素直になれない皇女の初恋は実らない

高瀬船

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「きな、臭い……?どう言う事ですか」

アレックスの言葉に、カイルは驚きに目を見開きオウム返しのように言葉を返してしまう。

カイルの言葉を聞いてから、アレックスはちらりとカイルの後方にいた自分の家の護衛へと視線を向けるとその護衛に向けて唇を開く。

「暫しカイルを借りる。しっかり見張っていてくれよ」
「──は」

アレックスの言葉に、公爵家の護衛はぴしりと姿勢を正すとアレックスに向かって騎士の礼を取った。

その姿を見ると、アレックスはシェリナリアの隣の部屋の扉へと近付くと扉を開き、カイルへ中に入るように促してくる。

「アレックス様……」

カイルが戸惑いの表情を浮かべているのをアレックスは自分の肩をひょいと竦めただけで、カイルの背中をぐいぐいと押して部屋へと押し込んだ。

「じゃあ、頼んだよ」

アレックスは扉から半身だけをひょいっと表すと、廊下に控えている護衛に軽く手を上げてそのまま扉を閉めた。






ぱたん、と扉が閉じられた音が聞こえる。
カイルは戸惑いそのままに部屋に入れられた状態のまま、その場で直立したままアレックスに視線を向ける。

「さて、そっちのソファーに座ってくれ。少し話が長くなりそうだからな」
「──分かり、ました……」

アレックスに座るように促され、カイルも大人しくその言葉に従う。

公爵家の嫡男であるアレックスが、いくら馴染みのある相手だからと言って簡単に二人きりになるのは如何なものか。
護衛もすんなりと守るべきアレックスをカイルに任せて同席しないなんて、とカイルは考え込んでしまう。

自分だったら、守るべき主人をいくら見知った者とは言え、二人きりになんてしないのに、と自然と考えてしまって、その考えは不敬だ、と頭を横に振った。
目の前のアレックスがシェリナリアに危害を加える人物ではない事は分かっているが、自然とそう考えてしまった自分に違和感を覚える。

「──さて……。先程のドレスト国の事だが……」
「……っはい」

アレックスが話し始めた事で、カイルは姿勢を正すと先程までの思考を一旦消す。

「一先ず、シェリーには明日体調を崩してもらって我が公爵邸にもう一泊か二泊して貰う。その間に決定的な報告が上がればいいのだが……。もし俺の勘違いや早とちりで済めばいいのだが……」
「ちょ、ちょっとお待ち下さい……!皇女様は明日この地を出発致します……!この先の行程が狂ってしまいます──」
「それは承知の上だ。……下手をすればシェリーはこのまま帝国に戻る事が出来なくなるぞ」
「──え?」
「いいか、カイル良く聞いてくれ。あの国は最近他国から大量の火薬や鉄を購入している。日持ちのする食料の開発、製造にも着手し始めていると言うのも密偵から報告が上がっている。そして道路の整備も至る所で始まっている」
「それ、は……」

アレックスから聞かされた言葉に、カイルは唖然としてしまう。

「その"準備"は誰が行っているのかまではまだ掴めていないが、"何の為に"行われているのかは簡単に想像出来る」
「ええ。その内容から十中八九戦争の準備を行っているのでしょう……」

だが、何処と?
カイルは必死にシェリナリアが嫁ぐ予定のドレスト国の外交や同盟国について思い出して行く。

ドレスト国は他国との関係は悪くない。
同盟を結んでいる国も多く、今更諸外国と争いを起こしてもデメリットの方が上回るだろう。

「そうすると、国内……?」

カイルがポツリと呟くと、アレックスが真っ直ぐ見つめ返して来る。

「だが、何故今更国内で内戦など……!」

カイルが慌ててソファから立ち上がると、アレックスは自分の眉間を揉み込むようにして唇を開く。

「今まで水面下では穏やかだったが、それが崩れるだろう……。とある事柄によって……」

アレックスの言葉にカイルはハッとして視線を向けると唇を開いた。

「皇女様の、輿入れですか……」
「ああ。帝国の皇女であるシェリーが王弟に輿入れする。そして、その見返りとして我が国からは軍事力をドレストに渡すだろう。その軍事力が何なのか……戦争に必要な物資なのか、人なのかは分からないが……」
「それを手に入れたら動く者がいる、とアレックス様はお考えなのですか?」

未だに信じられないという気持ちのまま、カイルはアレックスに向かって言葉を紡ぐ。
カイルの言葉に、アレックスも「俺の考え過ぎならいいんだけどな」と眉を下げて笑う。

「今回、シェリーの婚約の話が急だったからあまり時間が無くてしっかりと調べられていないから何とも言えないが、憂いは取り除いておいた方がいいだろう?」

アレックスの言葉に、カイルはガツンと頭を殴られたような衝撃を覚える。

シェリナリアが婚約し、他国へ嫁ぐと言う事を初めて聞いた時、自分は何をしていたのだろうか。
嫁ぎ先であるドレスト国の事を調べる、など少しも頭に浮かばなかった。
表の評判ばかりをそのまま鵜呑みにしてしまっていた自分がとても恥ずかしく思える。

「──アレックス様は、ドレスト国を調べておられたのですね……」
「ああ、大事な幼馴染の結婚相手だからな。シェリーには幸せな結婚生活を送って欲しい。相手をしっかり調べるのは大事な事だろう?」
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