【完結】婚約者に隠し子がいたようなのでお別れしたいのにお別れ出来ません

高瀬船

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──明日!?

父親は、ルーシェから言われた言葉を心の中で繰り返し、情けない悲鳴を上げそうになってしまったのを何とか飲み込んだ。

(待て……。明日連絡が来る、と言う事は数日以内にキアト殿はこの伯爵邸に来る事になる。ルーシェの感情が落ち着くだろうか?いや、万が一落ち着いたとしても、再度キアト殿の顔を見れば再度怒りが再熱してしまうかもしれない……っ)

父親は瞬時に頭の中で様々な事を考えるが、時間を置いたとしても、この件に関しては事態が好転する事は無さそうだ。

(それならば、ルーシェと会う前に事前に私の書斎に来て貰い、事の顛末をキアト殿からも聞かなくてはいけないな……)

先程、ルーシェはキアトの事を"キアト様"ではなく、"キアト・フェルマン卿"と呼んだ。
とても他人行儀なその呼び名に、父親は自分の背筋がすうっと冷たくなる感覚に陥る。

自分がどうにかしなくては。
そうしなければ、娘は本当にキアトと婚約解消を行ってしまうだろう。

そうなってはいけない。
想い合う二人がすれ違い、別れてしまうのは見過ごせないのだ。

父親は、ルーシェにバレてしまわないようにこっそりと溜息を吐き出すと額を自分の手のひらで覆った。














「──手紙を……っ!直ぐに出すから伯爵家に届けてくれ……っ」

キアトはフェルマン伯爵家に戻って来るなり、馬を厩舎に繋げ、転がるように邸の玄関に駆け込んだ。
血相を変えて戻って来たキアトに、何があったのか、と使用人達が心配するように集まってくる。
その中には、急ぎ赤子の為に手配した乳母もキアトの憔悴ぶりに心配そうに赤子を胸に抱きながら様子を見に玄関まで降りて来ていた。

「キアト様。どうされましたか、先ずは落ち着いて下さい」
「ジェームズ……」

伯爵家に古くから仕える、使用人達を束ねる家令のジェームズが、キアトを落ち着かせるように側に寄り、背中を摩ってくれる。

今はもう他界してしまっているが、自分の両親よりも年齢が上のジェームズに、キアトは自分の中で勝手に父親のように感じている相手だ。
白髪混じりの短い髪の毛を、ぱりっと後ろに固め、いつも困った事があれば相談していたジェームズ。

幼い頃に、時には兄のように父親のように接してくれたジェームズは、とても頼りになる存在で、キアトがついつい弱音を吐いてしまう唯一の存在だ。

「ジェームズ……俺はどうしたら、このままではルーシェに婚約解消されてしまう……」
「──っ何事ですか、坊ちゃん……!詳しくお話下さいませ……!」

キアトがへにょり、と情けなく眉を下げてそう吐き出すと、予想だにしない言葉が自分の主から告げられて、ジェームズも動揺からかついつい昔の呼び名でキアトを呼んでしまう。

キアトの周囲には、使用人達が集まっており、そのキアトの発言は勿論全員の耳に入ってしまい一瞬にして周囲は阿鼻叫喚の地獄と化してしまった。



伯爵家当主が赤子を連れ帰って来た事から始まり、その当主の生死が不明で、更には次男であるキアトの婚約が解消されそうになっている。

ここ数日で、伯爵家は一体全体どれだけの危機に陥ればいいのだろうか。

順調だと思われていた伯爵家同士の婚約が今まさに白紙に戻されようとしている。
そんな事が起きれば、婚約者を愛しているキアトがどうなってしまうか。

「ぼ、坊ちゃん……!今は現状整理が必要です……!このジェームズに詳しくご説明を……!」

わたわたと使用人達は動き、一先ず一番近い食堂にキアトを移動させ、その場でキアトから状況を説明してもらう。

ジェームズの言葉に従い、キアトがぽつりぽつりと言葉を返し、全ての話を聞き終わったジェームズは天井を仰ぐように眉間を抑えた。

キアトから聞いた話を要約すれば、二人は完全にすれ違ってしまっている。
誤解に誤解を重ね、そしてキアトが言葉足らずなせいでルーシェの誤解が解けず、婚約解消の話がチラついてしまっている、と言う何とも言い難い状態である。

だからこそ、混乱していたキアトは伯爵邸に戻るなり手紙の準備を、と言ってきたのだろう。

「大丈夫です、キアト様。先ずは水を飲んで落ち着かれて下さい」
「あ、あぁ……すまない」

ジェームズは自分の頭の中を整理整頓するとゆっくりとキアトに向かって話し掛ける。
先程は自分も動転してキアトに向かって失礼な呼び名で呼んでしまったが、それは一先ず横に置いておく。

「お話を聞きます限り、お二人は小さな勘違いから擦れ違ってしまわれただけでございます。その勘違いを正せば、直ぐに解決致します」

だから安心してくれ、と言うようにジェームズは目尻に皺を刻んでにっこりとキアトに笑い掛ける。

そうなのだ。
小さな誤りを訂正すれば、この件はすんなりと解決する。
だが、解決する為にはこの伯爵家で起きた事を全てあちらの家に話さなくてはいけなくなるだろう。
話さなければ婚約は解消される。
そもそも、その内全て周囲に知れ渡ってしまうのだ。
それならば、将来キアトの妻となるルーシェには何も包み隠さず素直に、正直に全て話してしまえばいい。

その為には。

「キアト様。ハビリオン嬢との話し合いの前に、ハビリオン伯爵と先にお会いし、フェルマン伯爵家の現状を包み隠さずお伝えするのが宜しいかと」
「──フェルマン伯爵に?ルーシェに一刻も早く会わなくてはいけないのにか……?」
「ええ。先にフェルマン伯爵に事情をご説明しておけば、キアト様が上手くご説明出来なかった際も、それとなく手を貸して下さるでしょう。キアト様が説明をするのはフェルマン伯爵が先の方が良いかと」

ジェームズは、確かな確信を持ってそう言葉を紡いでいる。
その事をしっかりと理解したキアトは、ジェームズの瞳を見返しながら力強く頷いた。
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