素直になれない皇女の初恋は実らない

高瀬船

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翌朝。
いつものように目覚め、シェリナリアの頭がまだ覚醒しない内に身支度を行うメイドが入室する。

「皇女様、おはようございます。本日はいいお天気でございますよ」
「おはよう……。ええ、そうね……。とってもいいお天気……」

シェリナリアのふにゃり、とした声音が小さく響く。
だが、それもいつもの事なのでメイド達は気にせずにシェリナリアの身支度へと掛かっていく。
服の着替えを手伝い、髪の毛を纏め、化粧を施していく。
メイド達が身支度をしてくれている内にシェリナリアの目も覚めて来て、シェリナリアは昨日考えた事を思い出す。

(今日は、この後……支度が終わったらカイルに一度話しをしないと……。確か夜警の後は仮眠を取るのよね……?どうしようかしら……一度話がある事は伝えておかないと)

シアナとカイルの交代の際にこちらに声を掛ける筈である。
その際に、カイルに午後話があるから時間を取って欲しい事を伝えれば大丈夫だろう。

「皇女様、お待たせ致しましたわ。終わりました」
「いつもありがとう」

シェリナリアの支度が終わったのだろう。
後ろで髪の毛を纏めていたメイドが鏡越しにシェリナリアと目を合わせて微笑む。
シェリナリアも、鏡越しにメイドに向かって微笑むとそっと腰を上げた。

「それじゃあ、カイルを読んでもらえる?」
「かしこまりました、皇女様」

シェリナリアの言葉に、メイドが返事をすると一礼して部屋を出て行く。
メイドが出て行ってから、程なくして扉がノックされる。
メイドに話されたカイルだろう。

「どうぞ」
「失礼致します」

シェリナリアが扉に向かって声を掛けると、カイル本人の声が聞こえて来て、扉がゆっくりと開かれる。

パタン、と音を立てて扉が閉じられると室内にはシェリナリアとカイルの二人きりとなる。

何故自分が呼ばれたのか、検討がつかないカイルが不思議そうな表情を浮かべている。

「皇女様、お話がある、との事でしょうか?」
「──ええ。きちんとした話はまたあとでいいのだけれど……。交代した後、これから休憩よね?休憩が終わったらまたこの部屋に来て頂戴?少しカイルと話したい事があるの」
「私に、ですか?……かしこまりました。後ほど、お声掛けさせて頂きます」

カイルが了承してくれた事に、シェリナリアはにっこりと微笑むと、「よろしくお願いね」と声を掛けた。
カイルは、何故自分がシェリナリアに呼ばれたのか分からず首を捻る。

(昨日の件は、お話が終わっているし……何の話だろうか……。あちらの国へ行った際の警備の確認か……?)

勿論カイルは、シェリナリアがあちらの国へ嫁いだ後も専属護衛として着いて行くつもりである。
専属護衛の騎士であれば今後もシェリナリアの身辺を警護する事が出来る。
シェリナリアの侍女も二人程共に着いて行く事が出来るが、母国から着いて行く者は侍女と専属護衛を入れて四人だけだ。
それ以外、身の回りの世話や、王弟であるラシュディオンの妻になるシェリナリアの身辺を護る騎士は向こうの国、ドレスト王国の人間になる。

カイルはシェリナリアから退出していい、と声が掛かると一礼し、そのまま部屋から退出した。

(皇女様をしっかりとお守りしなくてはいけないな──……)

あの王弟の視線を思い出して、カイルは強くそう自分に誓うとまっすぐ廊下の先を見据え、シアナと交代をして自室へと戻った。






部屋に戻ってからすぐベッドへ横になった。
そうして、数時間だけ仮眠をするとカイルはぱちり、と目を覚ました。

むくり、とベッドに起き上がり前髪を払う。

「──まだ、少し早いが皇女様の元へ向かうか?」

交代前に、シェリナリアから話があると言われた事が頭の隅に残っていたのだろうか。
その事が気になり、普段より少し早めに目が覚めてしまったようだ。

起きてしまったのならば仕方ない、とカイルはそのまま起き上がると少し早めにはなってしまうがシェリナリアの元へ向かう為に着替えを行い、シェリナリアの自室へと向かう為に身支度を終えると部屋を出て行った。

カイルはまさか、この先向かったシェリナリアの部屋で専属護衛を辞めるか、辞めないかと言う話をされるとは思わずにいた。
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