにした。
ふふふっ。魅了は大成功で、今のフェリックス様はあたしに夢中。もうすぐ、姉さんはポイッと捨てられちゃう――あれ……?
フェリックス様の、様子がヘン……?
お姉様を泣かせましたね?
柚木ゆず
恋愛
ルナミアスお姉様は半年前にザロットス伯爵家の嫡男アントワーヌ様と婚約を交わし、そんなお姉様はいつも『わたくしは子爵家の娘なのに、とてもよくしていただいている』『アントワーヌ様はわたくしが嫌な気持ちになることを絶対に仰らない、本当にお優しい方なんです』と口にしていました。
ですが、ある日のこと。アントワーヌ様とランチをしてお屋敷に戻ってきたお姉様は涙を流していて、お父様達が理由を聞いても何を言わず部屋に閉じこもってしまったのでした。
いつも周りに心配をかけないようにするお姉様が、こんな風になってしまうだなんて。アントワーヌ様と過ごしている時に、相当なことがあったようです。
何があったのか、詳しく調べてみないといけませんね。
※体調不良が酷くしっかりとお返事ができないため、現在感想欄を閉じさせていただいております。
お姉様、今度は貴方の恋人をもらいますわ。何でも奪っていく妹はそう言っていますが、その方は私の恋人ではありませんよ?
柚木ゆず
恋愛
「すでに気付いているんですのよ。わたくしやお父様やお母様に隠れて、交際を行っていることに」
「ダーファルズ伯爵家のエドモン様は、雄々しく素敵な御方。お顔も財力も最上級な方で、興味を持ちましたの。好きに、なってしまいましたの」
私のものを何でも欲しがる、妹のニネット。今度は物ではなく人を欲しがり始め、エドモン様をもらうと言い出しました。
確かに私は、家族に隠れて交際を行っているのですが――。その方は、私にしつこく言い寄ってきていた人。恋人はエドモン様ではなく、エズラル侯爵家のフレデリク様なのです。
どうやらニネットは大きな勘違いをしているらしく、自身を溺愛するお父様とお母様の力を借りて、そんなエドモン様にアプローチをしてゆくみたいです。
格上の言うことには、従わなければならないのですか? でしたら、わたしの言うことに従っていただきましょう
柚木ゆず
恋愛
「アルマ・レンザ―、光栄に思え。次期侯爵様は、お前をいたく気に入っているんだ。大人しく僕のものになれ。いいな?」
最初は柔らかな物腰で交際を提案されていた、リエズン侯爵家の嫡男・バチスタ様。ですがご自身の思い通りにならないと分かるや、その態度は一変しました。
……そうなのですね。格下は格上の命令に従わないといけない、そんなルールがあると仰るのですね。
分かりました。
ではそのルールに則り、わたしの命令に従っていただきましょう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる